草地回復セミナー

プロジェクトではこれまでにストレスに強い、あるいは生産性が高いといった特性を持つ植物の生理機能や原因遺伝子の特定および植物由来の新規機能性化合物が何であるかを特定するともに、トゥブ県内のKhustai、Arkhust、Batsumberの3ヶ所に野外試験サイトを設け、成長の速い植物や機能性植物の野外での栽培・導入技術の開発を進めてきました。プロジェクト期間の後半においては、こうした研究成果の普及や実装に向けて、現場との連携と協働を強化していくことが重要です。

1月20日トゥブ県ゾーンモドの県庁会議室で草地回復セミナーを開催しました。県内27のソムから、ソム長、放牧地管理担当者、牧民代表をはじめ、研究所や民間も含め80人を超える関係者が集まりました。県副知事、JICAモンゴル事務所長、食糧・農牧業・軽工業省担当官の挨拶に続き、プロジェクトマネージャーBatkhuu Javzan教授(モンゴル国立大学)による、モンゴルにおける遊牧の歴史と遊牧民に伝承されてきた伝統的知識についての紹介とプロジェクトの概要説明がありました。また、大黒俊哉教授(東京大学)からは、乾燥地における砂漠化・土地劣化の現状、劣化した土地・植生を修復するための多様なアプローチについての最新知見が紹介され、プロジェクトの成果および今後の計画についての説明と成果の普及・社会実装に向けた協力要請がなされました。さらにUndarmaa Jamsran教授(モンゴル生命科学大学)から、モンゴルおよびトゥブ県おける草原劣化の現状について統計資料等を用いた詳細な説明と、現在Khustaiで実施している植生回復試験についての概要紹介、現地実証試験への参加・協力要請がなされました。

県内とはいえ往復500キロを超える遠隔地からの参加者がいたり、講演の動画やスライドの写真を撮る人がいたり、休憩時間に講師の先生方に直接相談したりと、セミナーへの関心の高さがうかがえました。参加者からは下記のような意見や提案がありました。

  • これまで放牧地管理としてはネズミ対策や井戸設置などばかりに注目してきたが、草原回復の重要性をあらためて認識した。
  • 最近、専門家に草原の状態診断を依頼したところ、広範囲にわたって荒廃が進行しており、5年後、10年後に放牧を維持するのが困難になる危険性があるとの報告がなされた。すぐに手を打たないと大変なことになるということを理解している。
  • 広範囲にわたって草地の回復を進めるためには、国際機関等外部からの援助に期待するのではなく、地方の予算で進める必要がある。また、国の資金を積極的に投入すべきである。
  • 遊牧民が組合をつくって共同管理を行うところが増えており、プロジェクトの普及においてもこうした組織と連携すると良いのではないか。

また、副知事はセミナー最後の講評で、「今後さらに意見を聴取し、それらを調整し取りまとめ、食糧・農牧業・軽工業省およびJICA等の関係機関と連携しつつ、草原回復の最初の成功県となるべく、県として協力を進めていきたい。」と述べられました。

今回のセミナーは普及、社会実装に向けた大きな第一歩になったと思います。

画像

セミナーの参加者

画像

大黒教授によるプロジェクトの成果紹介と普及に向けた協力要請

画像

Undarmaa教授による草原劣化の現状とKhustaiにおける試験の紹介