第5回災害保健医療に係る地域連携ドリルがマレイシアにて開催されました~「One ASEAN, One Response」の実現に向けた大規模演習~

2023年9月25-27日の5日間、第5回災害保健医療に係る地域連携ドリル(Regional Collaboration Drill:RCD)がマレイシア主催にて開催されました。感染症蔓延により毎年開催目標を一時中断してましたが、対面式会議が可能になった2022年9月PWG会議に併せ交渉を開始し、そこから1年を経て開催に辿り着きました。

マレイシア政府は今回のRCD主催に向け、ARCHプロジェクトPWGメンバーである保健省担当者を中心に確実に準備を進めて来ました。実際の演習では、主催に向けタスク毎にセクション責任者を指名しチーム体制を組み総力戦で開催まで走り抜けた様子が伺える内容となりました。演習の中心を担う保健省担当者や医師のみならず、アドミンやロジを担当するスタッフ、またボランティアを含め大勢のチームメンバーを束ねたマレイシア保健省の主催チームのマネージメント力からは我々プロジェクトも大いに学ぶものがありました。プロジェクトは3月から数回に分けて準備支援訪問を始め、Cコース開催も含め、プロジェクト国内支援委員、過去のRCD開催国からのメンターチームらが技術的・精神的サポートを行って来ました。

今回演習する災害想定シナリオは、9月第2週から続くモンスーンによる大雨が引き起こした大規模洪水により、スランゴン州にあるクアラルンプールやプトラジャヤといった政府指定都市を含む首都圏であるクランバレー地区の広域浸水がもたらした被害によるもので、健康被害を受けた被災者(患者)に対する医療提供能力の低下への対応をASEAN加盟国に求めるものです。更に被災した化学工場からの化学物資流出という複合災害を想定に入れ、化学物質汚染による被災患者への対応も演習で試すことになりました。

Pre-deployment演習

RCD本番に向け、各国からのI-EMTを受け入れるための被災国であるマレイシアの受援体制を演習しました。メインプレーヤーはASEAN加盟国のNDMO、AHAセンターです。プロジェクトではこの本番Pre-deployment演習の前に、事前復習会を9月13日オンラインにて実施しました。受援・支援手順はASEAN災害緊急対応に関する地域手順書(ASEAN災害対応標準手順:SASOP)に従いテストされるため、AHAセンターとマレイシアNDMOからのレクチャーにてSASOPに基づく支援申請の手順を復習し、知識を再確認しました。今回の演習災害想定であるスランゴン州クランバレー地域の大規模洪水を受け、マレイシアの災害管理対応に則り国家災害指定を経て、マレイシアNDMOであるMalaysia National Disaster Management Agency (NADMA)がAHAセンターにASEAN加盟国からの支援要請を発出した、という基本シナリオにそって演習は進みました。1年に1度の演習ですが、各国の担当者による手順を復習する機会は貴重だと感じる演習成果でした。特に、提出された書類審査の内、薬剤確認に当たった職員は「2週間の医療活動で必要な量をどの様に標準化するか」など自らの課題などについても発見があったと語っていました。

【画像】

AMDA内での演習の様子。共有画面を使用して各申請書類の確認を実施。

【画像】

申請が終了した国をそれぞれ書き出すNAMDA担当者。

【画像】

携行物品の確認を行う保健省。特に薬品同定には薬剤師が当たり、薬品名のみならず数量が2週間の派遣に適正かなども確認された。

9月25日:Workshop

RCD野外演習前には終日Workshopセッションが開催されました。ASEAN災害緊急対応に関するSASOP、マレイシアの災害対応管理や医療管理に関する基本情報、ASEAN Collective Measure、EMT活動に関する申請書類・報告書類の確認と記載方法、Comprehensive Team Information(CTI)作成、データマネージメント(MDS)などを習得又は復習しました。

【画像】

9月25日 Workshop: Practice in Filling-up Various Forms

【画像】

9月25日 Workshop: SASOP Orientation Session by AHA Center

9月26-27日:野外演習

【画像】

9月26-27日:野外演習レイアウト

2日間の総合野外演習はプトラジャヤにあるThe Special Malaysian Disaster Assistance and Rescue Team Base (SMART Base)にて実施されました。開会式の後は来賓が見学する中Reception and Departure Center(RDC)演習が行われ、各EMTが空港に到着する所からどの様に入国手順を経るのかを演習、この時にPre-deployment時の申請書類が必要となる事を復習する国もあり、支援活動が一連のフローに基づいている事を認識する良い機会になったと言えます。RDCに続きEMTCC(National level)までの流れを演習し、派遣要請地が2か所に設定されていたため各国EMTに派遣地が割り当てられて1日目の演習は終了しました(Putrajaya地区もしくはSerdang地区)。

【画像】

9月26日Opening Ceremony:VIPと記念撮影するMalaysia+JDR Joint Team

【画像】

9月26日Reception and Departure Center(RDC)Exercise

【画像】

9月26日:RDCにて。マレイシアより入国後の調整について説明を受けるBruneiチーム

【画像】

9月26日National EMTCC meeting

野外演習2日目は、2カ所の被災地に配属されたEMTが出席する各地区の地域EMTCC調整会議から開始され、各地医療支援演習に入りました。その間、化学工場からの化学薬品流出による汚染患者の除染実演、Health Needs Assessmentなどが並行して行われました。期間中に3回の地域EMTCC調整会議が行われ、被害状況や被災者健康被害・治療進行状況などの更新を行い、活動終了に向けたデータや活動終了報告書を含む報告書類の取りまとめにて演習が終了しました。ラオスのEMTは「今回はデータ管理作業が繰り返し出来たので、自信がつきました」と医療活動におけるデータ管理やレポーティングの重要さを続けて語りました。

また、今回は、JDRのType2 EMTとマレイシアEMTが合同で医療支援を行うという「Joint Operation」の演習がシナリオに加わりました。これはマレイシア側からの提案に基づくもので、被災国との協働は外国からのI-EMTにとっては運営上の利点が大きい反面、実際の医療支援演習を行う事で様々な課題も見えた貴重な機会になりました。

【画像】

Sub-EMTCC調整会議の様子

【画像】

Sub-EMTCCのデータ管理をフォローする久保医師(プロジェクト国内支援委員)

【画像】

JDRチームとマレイシアチームの合同医療活動

【画像】

各国医療支援活動の様子(左:Vietnam、右: The Philippines)

【画像】

9月27日:被災地域の村でのHealth Needs Assessment

9月28日:After Action Review:AAR

開始時には、前日までの野外演習のシナリオの流れより、マレイシアNational EMTCCより状況の更新と医療ニーズが国内で賄える所まで現状改善をしたことが報告され、各国医療支援活動の終了に向けた撤収への要請と支援への感謝が伝えられました。その後、Pre-deployment演習と2日間の野外演習の一連の活動を振り返るAARセッションへと続きました。

ARCHプロジェクトが開発したこの大規模な地域総合演習。実施の背景には主催国は自らの受援プロトコルを確認し実演する為の並々ならぬ労力があり、保健省が単独で行うだけではなく多(他)機関連携や人材の有効活用などを通して自国の災害対応を高めるきっかけになるだけではなく、地域の支援国もそれらを理解し、尊重し、円滑且つ迅速で効果的な医療支援の提供が出来る様、地域全体での「One ASEAN, One Response」実践を目指した一体感の醸成にも貢献しています。

【画像】

9月28日:AARの様子

【画像】

最終日の記念撮影。マレイシアチーム、本当にお疲れ様でした!