Khustaiの草原試験地とArkhustのノマドガーデンー2つのプロジェクトサイトにおける活動ー
2024年5月中旬から2週間、プロジェクトサイトであるKhustai とArkhustで野外試験を開始するため、現地に出張しました。
Khustaiでは2020年から「モデル試験地(60m x 20m)」とよばれる小規模試験地において、植生回復のための導入候補植物の野外での栽培条件を解明するとともに、定着を促進するための補助技術の開発を進めてきました(写真1)。そして次のステップとして取り組んでいるのが、現場に普及可能な実践的栽培技術の開発です。2022年、そのための大規模な「草原試験地(200m x 100m)」をモデル試験地に隣接して建設し、エンバク、アルファルファ等のモデル植物を用いた予備的な栽培試験を通じて、大規模栽培に必要な技術開発項目を検討してきました。残念ながら柵の強度が十分でなかったため、柵の一部が何度か破壊され、家畜の侵入により試験継続が困難になるなどのアクシデントに見舞われてきましたが、今年5月にようやく柵の補修・強化が完了し、試験実施に必要な環境が整いました(写真2)。
今回の試験では、モンゴル生命科学大学の農業機械の専門家の協力を仰ぎつつ開発を進めてきた、地面をなるべく傷つけない(耕さない)で植物を導入するための改良シーダー(播種機)アタッチメントの効果を確認することを目的として、テスト試験地の約半分の範囲を対象にモデル植物の播種を行いました(写真3)。当日はモンゴル生命科学大学から関係者10名近くが集結し、持ち前のチームワークで手際よく播種作業が進められました(写真4)。播種に関わる技術は、普及にとって重要な省力化・低コスト化につながる技術であり、本プロジェクト成功の鍵を握っているといえることから、シードコーティングや脱芒等の技術開発とあわせて重点的に取り組んでいく必要があります。
一方Arkhustには昨年11月、60m x 60mほどの強固な牧柵が3箇所(うち2箇所は冬営地近傍)設置されました。これらの牧柵設置の経緯は以下の通りです。迅速成長植物・機能性植物の導入については当初、主として大規模栽培による方法を想定していましたが、モンゴル国内での放牧地管理に関する情報収集を進めるなかで、冬営地近傍での防風林設置や小規模牧草栽培の取り組み等、先進的な牧民グループによる試行事例も増えていることが確認されました。一方、牧草及び薬用植物利用知識に関する広域調査を進めるなかで、遊牧民伝承に関する伝統的知識が必ずしも遊牧民の間で十分共有されていないという問題が次第に明らかになり、知識の普及・啓蒙を促進するための仕組みづくりを強化する必要性が高まってきました。以上の情勢を踏まえ、栽培技術の多様化を進めるとともに、牧民への能力形成および教育的効果をより高めるための展示・試験拠点として、上記3箇所の牧柵が設置されたという次第です。
これらの牧柵内ではすでに、モンゴル国立大学の研究員Batbold氏らにより、防風林のための樹木植栽や薬用・有用植物の試験栽培が行われています(写真5)。今回は、冬営地近傍での牧草栽培の可能性や栽培条件を明らかにするための試験区を牧柵内に設置し、数種牧草を用いた栽培試験を開始しました(写真6)。試験区設置作業中は幾多の困難に見舞われ、一時は出張期間内での完了が危ぶまれましたが、こちらも日本・モンゴル双方の教員・学生および現地遊牧民の皆さんとのチームワークにより予定通りの作業を終えることができました(写真7、写真8)。
私たちはこれら3箇所の牧柵サイトを”Mongolian Nomad Garden”とよんでいます。この「ノマドガーデン」が、植物の保護と利用に関する多様な知識と技術の発信地として活用されるよう、牧草栽培に薬草栽培および防風林植栽を組み合わせた持続的小規模栽培システムのテストサイトならびに、有用植物の機能や栽培技術に関する情報提供のためのデモンストレーションサイトとして日本とモンゴルが連携しながら整備を進めていくこととしています。
東京大学大学院農学生命科学研究科 大黒俊哉(教授)
Khustai・モデル試験地(小規模試験地)
Khustai・草原試験地(大規模試験地)の頑丈な柵
Khustai・草原試験地における播種後の様子
Khustai・昼食のツォイワン
Arkhust・牧柵内の防風林植栽
Arkhust・牧柵内の牧草栽培試験区
Arkhust・協力牧民Nyam-Orgilさんのゲルで特製ホーショールに舌鼓
Arkhust・協力牧民Nyam-Orgilさんのゲルの前で集合写真