【JICAインターン生報告】トルコ国耐震補強研修に同行~日本の耐震技術をトルコへ!~
2025年2月17日から2月21日にかけて、トルコの教育省、大学教授、トルコ自治体連合の7名を対象に実施した「トルコ国耐震補強研修」(JICAの「地方自治体の災害リスク管理及び廃棄物管理能力向上プロジェクト」中で実施された本邦研修)に同行しました。トルコは地震多発国であり、2023年2月6日にはトルコ南東部を震央に、マグニチュード7.8のトルコ・シリア地震が発生。トルコ・シリアで死者5万3千人以上、倒壊建物20万棟以上の被害が生じました。トルコでは2018年に新しい耐震基準が制定されましたが、倒壊した建物の多くはその基準を満たしておらず、現在も耐震基準を満たしていない建物が多く存在しています。今回の研修では、日本の耐震改修に関する講義や施設利用者が退去することなく、建物外側より耐震補強ができる構法(以下「外部補強構法」という。)の視察を行い、トルコ国内の耐震基準を満たしていない既存建物の耐震改修の促進に役立ててもらうため実施しました。研修後には、トルコのイズミールにある学校を対象に、トルコ教育省が主体となって外部補強構法を用いた耐震改修を実施する予定です。これらを通して、トルコ国内で耐震改修が全国普及することを願っています。研修の詳細は以下のとおりです。
2/17(月)
東京都耐震講義
東京都における耐震改修促進計画について東京都都市整備局から講義を受けました。日本でも耐震基準を満たしていない建物がかつては多く存在しており、耐震化する建物の優先順位をどのように設定し、耐震化の促進に取り組んできたか講義を受けました。東京都では震災時に主要となる幹線道路沿いの建物を優先に耐震改修を行います。トルコの研修員は、日本の耐震基準についての関心が高く、耐震基準の改正のされ方や新しい建物が建つ際に必ず基準が適用されるかなどの耐震基準に関する質問が多くありました。
2/18(火)
前田建設工業ICIセンターでの外部補強構法研修
前田建設工業株式会社のご協力のもと、外部補強構法の1つである「MaSTER FRAME(マスターフレーム)構法」の講義と施設見学をさせていただきました。本構法は前田建設工業株式会社等が開発をし、2010年3月に技術登録を行っています。RC造の耐震フレームを既存建物に外付けする構法で、施設利用を止めることなく工事を進めることができます。施工時の騒音や粉塵が少なく施設利用者に影響が少ないことが特徴に挙げられます。講義では、施工方法や強度について説明を受けました。トルコと日本では柱の大きさなど建築に違いがあり、柱に接合するアンカーの施工に関する質問などトルコ国内の導入に向けた議論が行われました。
講義の様子
施設見学の様子
2/19(水)
外部補強構法の現場視察(市川市立大柏小学校, 大洲中学校)
日本の学校における耐震改修の事例を観るため、千葉県市川市の学校の視察を行いました。2010年に外部補強構法を用いて耐震改修を行った大洲中学校の視察では、研修員は既存建物と耐震フレームの接合部について、現場で図面と照らし合わせながら確認をしていました。また市川市役所の職員に同行いただき、市川市が取り組む耐震改修促進計画について説明をいただきました。
大洲中学校の外部補強構法
2/20(木)
中央省庁による耐震化政策と取り組みに関する講義
国土交通省と文部科学省の職員から国が行う耐震化の取り組みについて講義を受けました。国土交通省の講義では、国が行う耐震改修促進計画や日本の耐震基準についてお話しいただきました。文部科学省の講義では、日本の公立学校が99.9%耐震化された過去の政策や避難所としての学校の在り方、照明や棚などの非構造部材の耐震補強についてお話しいただきました。質疑では、マンションの耐震改修を行う際に住民に対して支援制度はあるか、国の予算について教育に充てる割合は決まっているかなど、支援制度や国の予算について質問がありました。
2/21(金)
成果報告会・閉講式
最終日の成果報告会では、トルコ国教育省・大学教授・地方自治体に分かれ、それぞれの立場から研修を通して学んだことや研修後の取り組みについて報告をしました。講義と現場視察による研修はとても好評で外部補強構法について深く理解を示していました。トルコ国内での導入にも前向きに検討するという意見が多く、トルコ国内で導入する場合の施工の変更点を検討していました。研修後の取り組みとしては本研修で得た学びを各団体で報告し、導入に向けて議論を行う予定です。また研修後には、トルコ教育省が主体となり、パイロットプロジェクトとしてトルコのイズミールにある学校を対象に外部補強構法を用いた耐震改修を実施予定です。そして、パイロットプロジェクトの結果を踏まえた上で、予算や材料調達などの観点からトルコにおける全国普及に向けて議論を行うことを約束しました。
閉講式の様子
研修員インタビュー
研修終了後に研修員の方2名に本研修の感想を伺いました。
Yildirim Ismailさん(トルコ国教育省 建設工業部 部長)
トルコの学校のほとんどがトルコの2000年以前の古い建築基準を使用していて、現在3万棟ほど耐震化しなくてはならない学校があります。今回の研修を通じて、トルコにない新しい構法を学びました。工期が短く、学校を休校にしなくていいことはトルコの学校にとって利点です。今後は、イズミールの学校での耐震化パイロット活動の結果を踏まえ、予算に応じて全国普及を検討したいと考えています。
Alyamac Kursat Esatさん(firat大学教授 土木工学)
今回学んだ外部補強構法は既存建物と耐震フレームの接合部に用いるアンカーの技術がとても印象的でした。従来の施工アンカーより2~3倍の強度があり、必要本数を削減できる点で優れていました。トルコでは接合部にただの鉄筋を用いています。今後は外部補強構法についてトルコ側で強度の議論を行い、普及に向けて検討していきたいです。
研修同行を終えて
本研修に同行するにあたり、事前に背景や目的、トルコが抱える課題について調査を行い、研修に臨みました。研修では、JICAとトルコ側それぞれの目的を意識しながら研修に参加することができ、双方の視点を踏まえることで、単なる受講者ではなく、より主体的な姿勢で学びを得ることができました。また、国際協力におけるプロジェクトの成功には単なる技術提供だけでなく、文化・社会的背景の理解が不可欠になると実感しました。今後は国際協力のキャリアを考えているため、研修やプロジェクトにおいて何が重要かを常に意識しながら取り組んでいきたいと考えています。
今出川剛大(JICA地球環境部 防災グループ インターン)