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産業レポート2017.06.13

激動するグローバル経済とバングラデシュ~なぜ日本企業のソーシャルビジネスが求められるのか?~

地域:全国、

分野:全般

  将棋に「四隅の香車を見よ」という格言があります。これは攻防が起こっている場所だけに目を向けるのではなく、常に盤面全体を見渡すことが、その局面における最善手を見つけることに繋がる、という意味です。バングラデシュにおけるソーシャルビジネスでも、個々の業界動向や市場規模、或いは開発課題に関する理解を深めることは大事です。一方、今回は少し大きな視点に立ち、バングラデシュの過去、現在、未来という流れと、現在大きな転換点を迎えているグローバル経済における流れという「2つの流れ」の中で、日本企業によるソーシャルビジネスの意義を改めて考えたいと思います。

【過去】バングラデシュはどのように経済成長をしてきたのか

  バングラデシュは「停滞のアジア」「退行のドラマ」と表現されるようにi、長く最貧国として捉えられてきました。しかし1990年代以降、高い経済成長率が続いており、1990年には222ドルであった一人当たりGDPは、2000年には406ドル、2010年には760ドルとなり、2015年には1,212ドルに達しています。

スーパーの野菜棚

(出典)World Development Indicator

  この経済成長の原動力となったのが、縫製品を中心とする輸出と海外出稼ぎ労働者による海外送金でした。輸出額の対GDP比率は1980年代後半から上昇を続けている他、海外送金の対GDP比率も2000年代から急速に上昇しています。

スーパーの野菜棚

(出典)World Development Indicator

  このような経済成長により一日に1.9ドル以下で暮らす人の割合も、1991年の44.2%から2010年には18.5%にまで減少しています。その一方で、ジニ係数は、1991年の27.5から2010年には32.1まで増加しており、所得格差が拡大していることが見てとれます。

スーパーの野菜棚

(出典)World Development Indicator

【現在】激動するグローバル経済に直面するバングラデシュ

  バングラデシュが1990年代以降、輸出と海外送金により高い経済成長を達成・維持してきたことは、言葉を換えれば、バングラデシュは現在まで、人・モノ・カネが国境を越えて活発に動くグローバリゼーションの果実を享受することにより、成長を維持してきたとも言えます。一方、現在、グローバル経済では、イギリスのEU離脱やアメリカにおけるトランプ大統領の誕生など、世界各地で保護主義の萌芽が見られます。

  このような中、バングラデシュ経済は2015/16年度も7.1%を記録し、長年6%台の成長率に留まっていた「6%の罠」を突破しました。下表は今年度(2016年7月~2017年6月)における月毎の輸出額を表したものです。今年度当初8か月間(2016年7月~2017年2月)の輸出総額は1兆7,993億タカに達し、前年同期比1.6%ほど増加しました。更に同期間における縫製品の輸出額は前年同期比2.9%増加しており、今年度も縫製品が全体の輸出を牽引する状態が続いていますii

スーパーの野菜棚

(出典)Monthly Economic Trend (Bangladesh Bank)

  一方、海外送金額は、2015/16年度は前年度比1.8%減少した上、2016年1月から2017年1月まで15か月連続で前年同月を下回っている状態が続いています。これに対し新規出稼ぎ労働者は、2013/14年度は40.8万人、2014/15年度は46.2万人、2015/16年度は68.4万人と3年連続で増加しています。海外出稼ぎ労働者数が増加しているにもかかわらず、海外送金額が減少している背景は、多くの出稼ぎ労働者がHundiと呼ばれるインフォーマルな送金チャネルを活用している為と考えられていますiii 。但し、インフォーマルチャネルの送金額は、公式統計がある訳ではないので、その実態はよく分かっていません。

スーパーの野菜棚

(出典)Monthly Economic Trend (Bangladesh Bank)

【未来】「地に足のついた発展」に向けたソーシャルビジネス

  今後のバングラデシュ経済におけるリスク要因は、輸出および海外送金の減少です。イギリスのEU離脱以後、ポンド安から英国企業からの縫製品受注が減少した事例ivも出てきており、中・長期的な影響を注視していく必要があります。またアメリカのトランプ大統領の就任により、アメリカがTPPを離脱したことは、アメリカ市場でベトナム産の縫製品との競争に晒されているバングラデシュでは朗報と受け止められています 。一方、トランプ大統領が国内雇用保護の為に、輸入品に関税を課した場合の影響について懸念する声が、縫製品業界を中心に湧き上がっていますv

  このようにグローバル経済の不確実性が増す中、日本企業によるソーシャルビジネスに何が期待されているのか。バングラデシュ有数のシンクタンク(Center for Policy Dialogue)でAdditional Research Directorを務め、また京都大学で博士号の学位も取得した、バングラデシュきっての知日派有識者Golam Moazzem博士は次のように述べます。

  「このような保護主義の台頭は、グローバル経済にとってプラスにならず、世界経済の成長率は鈍化することが予想される。更に、これは巡り巡ってバングラデシュの輸出額と海外送金額を減少させる方向に働くだろう。また、このような輸出額と海外送金額の減少は、バングラデシュ国内では、農村地域における雇用問題と所得減少という問題に結びつくと考えられる。
今後のバングラデシュでは、国内資源の活用が大事になる。縫製産業以外の産業振興が焦点となり、例えば地元食材を用いた食品加工産業や都市部におけるサービス産業の成長促進が必要だ。また、日本企業の製品・技術は、このようなバングラデシュの国内資源を効率的に活用する為に求められている。」

八百屋

  Golam博士の主張は明快です。即ち、バングラデシュでは現地資源を活用し、雇用を創出し、内需を拡大することにより成長を維持するという「地に足のついた発展」が今後求められています。更に、日本企業の製品・技術も、このような文脈の中で、その活用が求められていると言えますvi
  将棋には「と金のおそはや」という格言もあります。「歩」が敵陣に入ると「と金」になりますが、飛車や角のように一足飛びに動けるようになる訳ではありません。一歩ずつしか動けない「と金」ですが、このような地道な攻めこそが、実は最も早く効果的であることをこの格言は示しています。グローバル経済の流れや変化は激しいですが、バングラデシュも日本企業も目先の事象に振り回されず、必要なことを一つ一つ地道に積み重ねていくことが大事なのではないでしょうか。


  • i 『成長のアジア 停滞のアジア』、渡辺利夫著、講談社学術文庫、2002年
  • ii 例えば、2016年上半期(2016年1月~6月)の欧州向けデニム製品の輸出で、バングラデシュは中国を抜いて第1位となった。同期間の欧州市場向けデニム製品の輸出額は5億6,797万ユーロで、市場シェアの21.18%を占めている(2017年3月19日 Daily Star紙)。
  • iii 2017年2月2日 Daily Star紙
  • iv 英国のアパレル大手のNext社は、2016年のバングラデシュからの仕入れ額は2億6,000万ドルを予定していたが、実際には1億8,000万ドルに留まったことを明らかにした(2017年1月20日 Daily Star紙)。
  • v 2017年2月2日 Daily Star紙。
  • vi コーネル大学のスチュアート・L・ハート教授も、貧困層を対象としたビジネスの必要性について「この十年間で急激に発展したグローバル資本主義は、主として第三世界における自然破壊、労働搾取、文化的主導権、地域の自治喪失などの問題をもたらしている(『未来をつくる資本主義』、英治出版、2008年)」と述べており、Golam博士の指摘と通底する。

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