プロジェクトを引っ張る5人のキーパーソンに、プロジェクトに対する想いを聞きました。

2017年1月12日

チーフアドバイザー:橋本敬市国際協力専門員

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紛争終結後20余年を経た現在も、ボスニアでは民族の分断状態が続いています。特に深刻なのが教育です。敵対し合ってきた各民族が、それぞれの歴史認識に基づく別々の教育を続けていれば、それがそのまま将来の紛争の火種になる懸念があるばかりでなく、「標準化されていない教育」に対する諸外国の評価は低く、より良い教育環境を求める若年層の間では、祖国を捨てる傾向が強まりつつあります。将来の国家建設を担う若者の流出を食い止めるためにも、教育の標準化は急務となっています。

紛争予防の視点からJICAが約10年前にスタートさせた前案件(「IT教育改善プロジェクト」)はボスニア教育統合の嚆矢として、初等・中等教育全体で統合カリキュラム(共通コア・カリキュラム)を策定するという一大国家プロジェクトの呼び水となりました。
新しいプロジェクトはこの流れを踏襲しつつ、スポーツを通じた民族間の融和を目指します。
報道によりますと、ボスニアではここ2−3年、いじめによる自殺者が増えています。特に身体能力の劣ったクラスメートに対するいじめが深刻だということです。本案件では民族を超えたスポーツ交流を促進すると同時に、「身体のみならず精神をも健全育成する」保健体育のカリキュラム策定をサポートし、他者に対する寛容の精神を醸成できればと考えています。

モスタル市スポーツ協会プロジェクトマネージャー:ジェナン・シュタ

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このプロジェクトの計画はとても質が高く、現実的であると思います。今後、我々スポーツ協会とJICA専門家のこれまでの経験を活かして、共にゴールに向かって努力していけることでしょう。JICA専門家のスポーツ分野における取組みと、我々のプロジェクトへの意欲が、モスタル市のスポーツ振興とプロジェクトの成功を導くと確信しています。

APOSOプロジェクトディレクター:マヤ・ストイキッチ

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APOSOは、就学前・初等・中等教育におけるすべてのコースのCCC作成や学習内容の標準化、成果の評価等を実施する国の機関です。前回、JICAと実施した実りある協力では、あらゆる年齢層の生徒を対象とした情報技術(IT)と技術教育(TE)のCCC作成を成功させました。今回のプロジェクトでも再びJICAと協働できることを楽しみにしており、このプロジェクトが民族の融和のみならず、これまで長いこと遅れをとっていた保健体育科教育に革新をもたらしてくれることを願っています。また、日本での研修にAPOSOのスタッフが参加する機会をいただき、感謝しています。今後、日本の優れた実践例をBiHの教育制度に組み込んでいくうえで、間違いなくこの研修が役立つことと思います。

プロジェクトリーダー:デヤン・バリッチ

デイトン合意(注1)の後、ボスニア・ヘルツェゴビナ(BiH)の各地方自治体は、一度は統合された教育システムを、セルビア、クロアチア、ボシュニャク(ムスリム)の3つの主要民族毎のカリキュラムに分け、3民族それぞれの政治思想に合わせて調整しました。
そんな中、JICAは地方レベルの教育省(BiHには各行政レベル及び州に13の教育省がある)に対し、公立校の教科の中でも最も政治色の薄いIT教育を統合させる支援を行い、私はコンサルタントとして、JICAと関係当局とを仲立ちし、IT教育の全般的な質の向上と、全国すべての生徒たちの知識の遅れを取り戻すために努力してきました(注2)。
そしてこの度、再びJICAプロジェクトの一員として働くチャンスを頂き、これまでのJICAプロジェクトで得た経験と知識、そして教育界におけるネットワークを本プロジェクトでも有効活用できるとの思いから、私はプロジェクトの本格始動を心から楽しみにしています。
私は、日本とBiHの教育専門家がスポーツの価値を高めるために、共に献身的に働かれる事を強く信じ、また、BiHのすべての生徒たちのために近代的な保健体育カリキュラムが策定されることを心から願っています。

(注1)ボスニア・ヘルツェゴビナ和平一般枠組み合意。1995年に締結され、これによってボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が終結した。
(注2)デヤン氏は、JICA「IT教育近代化プロジェクト」における多大なる貢献に対して、2016年度の理事長賞を授与された。

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デヤン氏と辻氏

プロジェクトコーディネーター/保健体育教育/平和構築:辻 康子

3年のプロジェクト実施期間中に、JICAプロジェクトメンバーとBiHカウンターパートが一丸となって、日本だけではなく、世界の体育・スポーツの現状を学び、何がこの国にとって本当に必要なのかをよく考えながら、スポーツを通じてBiHの未来を担う子どもたちの心に種を撒きます。

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寒風の中、校庭で元気に遊ぶモスタルの小学生

次回は来年2月、第1回本邦研修の様子をお伝えしたいと思います。

以上