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産業レポート2015.07.15

医療の地域格差を埋めるイノベーション!

地域:全国

テーマ:保健医療

カテゴリ:注目分野

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バングラデシュの医療サービスの状況

バングラデシュの医療事情は、さまざまな点で改善を見せている。実際、ここ10年あまりの間に感染症による死亡や乳幼児の死亡率は大きく低下した。以前は死因の6割超を占めた感染症も現在は3割にまで低下している。妊婦や乳幼児の死亡率も大きく改善した(詳しくは当ホームページの記事「バングラデシュの最新医療事情!」をご参照)。

大都市には最新設備を備えた大規模な病院が増え、お金があればきちんとした医療サービスを受けられる。医薬品についても、国内製薬メーカーの生産技術は上がってきており、海外への輸出量も増えてきている。ジェネリック薬品を中心に、値段は庶民が手が届く程度に抑えられており、農村部にいても薬局は比較的アクセスしやすい。

こうした改善を見せている医療サービスであるが、病床数や医師の数はまだまだ他国と比べて低く、開発は遅れていると言わざるを得ない。たとえば日本には170万の病床があるが、バングラデシュには7万強しかない。バングラデシュの方が人口が多いことを考えるとその数は圧倒的に少ない。実際、ダッカにある国立の大学病院に行っても、ベッドがまったく足りず、患者が廊下や階段の下で寝ている状態である。

スクリーンショット 2015-03-30 17.17.371000人あたりの医師数は日本の6分の1にすぎない。人数がすくないだけではない。地方では医療器具を扱うことができない医師も多く、たくさんの医療器具が封を開けずにホコリをかぶっているという。優秀な医師がもっと多く求められるところであるが、全国にある148の医学部/医大から毎年多くの卒業生を輩出しているにも関わらず、優秀な医師は外国に職を求め、国内に残るのは少ないとも聞く。

スクリーンショット 2015-03-30 17.20.26また看護師の数が少ないことも大きな問題となっている。医者の数より看護師が少なく、医師2人に対して看護師が一人の割合だ。これでは病院で入院しても、まともな看護を受けることは難しい。看護師についても、この数を増やすための看護学校や養成所が設立されてきており、JICAでも青年海外協力隊の看護師隊員が現場での指導にあたるなど、人材教育や技術移転に積極的に働きかけている。文化的な背景もあり、急激な改善は難しいと思われるものの、医療現場が近代化し、医療機材の活用や医師へのサポートが増えていく中で、優秀な看護師のニーズは高まっていくと思われる。

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医療サービスの地域格差

こうした医師の数や看護師の数の不足と共に問題となっているのが、医療サービスの地域格差である。日本には11万施設以上の病院や一般診療所があるが、バングラデシュでは全国に3,614施設しかない。しかも、ダッカとチッタゴンという2大都市(管区)に集中しており、農村への医療サービスは手薄になっている。人口比ではが32%にすぎないダッカに、病床数の46%が集中しているのだ。他方、ボリシャルという管区では815万人の人口に対して、病院やクリニックの数は115施設、病床は2,800弱しかない。

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高度の医療設備を持つ大病院はほとんどダッカにしかなく、農村に住む人々がそうした医療設備を利用することは簡単ではない。バングラデシュでは、死亡要因の多くを占めていた感染症が、政府や国際援助機関などの努力により大幅に減少したが、人々のライフスタイルの変化により、心臓病や糖尿病などの生活習慣病の患者が増えてきている。こうした患者は、専門の医師による診断と治療が必要となり、また治療に必要な医療器具が必要となるが、ダッカ以外の地域で適切な医療機関を身近にさがすことはできない。

地域格差をICT(情報通信技術)で埋める試み

抜本的な問題解決を短期間で行うことは難しい中、利用できるリソースを最大限活用しながら医療や健康サービスの補完的サービスに新しい手法で取り組む団体や人々が増えている。これらの新しい手法のキーワードは、ICT(情報通信技術)である。

以前より遠隔医療のコンセプトはあり、インターネットのビデオ会議を使って医者と患者をつなぐアイデアは存在していたが、バングラデシュでは数年前までインターネット通信が普及しておらず、実際のサービス展開は非常に限られたものであった。しかし、現在ではインターネットの普及率が大きく高まり、地方の農村でも手軽に高速のインターネット通信が可能な環境となっており、このインフラを使った医療サービスがさまざまに取り組まれている。

従来からある医者と患者との映像を使ったやり取りに加え、農村で体温計や血圧計などの基本的な測定機器を持ち運び、地域の人々の健康管理サービスを提供する団体が増えている。測定された健康に関する情報は、インターネットに繋がれたパソコンからサービス提供者のサーバーに送られて管理される。測定結果に異常値がある場合には、必要に応じて都市の医師とテレビ会議で診察を受けることができるというサービスである。

こうした健康測定は、いわゆる医療行為ではないが、健康診断のようなシステムがない国にあって、人々の健康状態を測る機会を提供する意義は大きい。今や生活習慣病は都会だけではなく、農村にも広がっており、血圧や血糖値を測ることで予防についての啓蒙普及にもつながる。

Aponjon

Aponjonプロジェクトのホームページより

また、携帯電話を利用した妊産婦への情報発信サービスも広がってきている。MAMA BangladeshのAponjonというプログラムでは、妊婦がプログラムに登録すると妊娠の経過に応じて、定期的に携帯電話にSMSや音声メッセージでさまざまな情報を提供するサービスだ。バングラデシュのソーシャル・エンタープライズのDnetが国内外のパートナーと組み、2012年12月に開始し、2015年2月現在すでに120万人の登録者に広がっている。このようなサービスで100万人を超えるユーザがあるのは初めてで、利用者によるサービス料に加え、さまざまな収入ソースを確保してサステナブルな事業運営を目指している。

ICTを活用した新しい医療サービス関連のサービスは、これからもバングラデシュで多様化と高度化をみるものと思われる。今までは机上の空論で終わっていたアイデアも、実現する土台が出来上がりつつあり、今後の発展が楽しみだ。

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