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産業レポート2015.05.15

国民皆保険で広がるビジネスチャンス!

地域:全国

テーマ:保健医療社会保険

カテゴリ:ライフスタイルの変化

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国民の健康意識の変化と医療費上昇

バングラデシュ政府は、上昇し続ける国民の医療費負担に歯止めをかけるべく、2012年から国民皆保険制度の検討を開始した。2032年までに国民の全てが健康保険に加入する国民皆保険の実現を目標とし、医療費の政府負担を現行の3割から7割に引き上げる計画だ。まだ、政府負担の財源確保など課題を多く抱えるが、2014年から国内3つの地域の3,000世帯で健康保険のトライアルが開始されており、4800万人の貧困層から優先的に保険加入を進めていくという。

少し古いデータであるが、バングラデシュの平均的な一世帯あたりの月間医療費支出額は、2500タカ(日本円で約3,800円)程度で、これは平均の世帯収入である11,500タカ(日本円で約16,500円)の20% を超える支出割合である。(出典: バングラデシュ統計局, Household and Income Expenditure Survey 2010)また、これは別の統計データとなるが、WHOによれば1997年からの15年間で一人あたりの年間医療費は3.5倍に跳ね上がっている。バングラデシュの人口の約3割を占める4,800万人の貧困層にとって、このような医療費の負担はとても重いものとなっているのだ。

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この医療費の上昇は、バングラデシュの人々を巡る健康や医療事情の変化を反映している。例えば、この20年間でバングラデシュ人の死亡要因が大きく様変わりしているのだ。1990年代においては、下痢、マラリアや結核などの感染症が死因の6割をしめていたが、2010年になると感染症の割合が半減し、代わって首位に躍り出たのは心臓病などの生活習慣病である。

感染症が半減したのは、政府や国際機関・NGOなどによって農村の保健衛生に関する啓蒙活動が功を奏したことと、遅々としながらも医療に関するインフラが整いつつあることが要因だ。一方、心臓病などの生活習慣病が多くなっているのは、国民の所得が増え、ライフスタイルが変化する中で食生活も変わり、塩分の過剰取得や肥満が広まっていることが背景にある。

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こうした健康に関する変化は、医療の担い手と治療の方法に変化を与えている。

感染症対策は、錠剤による治療が中心で、予防接種や栄養状態の改善に関する啓蒙活動などはNGOやボランティが中心に行ってきた。こうした活動に掛かる費用は、国際機関や慈善団体の支援によってなされてきており、個人が負担する費用は少なくて済んだ。しかし、心臓病や脳卒中などの治療には専門の医師と適正な医療機械を必要とする。医師の診断に加え、X線やCTスキャンによる検査には多額の費用が必要で、手術を行うと入院や通院で更にコストがかさむ。

ダッカの市内の病院の事例では、ガン治療に75,000タカ(日本円で107,000円)、心臓病には50,000タカ(日本円で71,000円)かかるという。日本の医療費に比べれば非常に低いが、バングラデシュでは平均世帯年収の数倍になる。このような高額の医療費を一般の庶民は負担できない。こうした事情から、政府による医療費負担の必要性が求められているのである。

求められる健康保険制度

現在、バングラデシュでは健康保険普及率は1%に満たないという。日本では1961年(昭和36年)に国民皆健康保険制度が始まり、全ての国民に医療サービスが行き渡ったが、新興国、特にアジア地域に普及を始めたのは最近のことである。

例えばタイでは2002年、ベトナムでは2005年から始まったばかりであるし、インドネシアでは2014年に健康保険制度改革法案が可決し、2019年からの開始を発表したばかりだ。そして、インドやパキスタン、バングラデシュのように健康保険制度自体が整備されていない国も多い。そのような国では民間の健康保険を利用するほかないが、値段が高く、利用できるのは一部の富裕層に限られる。

こうした状況に対し、民間レベルの動きも始まっている。バングラデシュの著名なNGOであるBRACでは本部と傘下のソーシャル・エンタープライズの従業員に対し、独自に健康保険の提供を2012年より開始。年間10万タカ(日本円で約143,000円)までの医療費の9割をBRACが負担し、従業員の負担は1割、月額130タカ(日本円で約185円)で利用できる。

また、BRACはマイクロ・ファイナンスのネットワークを活用したマイクロ・インシュランスという貧困層向けの健康保険の提供を2010年より開始している。農村の女性を対象に年間240〜360タカの保険料で、出産に要する入院と通院に伴う医療費を全額支給するサービスだ。現在は、保険の対象を妊娠と出産時に限定しているが、今後、対象範囲を拡大していく予定であるという。

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急拡大が予想される医療関連産業

日本では国民健康保険制度が1938年(昭和13年)7月に施行された。当初、市区町村が健康組合を組織し、加入は任意であった。戦後、国民皆保険制度へ向けて準備が行われ、1961年(昭和36年)に制度が導入された。以後、誰もが医療にアクセスできるようになり、医療費は加速度的に増加していった。同時に医療薬や医療機器の市場が拡大してくことになる。

2032年という目標は、確かに遠い先のように思える。しかし、今年生まれた子供が17歳になるときに、2億人近い全国民が、病気やけがをした時にきちんとした治療を受け、薬を飲める時代がバングラデシュに到来するのである。実現に向けての準備は端緒についたばかりであるが、これからバングラデシュの医療事情は大きく変化していくことは間違いない。それはビジネスという視点で見れば、人口2億人による数十兆円に上る新たな市場づくりのプロセスでもある。こうした変化は、日本企業にとっても新たなビジネスチャンスを見いだす機会となるであろう。

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