モスタル市・クラグイェヴァツ市スポーツ交流

2017年5月30日

【画像】モスタル市・クラグイェヴァツ市スポーツ交流会with JICA PEプロジェクト

2017年5月4日、モスタル市スポーツ協会とプロジェクトはモスタル市の子どもたち39人を連れて、3泊4日の行程でセルビア・クラグイェヴァツ市に向かいました。クラグイェヴァツ市はモスタルの姉妹都市で両市のスポーツ交流は今年で7年目になります。クラグイェヴァツは人口約15万人、セルビア第4の都市で、緑の美しいスポーツが盛んな街です。

モスタル市から、今年はサッカーとバスケットボールチームの男子(13歳〜14歳)、バスケットボールチームの女子(16歳〜18歳)が参加しました。このスポーツ交流では、子どもたちはホームステイをしながら、練習試合をしたり、それぞれのホストファミリーと一緒にクラグイェヴァツの街の名所を訪れたりして、異文化を体験します。

出発の朝、集合場所では大きな荷物を持った子どもたちが家族としばしの別れを惜しんでいます。というのも、ボスニア・ヘルツエゴビナ(以下、BiH)は初等教育が9年制(日本の小中学校にあたる)のため、日本の小学校高学年にあるような泊りがけでの学校行事は9年生になって初めて経験します。そのため、中高生とはいえ、家族から離れて旅行するのは初めてという子どももいて、不安と興奮の中、10時間のバスの旅は始まりました。

モスタル市から首都サラエボまではネレトバ川に沿って、雄大な山脈と渓谷の美しい景色が続きます。サラエボから一路東に向かい、セルビアとの国境までの道のりは、ボスニア・ヘルツエゴビナの田舎によく見られる牧歌的な風景が続きます。

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ネレトバ川とヘルツエゴビナの山脈

ようやくクラグイェヴァツに到着した私たちを待っていてくれたのは、サッカークラブ、バスケットボールクラブの子どもたちとそのご家族で、3泊4日モスタルの子どもたちを受け入れてくれるホストファミリーです。モスタルの子どもたちは、少し緊張した面持ちで、ホストファミリーに連れられてそれぞれの家庭に向かいました。

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ホストファミリーとの最初の出会い

2日目のワークショップは、「スポーツのパワー」について考え、それをどう自分たちの普段の生活や将来に活かしていくかということがテーマでした。

ワークショップはモスタル市スポーツ協会のジェナン・シュタ氏がファシリテーターを務め、子どもたちは出身地、競技種目がバランス良く混ざるようグループ分けされ、ワークショップに参加しました。毎日のようにスポーツをしている子どもたちですが、改めてどうしてスポーツが好きなのか、スポーツを通して何を学んでいるのかということを考え、互いの意見をグループの仲間と共有しました。スポーツの力で自分たちの生活をより良いものにするためには、連帯感・チームワークが大切だという意見がありました。

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グループでのディスカッションの結果を発表

このイベントの大きなポイントは、モスタルから参加した子どもたちは全員ホームステイをし、そして受入れてくれたクラグイェヴァツの子どもたちが8月に今度はモスタルにやってくるということです。初めての町を訪れ、始めて会った家族の下で4日間を過ごすという経験を互いにするのです。

両市のスポーツ交流が7年前に始まった当初は、モスタル市スポーツ協会が参加者を募ったにも関わらず、希望者は10家族程度だったようです。やはり、当時は自分の子どもをセルビアに送り出すことについて、簡単に承諾できない家庭が多かったのでしょう。しかし、両市のスポーツ協会や指導者たちの努力により、毎年交流を続けてきたことで、今では多くの子どもが参加しています。これまで参加してきた家族の中には、その後、互いに行き来が続いている家族が多数あるという話を聞きました。この経験は、子どもたちとその家族にとって、単なるスポーツ合宿では得られない大切なものを残しています。

モスタルから参加したレオナルダさん(18歳)は、今回の旅行を通して、自分の考えと経験が豊かになったと言います。試合では勝敗があるけれど、今回芽生えた友情のおかげで、大切なことはそれだけではないと感じ、スポーツの力で、人間性を高めることができると改めてわかった。8月の再会を通じて、互いの絆がもっと深まると信じていると話しました。

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レオナルダさん(右から2番目)とホストファミリー

ダニスくん(13歳)は、今回の旅行をずっと楽しみにしていたということです。彼は、まず、行きのバスですぐに別のバスケットボールクラブから参加したモスタルの男の子と友達になりました。そして、クラグイェヴァツでは、優しいホストファミリーに暖かく迎えてもらい、4日間のプログラムは楽しくあっという間だったと言います。ダニスくんを受入れたヴァシリッチさん一家はこれまでも他の国からのホームステイを受入れた経験があり、今回もモスタルからの子どもを受入れることに抵抗がなかったと話します。ダニスくんは、ホストファミリーと離れることが悲しく残念だったという感想を書いてくれました。

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ダニスくん(中央)とホストファミリー

受入れたクラグイェヴァツの子どもたちに、あるコーチはこんなことを言っていました。「モスタルの子どもたちをどう迎えたらいいかは、自分がモスタルに行くときのことを想像すればわかるだろう」と。

この国で紛争が起きたのは今からほんの20数年前のことです。激戦地となったモスタルで紛争を経験した人々が、悲しく悲惨な歴史を忘れることはないでしょう。しかし、子どもたちと接していて感じることは、彼ら自身にとって民族の違いは、生まれたときから『そういうもの』として捉えられているだけで、それは新たな友情を築いたり、チームメイトとして一緒にプレイしたりすることの障害とは考えていないということです。バスの中では、モスタルの東側に暮らす子と、西側に暮らす子が、それぞれの学校の違いについて話していましたが、「どちらにしても勉強は面倒くさいな」と冗談交じりに笑っている様子がとても印象的でした。彼らにとっては、新しい友人がどの民族であるかは重要ではなく、自分にとって優しく、楽しい友達であるか、互いに好きなスポーツを一緒に楽しむことができるかということが大切なのです。

『相手の立場に立って考える』ことが、より良い人間関係を築く上で重要であるということは、学校の授業や言葉だけではなかなか伝えきれません。子どもたちは、一緒にスポーツをし、それぞれの家庭で一緒にご飯を食べ、遊び、眠ることでそれを感じ取ったのかもしれません。

最終日の朝、クラグイェヴァツを出発する私たちをたくさんの人が見送りに来てくれました。あちこちで、再会を約束しつつも別れを惜しむ姿が見られました。

モスタルの子どもたちは、自分たちが暖かく迎えてもらったように、8月にクラグイェヴァツの友人たちを心からおもてなしすることでしょう。私たちプロジェクトも8月に子どもたちとどんなことをしようかと、今からとても楽しみです。

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8月の再会を約束する子どもたち

【画像】サッカー交流試合にて

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男子バスケットボール交流試合にて

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女子バスケットボール試合にて