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HOME産業レポート1500万人の障害者と向き合う~『ものづくり』に挑むNGOの取組みと課題~

産業レポート2014.12.26

1500万人の障害者と向き合う~『ものづくり』に挑むNGOの取組みと課題~

地域:全国ダッカ

テーマ:保健医療

カテゴリ:注目分野

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これを是非、見てほしいーにこやかに目を細めながら、ヴァレリーさんが引っ張ってきたのは、なにやら重そうな鉄鋼製の旅行用のスーツケースのような箱である。二人がかりで箱を広げてみると、それは折り畳み式の携帯用スロープであった。

「これで車いすの人も、バスに乗ることが出来る。素晴らしいでしょう!」

バングラデシュには、バスに身体障害者用のスロープを内部に取り付けるというところもいくつか出てきているが、そうでないバスの方が圧倒的に多い。これを何とかしたいと試作した。船の解体場から出た廃棄材で作ったという。

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CRP創業者のヴァレリー.A.テイラーさん

身体障害者の治療とリハビリサービスを行うCRP(Centre for the Rehabilitation of the Paralysed)は、1979年にヴァレリーさんがバングラデシュの仲間たちと立ち上げた。最初はほんの小さなクリニックに過ぎなかったが、仲間の支援と献身的に働くヴァレリーさんの姿に感銘した多くの支援者によって、今や世界でも認められるバングラデシュ有数の障害者支援NGOとなっている。クリニックに加え、リハビリ施設、小学校、職業訓練所、言語聴覚士の専門学校など、幅広い、包括的な支援を行う組織に育っており、クリニックの拠点も全国に広がる。

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CRPが、今力を入れているのが、身体障害者用の各種ものづくりである。義足や義手といったものから、障害者用のトイレ、手回しのエレベータなど様々なものを制作している。中でも、力を入れているのが車いすの製造販売である。

従来、車いすは高価な輸入物しかなく、一部の裕福な人々だけが使えた。ヴァレリーさんは、農村に住む貧困層の人々にも購入できる車いすが必要だと考えた。「自分たちで作ろう。」

車いすと一言で言っても、それぞれの障害に応じて、形状も作り方も変わる。現在24種類の車いすを製造しており、カスタムメイドだ。両足の有無、腕の強弱、首の固定の有無、背丈や体重。特に子供用の車いすは、幼児から子供の成長に合わせてラインアップがある。

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障害者の方々を明るい環境の中で温かく迎えるCRPでは笑顔が絶えない

CRPでは、試行錯誤を重ねながら、デザインと設計を行い、手探りで車いす製造を始めた。経験の全くない分野である。失敗続きであったが、外国からの技術援助などを受けながら少しずつ生産が軌道に乗り、今や国内のトップメーカーとなるに至った。おかげで車いすは、いまや裕福な人々が独占するものではなく、一般の人々にも手が届くようになり、そのインパクトは計り知れない。

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障害者が自立するための社会づくりを目指すCRPでは、車いすなどのものづくりにも障害者を雇用している。

「課題はまだまだ山積みです。」とヴァレリーさんは言う。手探りでモノ作りをやってきたが、需要が大きく増えてきており、きちんとした増産体制が求められている。ものづくりの基本の取得から効率的な生産管理をしていく必要があるのだ。技術者のトレーニングや設備投資もしなければならない。車いすのより使いやすいデザインや品質改良もこれからの課題である。「もっと軽く、もっと安い車いすを提供したい。」

バングラデシュには、身体障害者が1500万人は超えていると言われている。この方々の車いす利用は、端緒についたばかりだ。日本の技術や生産管理の方法が、ビジネスとして生かされる市場は大きいと考えられる。バングラデシュだけではなく、南アジアの市場を見渡せば、巨大なマーケットが手つかずとなっている。

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車いすを単に販売するだけではなく、農村に戻っても不自由がないように、農家を模したセンターで、2週間の訓練も提供する。

ヴァレリーさんの夢は広がる。「ソーラーで動く車いすを実現したい。」今の車いすは、あまりに重く、腕の弱い身体障害者には負担が大きい。軽い素材の調達や機能的なデザインなど、実現には多くの試行錯誤が必要だ。CRPでは今年障害者の為のデザインコンテストも検討しているとのこと。日本の企業や大学の研究者で興味のある方は、是非お問い合わせを。

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