ASEAN 災害緊急対応シミュレーション演習ARDEX2023 ~ARCHプロジェクト開発EMT 標準運用手順書(SOP)のASEAN SASOPへの統合に向け~

2023年8月1-4日、AHAセンター(ASEAN Coordinating Centre for Humanitarian Assistance on disaster management)が主催国インドネシアの災害防災管理庁(Badan Nasional Penanggulangan Bencana)と共同開催するASEAN Regional Disaster Emergency Response Simulation Exercise (ARDEX-23) がインドネシアのジョグジャカルタに開催されました。*関連情報:ARDEX-23

ARDEXは域内の緊急救援対応メカニズムをテスト・実践・レビューする総合想定演習です。この演習は主催国の国家災害対応実施機関とAHAセンターが共同開催する2年に1度の演習で、主にUSARチームの域内緊急国際救援活動の手順を想定被災国規則とASEAN 災害対応標準手続(ASEAN Standard Operating Procedure for Regional Standby Arrangements and Coordination of Joint Disaster Relief and Emergency Response Operations: SASOP)に基づきテストし実践する事が目的です。

このARDEXは2005年、前年に発生したスマトラ島沖地震での大規模被害を受け締結されされたASEAN防災緊急対応協定(ASEAN Agreement on Disaster Management and Emergency Response :AADER)の下、マレイシアにて初回開催されました。この世界初の地域防災協定の元、様々な地域枠組みが生み出され、特にARDEXは開催を経る度に新たな地域枠組みや標準手順等の必要性を提案し続けて来ました。2008年にミャンマーで発生したサイクロン・ナルギスを受け、このSASOPが開発されました。開発の目的は多機関同士の共同緊急対応を可能にする手順書で、災害直後のUSERや軍機関などの対応を想定して作られた背景がありますが、ここに緊急医療活動も含めるべきであるとの議論がARCHプロジェクトの延長期間中より上がり、プロジェクトが開発を進めた国際医療チームのための標準手順書(ASEAN SOP for EMT:EMT SOP)をSASOPに統合するべく、感染症蔓延のため検証のタイミングを待っている形になりました。

そして今回のARDEX23では、EMT SOPがSASOPに正式統合される最終確認としてEMT派遣演習が実施されることになり、7つのゴールの5番目に含まれました:

  • Test the integration of the national coordination mechanism (MAC Centre) with regional coordination protocols/mechanisms (JOCCA) & regional countries as well as international organizations for a joint response;
  • Realisation of increased understanding of the roles and functions of the National Focal Point for speed of response;
  • Verify civil and military response and resource mobilisation procedures;
  • Realisation (draft/input) for the ASEAN regional contigency in supporting affected countries;
  • Test and validate the EMT SOP (SASOP Chapter VII);
  • To test and review the Term of Reference (ToR) for the Secretary-General as the ASEAN Humanitarian Assistance Coordinator (SG-AHAC) and interoperability with all relevant sectors and stakeholders;
  • To test and validate the ARDEX Referee Handbook

ただし、今回の演習に当たりEMTを派遣した国は2ヵ国のみ(タイとフィリピン)でしたので、この2ヵ国が被災国との派遣・活動調整やUSERその他機関との連携を通しEMT SOP を検証しました。

演習は机上演習(Table Top Exercise:TTX)、野外演習(Field Top Exercise:FTX)、災害対策本部連携演習(Command Post Exercise:CPX)の3手法で行われました。

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卓上演習

卓上演習では発災から国際支援終了までを3期(1期:国内(今回はインドネシア)災害対応、2期:SASOPに基づくASEAN支援チーム派遣の要請・受援・派遣に係る国際調整、3期:国際支援終了)に分け、それぞれのフェーズで行われるであろうメカニズムや担当者対応などの検証が行われました。参加者はAHAセンター、ASEAN事務局、インドネシア災害対応機関(National Disaster Management Office:NDMO)・軍・外務省・保健省とASEAN加盟国9カ国NDMO、ASEAN-ERAT、UNDACでした。演習では、被災国であるインドネシアからの支援要請、AMS各国からの支援申請、AHAセンターやASEAN事務局及びUNDACの調整メカニズム、支援チーム(USER、EMT)撤収までの手順やそれぞれの機関がとる役割等について確認が行われました。検証後にASEAN枠組みによる手続きを経てASEAN SOP for EMTは修正なく統合される 予定となりました。

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卓上演習の様子
向かって左側奥から支援9カ国(NDMO)、ASEAN-ERAT、UNDAC。中央左よりASEAN事務局、AHAセンター、インドネシアNDMO(BNPB)、右側手前より、インドネシア軍、保健省、外務省等。左側2列目にReferee席。

災害対策本部連携演習

主に各国USERチームに向けた、被災地緊急対策本部(EOC)での調整会議予定を含む野外演習の全体シナリオの詳細を確認し、USERチームの野外活動に必要な登録や現地調整、活動データ管理などについてもブリーフィングと演習が行われました。今回はEMT SOP統合に向けた初の演習と言う事もあり、EMTに対する調整メカニズムについては説明が含まれておらず、ASEAN事務局のHealth部門からの簡易な説明が提供されたのみにとどまりました。

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野外演習

演習はジョグジャカルタ郊外にあるSultan Agung Stadiumにて行われました。タイとフィリピンからの国際EMTは、インドネシアの医療チーム調整担当者、国内EMTらとの協議の結果、避難所付近に活動拠点にすることで合意し診療所が設置されました。タイ、フィリピン国際EMTは活動報告様式を持参しており、それぞれの理解をすり合わせる場面も見られました。タイとフィリピンの国際EMTはASEANプロトコールとEMT SOPを理解しているため、全体コーディネーションに入ること自体にはほぼ問題がなかった事に対し、主催国のEMT派遣や活動調整に関する理解度が課題となる場面が多々見られ、タイ保健省からレフリーとして参加したARCHプロジェクトのTaskforceメンバーからEMTCC設置やデータ管理と報告手順などについてのフィードバックがあり、本演習に医療支援を含めた標準対応が周知されるためには、工夫の必要性も感じました。一方で、今回は国際EMTチームが2ヵ国だったこともあり、混合チームとしての医療活動形式を取りました。ASEANでの実際の災害現場では、例えば大きなEMTに小さなEMTが合流した補完チーム体制を取る可能性も十分に考えられるため、これを機にEMT SOPに混合チームオペレーションに対する手順を加えても良いのではないか、という提案も出されました。

次回開催は2025年です。ARDEXはASEAN加盟国が持ちまわりで主催し、次の主催国がどこかはまだ決定していませんが、次回は今回出されたの課題をひとつずつ解決できるために、プロジェクトで出来るアプローチについて検討出来ればと思います。

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野外演習場の様子

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JOCCAでの調整会議

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インドネシア地域医療チーム調整担当と打合せするタイとフィリピンのEMT

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被災地EMTCCでのブリーフィングの様子

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避難所での様子

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現地医療調整担当者とタイ、フィリピンEMT

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実際の医療活動の様子