【更新情報】西ニューブリテン州でのフィラリア症予防薬投与キャンペーンの結果
西ニューブリテン州(以下、「WNBP」)において、昨年11月末に開始した州内のほぼ全人口を対象としたリンパ系フィラリア症(以下、「LF」)の第1回目集団投薬(以下、「MDA」)が本年1月末に終了し、その後に期間中に投薬が完了できなかった一部地域については3月上旬に追加投薬を実施しました。MDA実施中にはLFをはじめとする、他の顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases、以下、「NTDs」)に位置付けられる症例(発症疑い含む)も多数報告されました。州人口に対して3薬剤(イベルメクチン・ジエチルカルバマジン・アルベンダゾール(IDA))が投薬された人数で示される具体的な投薬率は63.08%(表1)となり、これら3薬剤投薬とほぼ同時期に実施した風土病性トレポネーマ症(英名:Yaws)に効果があるとされるアジスロマイシンの投薬率は、54.78%(表2)となりました。
6月に行われたWHOの本MDAに対する評価には、これら投薬率に加えて、カバレッジ評価調査(規程の調査方法に則り選定された村落を州保健局職員が巡回し、住民にインタビュー方式での調査を実施)の結果や、MDA実施後の四半期(2024年1月~3月)のWNBPの外来診療(OPD)でのNTDs関連の報告患者数が減少(NTDs関連(LF含む):35%、Yaws:48%各々減少)した結果等も考慮されました。また、隣の州である東ニューブリテン州での IDAによる2回のMDA完了後のアセスメント調査の結果、IDA療法の高い有効性が確認された事も考慮されたとのことでした。
この結果を受けて、現在WNBPでのMDAの2回目実施に向けて各機関と連携して準備を開始し、1回目のMDA活動から得られた教訓や改善点を活かして、より効果的なプログラム運用に向けて協議を重ねています。なお、今回使用された4薬剤は、いずれもWHOによって国外から調達されたもので、IDA3薬剤は各製薬会社からWHOを通じてパプアニューギニア国に無償提供されたものになります。
本プロジェクトからは、MDAの実施支援、具体的には予算計画、調達や広報、実施前研修やデータ分析等の工程において関係団体・関係者と協力して、PNG政府機関の計画・実施能力の開発・強化の方法を探りながら進めています。
タイムライン
2023年8月 | 薬剤や調達品の仕分、各医療施設代表者と州保健局職員対象の研修実施 |
2023年9月 | 各医療施設代表者と州保健局職員による各ヘルスセンターでの研修実施と計画準備、各地域での投薬実施前の広報活動 |
2023年10月~11月 | WHOにより輸入通関を了した追加薬剤(アジスロマイシン)の国内輸送、仕分等 |
2023年11月末 | MDA開始 |
2023年12月 | 投薬データの集計開始(データマネジメント)(~翌年2月初旬頃に終了) |
2024年1月末 | MDA終了 |
2024年3月初旬 | 一部地域での追加投薬の実施 |
2024年4月 | カバレッジ評価調査の実施 |
2024年6月 | MDA実施に対するWHOによる評価報告の通知 |
表1.エリア毎のLF投薬率(保健省調べの州人口データを使用)
District/Area | Target Population (エリア内対象人口) |
Treated Population (投薬人口) |
Coverage Percentage (割合) |
---|---|---|---|
Nakanai | 130,106 | 77,079 | 59.24 |
Talasea | 85,387 | 59,801 | 70.03 |
Kandrian-Gloucester | 104,578 | 65,028 | 62.18 |
WNBP | 320,071 | 201,908 | 63.08 |
表2. エリア毎のアジスロマイシン投薬率(保健省調べの州人口データを使用)
District/Area | Target Population (エリア内対象人口) |
Treated Population (投薬人口) |
Coverage Percentage (割合) |
---|---|---|---|
Nakanai | 130,106 | 62,233 | 47.33 |
Talasea | 85,387 | 62,212 | 72.93 |
Kandrian-Gloucester | 104,578 | 50,916 | 48.70 |
WNBP | 320,071 | 175,361 | 54.78 |
ヘルスワーカーの方々が地域住民に呼びかけてMDAを実施する様子(Nakanai県)
海辺地域でのMDA実施の様子(Gloucester県)
MDA実施期間中に確認されたLF発症疑い患者(41歳/男性)の肥大する左足(Kandrian県)
MDA実施期間中に確認された風土病性トレポネーマ症発症疑い患者の左足(Nakanai県)