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産業レポート2015.08.18

注目!バングラデシュの600万の中小企業

地域:全国

テーマ:民間セクター開発

カテゴリ:注目分野

中小企業1

ルナさんの事例

バングラデシュの南部、ジョソールでノクシカタという伝統工芸を、農村の女性とともに生産して販売する女性起業家のルナさん(仮名)は、途方にくれていた。

事業がうまく行かないからではない。その逆で、品質とデザインの良さが評判を呼び、売上は毎年順調に伸びている。職人の技術も向上し、会社の士気も高い。しかし、事業を拡大する資金が足りない。1年で最も商品が売れる季節が近いのに、必要な材料の購入や在庫に掛かる運転資金が確保できないのだ。

ルナさんは、少し離れた商業地で銀行に融資を相談してみたが、「不動産の担保がなければ融資はできません」と担当者の事務的な言葉が返ってきただけだ。もちろんルナに担保に出す不動産などない。借りることができたとしても、金利は20%程度になると言う。銀行が貸し出すには、金額が小さすぎるとも言われた。

次に無担保で小額を貸し出すマイクロファイナンス機関に相談してみた。しかし、ここでも断られる。今度は借入額が大きすぎると言うのだ。マイクロファイナンスの融資は、基本的に貧しい女性に小額を貸し出すもので、ルナさんのような中小企業は対象から外れているという説明だった。

銀行からは金額が小さすぎると言われ、マイクロファイナンスからは大きすぎると言われる。結局、資金の目処が立たなかったルナさんは、事業を縮小するしかなかった。

中小企業2

中小・零細企業の悩み:ファイナンス

バングラデシュ人は、起業家精神の旺盛な民族でもある。アジア開発銀行によれば全国で600万以上の中小・零細企業があるという。日本のそれが385万社(経済産業省:中小企業白書2015年版)であることと比べると、いかに多いかわかって頂けるであろう。こうした中小・零細企業はバングラデシュのGDPの25%程度に貢献し、産業人口の75%-85%程度を雇用していると言われている。

ルナさんの事例は、こうしたバングラデシュの中小・零細企業の典型である。工場であれば生産を拡大するために、設備を購入し、材料を多く仕入れる必要があるが、資金の手当がないので、現状維持が精一杯となる。資金繰りに余裕がないので、何か事故や故障でもあれば、会社は倒産せざるを得ない。現状維持することさえ、資金がないと難しいのである。バングラデシュの中小企業は、長年、こうした悪循環に苦しめられてきたのだ。

中小企業3

中小企業支援の新しい潮流

しかし、こうした状況に今、変化の兆しが見えてきている。政府の積極的な中小企業支援策が形を見せ始め、今まで中小企業への融資に消極的であった市中の銀行も、徐々に門戸を開き始めた。これにはJICAをはじめ、世界銀行などの資金的支援という後押しもある。

代表的なのはJICAの「中小企業振興金融セクター事業」である。2011年5月に総額50億円の円借款が行われ、中央銀行を通じて、市中銀行が低利で中小企業に対して融資を行う仕組みを作った。現在、46の参加金融機関によってこのスキームが利用されている。

政府と中央銀行は、更に中小企業への融資を促進する政策を進め、急速な勢いで中有小企業への融資額・件数が増えている。例えばバングラデシュ最大のリース会社であるIDLCは、5年前にはわずか29億タカ(約45億円)であった中小企業向けの融資残高を210億タカ(約325億円)にまで増やしているという。また先日、IDLCは女性の起業家に対する特別プログラムを中央銀行の支援を受けて開発した。500万タカ(約770万円)を上限に10%という低金利(通常17%-20%)で融資する制度で、250万タカまでは無担保で貸出し、低コストで生命・損害保険を組み合わせるサービスも提供するそうだ。

中小企業4

バングラデシュの中小企業という新たな市場

こうした中小企業ファイナンス成長の理由は、単に政策の後押しというだけではなく、銀行側の事情もある。バングラデシュでは多くの市中銀行による競争が激化してきており、大きい収益を生み出す中小企業融資は魅力的なのだ。また、特に女性起業家の不良債権比率が低いことが知られ、女性のエンパワーメントの動きと相俟って、注目を集めているのだ。(前述のIDLCの場合、中小企業向け融資の不良債権比率が2.25%であるのに対し、女性起業家の場合は0.07%に過ぎない)。

バングラデシュの中小企業へのファイナンスの増加は、日本の企業にもビジネスの機会を増やす。今まで控えていた設備投資が増え、安いが性能の悪い設備ではなく、日本の性能の良い設備への需要も増えてくる可能性がある。現在の円安も追い風になるであろう。

バングラデシュの600万社の中小企業という新しい市場に注目だ。

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