プロジェクトニュース10:プロジェクト対象3州における早期警戒警報および対策システムの評価活動

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JICA感染症早期警戒対応能力強化プロジェクト(EWARS Project)は、インドネシア保健省(MOH)と共同で、日本のFETP(実地疫学専門家養成コース)とインドネシアのFETPから専門家を招き、東カリマンタン州、バンテン州、南スラウェシ州のプロジェクト対象3州において、EWARS(Early Warning Alert and Response System、インドネシア語名称:SKDR(Sistem Kewaspadaan Dini dan Respon))のサーベイランス評価を実施した。評価活動は2023年11月6日から12月15日までの6週間(各州2週間)にわたって行われ、インドネシアにおいて感染症の監視・対応システムが効率的かつ効果的に機能しているかを評価した。その結果は12月15日のオンラインセミナーにて、インドネシアの保健省、州保健局(PHO)、県保健局(DHO)、地域保健センター(Puskesmas:プスケスマス)、FETP、および、その他の関係機関(WHO、USCDC、NIID、NCGMなど)から70人以上の参加を得て、評価の内容が共有された。

サーベイランス評価には、保健省職員、インドネシアFETP、日本FETP、JICA EWARSプロジェクトの合同チームが参加し、上記の3州、その中の6県、(バリクパパン市、ペナジャム・パセール・ウタラ県、タンゲラン市、レバク県、マロス県、ゴワ県)、12の地域保健センターを対象とした。インドネシアFETPからの代表団は、6つの大学(UI、UGM、UNAIR、UDAYANA、UNHAS、UNDIP)から参加した。 各州の州保健事務所1カ所、県保健事務所2カ所、地域保健センター4カ所を訪問し、施設の代表者、サーベイランス/EWARS担当者、特定プログラム担当者(デング熱、麻疹、予防接種、ワクチン予防可能疾患(VPDs)など)や検査担当者にインタビューを行った。EWARSが対象とする24の疾病のうち、公衆衛生上の重要性の観点からデング熱と麻疹を評価対象疾患として選定した。インドネシアにおいて、デング熱は高い疾病負荷を伴う大規模流行の潜在的脅威であり、麻疹は排除(elimination)を目指すVPDsの一つである。評価手法は、USCDCのガイドラインに準拠し、インドネシアと日本のFETPが共同で開発した半構造化質問票を用い、量的・質的に評価した。

サーベイランス評価の結果、EWARSが効果的に機能している面と課題の双方が確認された。具体例として、EWARSガイドラインで定められた3つの指標(完全性、適時性、応答率)については、すべての州で目標値を上回る高い運用実績が確認された。また、地域保健センターと県保健事務所の職員間で、迅速な対応に資する良好なコミュニケーション(タイムリーな相談や情報共有など)ができていることが分かった。一方、人員不足、担当職員の離職率の高さ、病院や診療所のEWARSへの限定的な参加、ガイドラインなど関連資料の十分ではない現場での活用状況など、システムの改善すべき具体的な課題が認識された。デング熱に関しては、EWARSによる報告は州レベルでの発生動向を効果的に捉え、監視していると考えられた。しかし、報告基準の誤解等による過少報告は散見された。このことより、EWARSの質向上には、地域保健センターのサーベイランス担当者、医師、検査担当者間で、EWARSの概念と手順について理解を等しく深めることが不可欠と考えられた。麻疹に関しては、EWARSシステムは、麻疹疑い症例への早期対応に寄与し、ほとんどの対応はタイムリーに完了していた。しかし、疫学調査や報告書の質について、一定の改善が必要と判断される結果であった。これらの知見は会議の全関係者の間で共有され、最後に閉会の挨拶として共同提言を行い、会議を終えた。

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東カリマンタン州保健局においてサーベイランス評価活動の説明をしたうえで協力を要請した。

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バンテン州レバック県シシメウト地域保健センターを訪問し、所長およびサーベイランス担当者へのインタビューを行った。

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南スラウェシ州での聞き取り調査後に今後の課題について調査メンバー間でワークショップを実施した。