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HOMESDG目標1 あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる 経済成長が続く中で問われる「貧しさ」

SDG2017.12.25

目標1 あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
経済成長が続く中で問われる「貧しさ」

【バングラデシュにおける持続可能な開発目標(SDG)】

地域:ダッカ

分野:資源・エネルギー

 2015年9月、ニューヨークの国連本部で150か国を超える首脳が参加し「国連持続可能な開発サミット」が開催されました。この中で今後の指針となる「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。これは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goal: SDG)」とも呼ばれ、バングラデシュにおいても重要な道標となります。このSDGでは貧困、教育、医療・保健、雇用、環境など17の目標が定められています。今回は、このSDGの中の「目標1あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」に伴い、バングラデシュにおける現在の「貧困」に焦点を当てます。即ち、バングラデシュでは6%以上の経済成長が続いていますが、この中で何が「貧困」の問題となっているのかを考えます。

勢いを増す経済成長

 バングラデシュは長年「停滞のアジア」「退行のドラマ」と表現されるように1 、最貧国として捉えられてきました。1971年の独立当時の一人当たりの国内総生産(GDP)は僅か131ドルでした。しかし1990年代以降、一人当たりGDP急速に増加し、1990年に222ドルであったものが、2000年には406ドルに、そして2015年には1,212ドルに達しました。

(出典)World Development Indicator

減少する「貧困」と拡大する「格差」

 このように経済成長が続く中、総人口に占める貧困層の割合を表わす貧困率は、2005年の40.0%から2016年は24.3%に下落しています。また農村地域の貧困率も2010年の35.2%から2016年の26.4%に低下しました。実際、世帯当たりの平均月収は、2005年の7,203タカ2から、2010年には11,479タカに、また2016年には15,945タカに達しています。このように世帯所得は5年間で1.5倍、10年間で2倍強になっていますが一方で、所得格差を表わすジニ係数は、1991年の27.6から2010年には32.13に上昇しており、所得格差は拡大しています。

出典:Preliminary Report on Household Income and Expenditure Survey 2016, Bangladesh Bureau of Statistics

 経済成長を続け、世帯所得は増加し、貧困率は減少しているにもかかわらず、なぜ格差は拡大しているのか。現在のバングラデシュの「貧困」を解くカギは、どうやらここにありそうです。 

経済成長の中で取り残される人々

 格差が広がっている原因の一つに、経済成長の果実が全ての人々に行き渡っていない現実があります。例えば児童労働は、その一つの例です。

「14歳のAlamgirは、小型バスから飛び降りるとバスの行き先を連呼し、客集めに奔走する。数分後、座席が埋まると小型バスは発車し、彼は乗客から料金を徴収し始める。この6か月間、雨の日も晴れの日も、彼は毎日長時間にわたって、運転手の助手を務める。何故この仕事を続けるのかと尋ねると、灰色のズボンと赤いTシャツを着た彼は、乗客からの料金徴収の手を休めることなく、唇を少し曲げながら「これが大変な仕事だって?以前はレンガや重いセメントの運搬に従事していたよ」と言った。これらの仕事は、政府が2013年に指定した危険業務にあたるが、彼は農業の不作から家族でダッカ市内に移ってきてからの2年半、これらの仕事に従事してきた。彼の言葉から、金銭的な問題で彼が学校に行けていないことが伺える。」(2017年11月26日付けDaily Star紙)

 現在、バングラデシュにおける5~17歳の人口は3,965万人であり、この内、児童労働(Child Labor)に従事している子供の数は169.8万人に達すると言われています。また、この大多数(およそ130万人)は危険業務に従事していると考えられています3。更に、海外のシンクタンクがダッカ市内のスラム世帯(2,700世帯)を対象に実施した調査では、児童労働の割合は10歳児で8%であったものが、14歳では45%に跳ね上がることも明らかになっています4

(ストリート・チルドレンの施設)

 このような児童労働の背景は、子供達が学校に通えず働かざるを得ない家庭の事情があります。実際、バングラデシュの就学率は2005年の93.7%から2016年には109.3%に到達し、中途退学率も2005年の47.2%から2016年には19.2%まで減少しています。一方で、この数字は未だに5人に1人は中途退学を余儀なくされていることも意味しています。貧困率の減少は、このような困難な家庭事情の世帯が減少していることを伺わせますが一方で、およそ170万という児童労働者数は、決して少なくない数字です。このように厳しい経済事情の世帯数自体は減少しているものの、まだまだ一定規模以上の困難世帯が存在しているので、全体として「格差」は拡大している訳です。

「普通」の人々の「普通」の生活の中に潜む「貧しさ」

 一方、「普通の生活」を送っている人々の生活の中にも、「貧しさ」は潜んでいます。

「ダッカ市内の民間企業に勤めるSaiful Islamも、「他の生活物資の価格が増加する中、電力料金が上昇していることも、大きな痛手だ。」と述べる。彼は41,000タカの月収から、家賃に20,000タカを、子供たちの家庭教師代に7,000タカを支払わなければならない。このような中、50kgのお米の値段が、今年1月時点では僅か1,950タカたったものが、現在は2,800タカに達している。更に、石鹸や歯磨き粉など生活必需品に掛かる毎月の費用も、以前より3,000タカほど増加し15,000タカに達している。彼は、「以前は毎月少しずつ貯金することが出来ていたが、現在は全く貯蓄にお金を回せない」と述べた。」(2017年10月11日付けDaily Star紙)

 この記事で示されているエピソードは、都市部の生活であっても、その基盤は脆弱であることを意味しています。即ち、農業外雇用により毎月安定した収入を得られたとしても、物価の上昇により生活が圧迫されているという現実です。バングラデシュ政府が実施した世帯調査でも、世帯支出に占める食費の割合は2010年の54.8%から47.7%に下落している一方、住居費の割合は9.9%から12.4%に上昇している他、燃料・電気代も5.6%から6.1%に、また医療費も3.8%から4.5%に、それぞれ増加していることが明らかになっています5

 このような物価上昇の背景は、洪水被害による米価の高騰といった一時的要因もありますが、一方で、社会的な基礎サービスが適切に提供されていない要因も大きく影響しています。例えば医療分野では、2015年時点でウポジラ病院は全国に494か所(16,886床)ある他、コミュニティークリニックも13,070か所に設置されています。更に公的医療機関で治療を受けた患者数も2009年の1,460万人から2014年には1億730万人へと大幅に増加しています6。実際、JICAバングラデシュ事務所が約1,000世帯のBOP世帯を対象に実施した世帯調査においても、医療サービスへのアクセス改善を挙げた世帯が多く見られました。一方、この調査では、それと同時に医療費の高騰を問題視する声も多数聞かれました。即ち、医療サービスの「量」は拡充している一方で、適切な価格で適切なサービスが提供されていないという意味において「質」がまだ追いついていないということです。

 そもそも人々が生活実感を得るのは、収入水準それ自体からではなく、収入と支出のバランスにおいてです。2016年でいえば平均世帯月収は15,945タカであったのに対し、平均世帯支出月額は15,715タカですから、収入と支出は殆ど変りません。このように経済成長に伴い、富める人々は更に裕福になっている一方で、「普通の人々」の収入水準は年々増加しているものの、一方で支出額も同時に増加しており、生活は楽になっていない状況です。このような人々の生活における脆弱性も「格差」が拡大している要因の一つです。

(ダッカ市内のNGOが運営するクリニック)

「貧困」の削減に向けて何が求められているのか

 これが、経済成長が続く中における「貧困」の諸相です。経済成長から取り残された人々が、まだまだ数多く存在する他、一見すると成長の「果実」を受け取っているように見える人々の生活も脆弱性に晒されています。

 このような貧困の削減に向けてバングラデシュ政府は第7次5か年計画で「包摂的成長(Inclusive Growth)」を謳っています。これは「全ての人々を巻き込んだ(包摂した)経済成長」という意味ですが、今まで生産活動に加われていなかった人を生産活動に巻き込むことや、今まで生産活動に加われていた人々でも、その生産基盤を強化し雇用と収入の更なる安定に繋げようとする考えです。バングラデシュ政府は、このスローガンの下で、インフラ整備や教育・医療などの社会的サービスの整備、職業・技術訓練の拡充といった施策を列挙しています。

 一方、ここで重要なのは、具体的に人々の生活を向上させる為には製品・技術が必要であるということです。例えば医療分野でも、具体的な設備や機材がなければ、医療サービスの質は向上しません。このような意味でソーシャル・ビジネスは、バングラデシュの貧困削減にとって大きな意味を持ちます。人々に安価で一定品質の製品・サービスを提供すること、また、今まで市場経済で不利な立場に置かれてきた人々に安定した雇用を提供することは、ソーシャル・ビジネスだからこそ出来ることです。

(ポータブル機器による健康診断)


  • 1 『成長のアジア 停滞のアジア』渡辺利夫著、講談社学術文庫、2002年
  • 2 2017年11月のレートは1タカ=1.391円。
  • 3 Report on Child Labour Survey (CLS) Bangladesh 2013, Bangladesh Bureau of Statistics, Government of Bangladesh
  • 4 2017年11月26日付けDaily Star紙
  • 5 Preliminary Report on Household Income and Expenditure Survey 2016, Bangladesh Bureau of Statistics, Government of Bangladesh
  • 6 Health Bulletin 2015, Ministry of Health and Family Welfare, Government of Bangladesh, 2015

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