ラボマネジメントの活動を紹介します4 機材管理活動編
今回は機材管理に関する活動を紹介します。
ラボには小さなものから大きなものまで、さまざまな機材があります。料理にも使うデジタルキッチンタイマーは検査や実験の工程において決められた時間を計るのには欠かせません。試薬や検体を保管するための冷蔵庫・冷凍庫も無くてはならない機材です。試薬などを必要量量り取るための「マイクロピペット」も毎日使う道具です。臨床検体や微生物を取り扱う際には、術者をラボ内感染から守るために「安全キャビネット」内で作業します。検査・実験終了後の微生物に汚染された物品は「オートクレーブ」という装置で滅菌(すべての微生物を死滅させること)してから廃棄しなければなりません。このほかにも、検体をセットすれば自動でDNAやRNAを抽出してくれる「自動核酸抽出装置」、DNA/RNAとなった検体の目的とする遺伝子の配列を読み取る「シーケンサー」など、非常に多くの機材によって、日々の検査・実験が支えられています。
機材の中には1台あたり数百万円~数千万円するものもあり、メンテナンス・修理費だけでも数十万円~数百万円かかるものもあります。(さらに高額な費用の掛かる機材もたくさんあります!)ラボの機能を維持するためには、こうした機材を適切に維持管理し、正しい取り扱いをしなければなりません。そうでない場合には、正確な結果が得られないだけでなく、大事故につながるものも数多くあります。
たとえば前述の汚染物や器具を滅菌するために必要なオートクレーブという機器は、日本語で「高圧蒸気滅菌器」と呼ばれます。その名の通り、機械の内部を高温・高圧(121~134℃、~2気圧)にして微生物を死滅させます。そのため、適切な使用法を守らなければ蒸気による熱傷、滅菌内容物の突沸・破裂などによる重傷事故の原因となります。また、部品が劣化したオートクレーブを使い続けることで、設定温度・圧力まで正常に到達せずに空焚き・発火の原因となったり、部品が飛散・缶体が破裂したりする重大な事故の原因となりかねません。その機材がもつ本来の性能を発揮し、正確な検査結果を得たり、必要な工程を適切に実施し、ラボ内事故を防止したりするためには、使用する機材は定期的な清掃・メンテナンスが欠かせません。特に日本では機材の点検が法律で定められている場合もあり、「労働安全衛生法」によって定期自主点検の実施が定められている機材(オートクレーブや遠心機など)や、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」によって定期点検が定められている機材(特定の病原体等を取り扱う安全キャビネットなど)もあります。
微生物ユニットのオートクレーブの状態を確認中
さらにもう一つ、機材の本来の性能を発揮させるために必要な作業があります。それは特に測定機器†に関して必要となる「校正」(calibration)と呼ばれる作業です。校正は使用している測定機器が正しく計測・測定できているか確認する作業です。具体的にどういうことでしょうか。みなさん、自分の持っている定規と隣の人が持っている定規を並べて、目盛りがぴったり合うか確認してみてください。もしかしたら、目盛りが合わないこともあるかもしれません。定規は「長さ」を測る器具ですが、自分の持っている定規で測った「15 cm」と、隣の人の定規で測った「15 cm」の長さが異なっていたら、どちらの「15 cm」がより正確な15 cmなのでしょうか。同様に、自分がいつも使用するマイクロピペットで自分自身が量り取った1000 μL(1 mL)と、別のマイクロピペットで同僚が量り取った1000 μLの液面の高さが異なっていたら、より正確な1000 μLはどちらでしょうか。
校正とは、使用している測定器(マイクロピペット、タイマー、天秤など)が正しく測定できているか確認するための作業です。実際に使用している測定器が示す値を、より正確に測定することのできる標準器が示す値と比較し、どのくらい差があるかを評価します。これにより、日々使用している測定器の正確性を確保します。また、必要に応じて、測定器の調整や修理を行います。この時使用する標準器はさらにより上位の標準器を用いて校正されているものであり、たどっていくと国家標準にたどり着きます(校正のトレーサビリティ)。この校正の作業により、普段使用する測定機器の正確さを知り、正しく機能・動作させることができ、正確な検査結果を生み出すことにつながります。ラボに存在する測定器や適切な運用のために測定が必要になる機器は多岐にわたります。前述のマイクロピペット(体積)や、タイマー(時間)、天秤(質量)、冷凍庫・冷蔵庫(温度)はじめ、使用時に温度・圧力の条件が決められているオートクレーブなども校正の対象となります。
プロジェクトでは、ザンビア国立公衆衛生研究所レファレンス・ラボラトリー(ZNPHRL)の機材管理に関して、ラボ内の機材の定期的なメンテナンス実施のための仕組みづくりや、持続可能な機材校正実施のための支援(校正技術者の育成等)を行っています。
† 「長さ」、「質量」、「時間」、「体積」、「温度」、「速さ」などを計量するための機器
機材オフィサーと在庫管理庫にある機材の個数を確認中