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産業レポート2017.08.17

ソーシャルビジネスと「コミュニティー」
~いかにコミュニティーとの接点を見出すのか?~

地域:全国

分野:全般

 持続的なソーシャルビジネスの構築に向けて、コミュニティーの役割が強調されます。これは、途上国の貧困層は日本を始めとする先進国とは大きく異なる生活環境に居住していることから、コミュニティーの力を活用することにより、現地のニーズを密接に把握すると共に、ビジネスを現地に根付かせることで、持続性を担保することに繋がると考えられる為です1

 一方、コミュニティーの形は国や地域によって千差万別であり、日本とバングラデシュにおけるコミュニティーの在り方も大きく異なります。今回は、バングラデシュのコミュニティーの実態を踏まえつつ、コミュニティーとの接点をどのように持つべきかを考えます。

バングラデシュでは機能しづらい「協同組合」

 一般的にお金を貸すことを「信用を与える」と言いますが、お金の貸し借りは人々の信頼関係やコミュニティーの在り方が如実に表われます。例えば下図は、同じ南アジアの国で、マイクロファイナンス(農村小規模金融)が盛んなバングラデシュとネパールを比べたものです。バングラデシュでは融資残高の75%がマイクロファイナンス機関によって占められているのに対し、協同組合の割合は僅か25%ほどしかありません。一方、ネパールでは協同組合の割合が90%を超え、両国では対照的な結果が見られます。このことは、バングラデシュでは村外の人が金融サービスとしてお金を貸していることが多いのに対し、ネパールでは、自分達で貯蓄として集めたお金を協同組合の仲間に融資として貸し出していることを意味しています。

 

(出典)Microfinance Regulation Authority (バングラデシュ政府)、Department of Cooperative(バングラデシュ政府)、Nepal Microfinance Review – Microfinance rising above the turmoil-(Micro-Credit Ratings International Limited 2012)、Department of Cooperative(ネパール政府)

 

 そもそもバングラデシュでは1970年代に緑の革命の下で、農業機械や灌漑ポンプの購入に向けた融資を提供する目的で、協同組合の試みが開始されました2。このような協同組合の取り組みは最初コミラ郡で実施され、一定の成果を収めたことから、その後全国に広められました。しかし、組合長や組合幹部による組合資金の流用、不正融資や横領が見られた他、貯蓄・融資活動以外の事業においても不正経理などの問題が続出しました3。このような中、1980年代にグラミン銀行やNGOがマイクロファイナンス機関として金融サービスを提供するようになり、協同組合から融資を借りなくとも、このようなマイクロファイナンス機関から資金を借りられることから、協同組合よりもマイクロファイナンス機関の融資残高が多いという現在の状況に繋がったものと考えられます。

 

 

 このように協同組合が機能しないのは、「水管理組合」でも見られます。バングラデシュでは農業の灌漑用水を管理する為に、全国で1,118の水管理組合が存在します。この水管理組合では灌漑設備や水路のメンテナンスの他、灌漑用水の配分などについても話し合い、灌漑用水という公共財をコミュニティーで管理する為の仕組みとして期待されています。一方、水管理組合の実態に目を向けると、総じて、組合幹部は地主、政治家、ビジネスマンなど地元の有力者で占められており、組合員から集められた貯蓄は組合幹部の差配のみで融資(マイクロクレジット)として貸し出されることが多いようです。この為、協同組合では組合員のオーナーシップ(参加意欲/帰属意識)は強くありません。ある水管理組合では、水路の掘り起こしに75万タカが必要になり、組合員から寄付を募ったところ、集まった金額は僅か8万タカのみでした。この水管理組合では、617世帯が組合員として参加していることを勘案すると、この寄付額は一世帯当たり平均130タカの計算になります。

何故バングラデシュの協同組合はコミュニティーの受け皿になり得ないのか

 そもそもバングラデシュでは、グシュティ(父系同族集団)やバリ(共住集団)、ジョマジュ(自然村)など地縁や血縁に基づく伝統的なコミュニティーが存在します4。一方、協同組合は「共同で所有し民主的に管理する事業体を通じ、共通の経済的・社会的・文化的ニーズと願いを満たすために自発的に手を結んだ人々の自治的な組織」と定義され5、コミュニティーの受け皿として世界各地で活用されています。しかし、バングラデシュでは、協同組合がなかなか上手く機能しません。これは何故でしょうか。

 その理由は2つあります。1つ目は、伝統的なコミュニティーが存在するといっても、強固に組織化されている訳ではないことです。村では諍いが行った際にはマタボールと呼ばれる有力者により調停されますが、恒等的あるいは階層的な住民組織は存在しません。2つ目は、協同組合が全国に広められた際、各行政村に2つから3つの協同組合が画一的に設立されたことから、従来から存在するコミュニティーの範囲と協同組合の範囲が一致しなかった為です。この為、一つの協同組合の中に複数のコミュニティーを含むことになり、コミュニティー間の利害関係が調整されないことから、協同組合は機能不全に陥ったものと考えられます6

 このように見ると、バングラデシュのコミュニティーは捉えどころがない上に7、活用の仕方を誤ると、全く機能しないということが分かります。

コミュニティーとどのように接点を持ち活動に巻き込むのか

 このようなバングラデシュのコミュニティーを、上手く活動に巻き込む術はないのでしょうか。この点を、特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会(以下「シャプラニール」)にお話を伺いしました。シャプラニールは1972年よりバングラデシュで活動を実施しており、現在もコミュニティー防災、家事使用人として働く少女支援、中洲に居住する子供や少数民族の子供への教育支援など、幅広い領域で住民目線に立った活動を継続しています。これらの活動の経験からシャプラニールは、現地のコミュニティーと接点を持つ上で次の4つの視点を強調します。

 まず1つ目は、現地NGOとパートナーシップを組むことの重要性です。シャプラニールのプロジェクトでは、現地NGOと組んで活動を実施する形を基本としています。これは、現地NGOであれば現地のコミュニティーの状況を、より深く理解していると考えられる為です。但し、バングラデシュには数えきれないほどの現地NGOが存在し、その質も千差万別です。この為、現地パートナーを選定する際には、現地NGOの活動経歴や予算規模など定量的な情報の他に、実際に相手と話しをし、こちらが重視することへの相手側の共感の度合いや、現地住民や他のNGOからの評判などの定性的な情報も併せて収集することが大事です。

 2つ目は、コミュニティーの中で、ターゲットを絞ることです。一口にコミュニティーと言っても、その中で暮らす人々は性別、年齢、学歴などの属性により様々です。この為、コミュニティー防災のプロジェクトでは、中・高校生のグループを対象に、サイクロン警報の意味やサイクロン襲来時の避難方法などを教えつつ、近所に老人がいる場合は誰が避難を助けるのかなど実践的な課題も話し合っています。これは、大人だと色々なしがらみから考えが硬直的であることが多い中、若者であれば純粋でやる気もあるので、新しい考えを吸収し行動に移していくことが可能と考えられる為です。

 

(出典)特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会

 

 3つ目は、村人にとって身近なメディアを活用することです。家事使用人の少女支援では、少女の送り元である4か所の地方で、コミュニティーラジオを通じて、ダッカで家事使用人として働く少女達の実情を放送したところ、大きな反響が寄せられました。これは、特に農村ではラジオが身近な娯楽で、多くの人が聞いている為です。

 そして4つ目は、コミュニティーにとってのメリットを明確に打ち出すことです。家事使用人の少女支援では、都市部における支援センターの運営を町内会と協働しながら進めています。これらの町内会には、少女達を家事使用人として雇っている世帯が多く存在するので、基本的な読み書きや生活習慣を教える支援センターは、これらの雇い主世帯にとってもメリットがある為です。

 このようにシャプラニールの経験から得られる教訓は、実践的かつ具体的です。特に、町内会など既存の組織や仕組みを活用しつつ、そこに明確メリットを打ち出すことは、ソーシャルビジネスを構築する上でも有益な視点です。グラミン銀行が成功したのも、5人組という隣近所の地縁・血縁関係に、「この融資を返済すれば次は更に大きな額の融資が借りられる」という明確なメリットを打ち出した為です。日本とバングラデシュではコミュニティーの在り方は大きく異なりますが、現地パートナーの力を借りながら、現地の状況をよく把握しつつ、そのコミュニティーにとってのメリットも考えることが、持続的なソーシャルビジネスを構築する一歩になると考えられます。 

 


  • 1 『BoPビジネス3.0――持続的成長のエコシステムをつくる』フェルナンド・カサード・カニェーケ , スチュアート・L・ハート編著(監訳: 平本督太郎)、2016年、英治出版
  • 2 「農村の社会発展と協同組合‐バングラデシュの事例から‐」安藤和雄、『研究年報 協同組合 新たな胎動』川口清史編、p.153-p.173、1998年、法律文化社
    「バングラデシュにおける開発と住民参加」内田晴夫、河合明宜、『放送大学研究年報』第14号、p.49-73、1996年
  • 3 バングラデシュにおける政府系協同組合の再生‐A村の貯蓄・貸付組合の経験から‐」矢嶋吉司、河合明宣、安藤和雄、『農林業問題研究』 第127号 p.29-36、1997年
  • 4 「バングラデシュの村落における合意形成過程と農村公共施設設備」向井史郎、海田能宏、『農村計画学会誌』vol.18, No.3, p.215-9.226、1999年
    「小規模インフラ事業における行政と村落‐バングラデシュにおける事例研究‐」藤田幸一、板垣啓子、『経済改革下のアジア農業と経済発展』山本裕美編、p.161-215、1998年、アジア経済研究所
  • 5 「協同組合のアイデンティティに関するICA声明」(日本生協連訳)
  • 6 「バングラデシュの農村開発とデルタ社会」(野間晴雄、『人文地理学の広場』、p.100~p.103、2001年、大明堂)では、バングラデシュのコミュニティーに関し「農民どうしが足を引っ張り合い、権益を独占しようとする傾向が強い(p.102)」と述べている。
  • 7 「農村開発におけるマイクロ・クレジットと小規模インフラ整備」(藤田幸一、『開発援助とバングラデシュ』佐藤寛編、p.281~p.304、1998年、アジア経済研究所)では、この点について「公的なリーダーシップ、あるいは非公式にも確固としたリーダーシップが存在せず、村レベルの共同活動もほとんど観察されず、村としてのまとまりに欠けたバングラデシュの村落(p.300)」と表現している。

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