ゾド(雪・凍害)が発生したため、獣医師実習用の家畜を飼育している農場へ飼料を緊急輸送

モンゴルでは11月から3月までの厳冬期には-40℃を下回る日は珍しくありません。今年の冬は、この厳しい寒さに積雪が加わり、Zud(ズッド)と呼ばれる激しい自然災害が全国で深刻な問題を引き起こしています。すなわち、寒冷による家畜の体力消耗に加えて、積雪や表土凍結により地表が覆われ、ただでさえ乏しい牧草(食べ残しの草、あるいは根)へのアクセスができなくなり、多くの家畜の命が失われます。モンゴル気象庁によるとこの冬季間に全国に於いて過去50年間になかった大雪が降ったと言いうことで、場所によっては80cmの積雪、谷では1mの積雪があるそうです。積雪により交通網が寸断され、牧民は家畜の干草・飼料不足に加えて、食料や燃料不足、医療へのアクセス不能などの困難にも直面します。本ニュースを執筆している2024年2月26日現在の家畜の死亡頭数は290万頭に上り、これはモンゴルの全家畜数(約6,500万頭)の4.5%にも相当します。通信手段も十分確保されていない遠隔地での被害状況は完全に把握されているとは言えず、春になっても草が生えそろうまでは、このような飢餓状態が続き、被害頭数はさらに多くなると考えられます。1-2月には政府の関連各機関の職員も多数動員され、飼料の緊急輸送、道路の除雪等にあたっているそうです。当プロジェクトカウンターパートの一つである獣医研究所(IVM)の職員チームも地方へ派遣され、牧民や獣医師に専門的指導や情報、薬品など提供しています。(JICAモンゴル事務所ニュースサマリー2024.02.23-26号から引用・要約)

本プロジェクトでは、モンゴル生命科学大学獣学部長からの要請を受けて、獣医師研修や学生実習用の家畜を飼育している農場へ飼料を2月23日に緊急輸送しました。飼料は、市内製粉工場から出される副産物(小麦のもみ殻)で、普段から家畜の飼料として買い求める人も多いとのことです。Zud被害が拡大するにつれて緊急用飼料を購入する人が急増し、2-3日行列して待たないと購入できないとのことでした。幸い、今回必要とする量は比較的少なかったため、長時間待たされることなく購入ができました。今回は40キロ詰め飼料20袋を購入し、プロジェクトカーに積み込みました。家畜飼育委託先の農場はウランバートルから60キロの地点ですが、最後の約10キロは未舗装で雪が降り積もり、4輪駆動車でも走行が困難な道でした。現場に到着後、飼料あるいは食堂から入手した野菜くずを雪原に撒くとすぐさま腹をすかした羊が集まり、瞬く間に食い尽くされてしまいました。特に弱った動物はゲルの中で保護されていましたが、野外には死亡した羊が山積みになっていました。一部の動物には輸液で栄養、電解質の補給を緊急で行いました。

今年大きな被害をもたらしているZudですが、発生要因の一つとして地球規模での気候変動の影響があるとも言われています。特に冬季間の降水量の変動が大きな雪害につながっているのかとも考えられます。ほぼ10年周期で襲来するとされてきましたが、過去 10 年間のうち、Zud が発生しなかったのは 4 年だけであり、発生頻度がますます高くなっています。 2010年のZudでは実に1,000万頭(家畜全体の 22 パーセント)の家畜が失われました。このような被害を防止するには発生の予測とそれに対する備え、すなわち、飼料の備蓄や輸送ルート、手段の確保、家畜用シェルターの設置などが考えられますが、予測の不確実性に加えて、多額のコストが必要なことから、十分な対策を講ずることは困難で、対策が後手に回ってしまうことは否めません。プロジェクトでは、被害が最小限にとどまることを祈りつつ、再度の要請があれば対応できるよう態勢を整えています。

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プロジェクトカーからの飼料の荷下ろし

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ゲル内に保護された羊、左には倒れた牛も

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雪原上に飼料散布。動物の集中を避けるために線状に撒く

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餌をむさぼる羊たち

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弱った幼牛に点滴する獣医学部スタッフ

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雪原に放置された羊、牛の死骸