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産業レポート2015.06.17

バングラデシュで冷蔵庫が売れています!

地域:全国

テーマ:その他

カテゴリ:注目分野

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急伸する冷蔵庫市場

バングラデシュの農村で「今、欲しいものは何ですか」と聞くと、口を揃えて答えるのが「電気冷蔵庫」である。今、バングラデシュでは、冷蔵庫が売れ始めている。

バングラデシュの冷蔵庫普及率は2009年にはわずか8.6%に過ぎず、販売台数も低調であった。これは当時の冷蔵庫のほとんどが輸入されたもので、価格も高く、富裕層を中心とした一握りの人々の贅沢品であったからである。一般の人々、特に農村ではとても手が届かない高嶺の花であった。ところが、近年、国産メーカーが低価格の冷蔵庫を製造販売するようになり、中間層にまで需要が高まり、販売台数が急増している。バングラデシュの業界団体の調査によると、2013年の販売台数は100万台を超え、2014年には販売台数が130万台を超えたと推測されている。

販売台数と輸入品・国産品割合

なぜ、ここにきて冷蔵庫が売れ始めたのだろうか。一つにはバングラデシュの所得水準の向上により中産階級が育ってきていることが挙げられるであろう。バングラデシュの一人当たりのGNPは年間1,000ドルを2014年に上回るとされている。他の新興国に比べ、まだ低い所得水準であるが一つの大台を超えてきた。成長している新興国のベトナムが1,000ドルを超えたのは2008年、インドネシアは2003年である。人口が多いこともあり、国内市場は大きく育ちつつある。

また、人々のライフスタイルの変化も影響している。バングラデシュでも都市部を中心に核家族化が進行している。女性がオフィスや工場で働く機会も増え、日々食材を買ったり、家庭で料理する手間が負担となってきており、冷蔵庫は必須の家電となった。加工された冷凍食品も品数と量が増えており、需要の高まりを示している。

こうした市場の拡大を背景に冷蔵庫の国内製造が始まり、品質が向上し大量生産が可能となったことで、一般の庶民でも手が届くような価格帯に値段が下がった。バングラデシュの家電メーカー最大手であるWalton社は2006年から電気冷蔵庫の生産を開始しているが、2015年には総額2000万ドル(約24億円)をかけて、電気冷蔵庫の生産の新工場を立ち上げる計画だ(出典:”Walton seeks $20m German credit for expansion”,Dhaka tribune, December 22, 2014)。高まる需要に既存のラインでは供給が追いつかなくなり、今後も積極的な設備投資を行って行くという。

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農村でも高まる需要

このような電気冷蔵庫に対するニーズは、農村部にまで広がっている。無電化地域の多かった農村にも、政府の推進する自家用ソーラー・システムが広く普及することで電気が通じる農家が増えた。こうした農家が電灯や扇風機の次に買うのが液晶テレビである。そして「テレビの次は冷蔵庫」というのが一般的なニーズのようだ。

農家の人になぜ冷蔵庫が必要なのかと聞くと、冷蔵庫で肉や野菜を保存できれば歩いて数キロの先にある市場まで毎日買い出しに行かずに済む(時間が大幅に節約)という人もいれば、暑い夏にお客をもてなす冷たい水や清涼飲料水を用意しておきたいという人もいる。いずれにせよ「豊かな生活」に対する人々の渇望は、テレビの番組やコマーシャルを通じて刺激され、貧しくとも少しでも良い生活をしたいと考える庶民の心に冷蔵庫はなくてはならないものになりつつある。

日本での冷蔵庫普及の歴史

1950年代後半の日本で電化製品の3種の神器といわれたのは、白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫である。これらの製品は、一般の庶民にとって、あこがれの電化製品であり、高価で手の届かないものであったが、日本の輸出産業が成長し経済が発展する中で、人々の生活に余裕ができ、国産の大量生産による価格の低下にともない、急速に普及していった。最初に普及したのは洗濯機だったが、最も早く伸びたのが白黒テレビで1957年には3%であった保有率が、1971年には90%まで普及した。

一方、最も遅い普及だったのは冷蔵庫で、これも1959年を境に急速な普及を見せた。大ヒットした映画「3丁目の夕日」においても、威勢のよかった氷屋が、庶民が電気冷蔵庫を買って喜ぶ姿を尻目に、徐々に元気を無くして行く姿が描かれているが、これら家電製品の普及は人々の生活を改善すると同時に、地域社会や社会のあり方を大きく変えて行ったのである。

バングラデシュの場合、洗濯機は富裕層であればたいてい各家庭にあるが、農村で洗濯機が欲しいというニーズはあまり聞かない。前述したように、まず売れたのはテレビであった。そして、今、冷蔵庫が普及しようとしている。

とはいえ、まだ成長のはじまりの段階で、国際的な普及率の比較を見ても、バングラデシュには成長の余地が大きくある。

各国の冷蔵庫普及率

農村での普及の課題

電気冷蔵庫についてネックになっているのは、まだ消費電力が比較的大きいことだ。現在の冷蔵庫の標準サイズは400リットルであるが、この消費電力は100ワットである。インドでは「チョットクール」という画期的な電気冷蔵庫が農村を中心に売れ始めているが、この消費電力も60ワットで、現在の自家用ソーラー・システムの発電量からは少し大きい。

今、大きく普及している自家用ソーラー発電システムは50ワットの規格が最も多く売れているという。この50ワットで、家庭の電灯、扇風機、液晶テレビ(それぞれ15ワット)をまかなうパッケージがひとつの標準になっているが、今後の自家用ソーラー発電システムの買い替えが始まれば徐々に発電容量も増えてくるはずだ。またミニ・グリッドという村単位の新しいソーラー発電システムの実験的運用も始まっており、発電容量による制限はなくなっていくであろう。15ワット程度で機能する冷蔵庫を日本の企業の技術で開発することができれば、ビジネスのチャンスも生まれるかもしれない。

新しく育ちつつある市場だが、普及のスピードも早い。日本や中国の過去の事例でも普及が始まるとその勢いは急となる。これからの10年間でバングラデシュの市場がどこまで成長するか、楽しみである。

日本と中国の冷蔵庫普及率

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