社会主義と資本主義の狭間

2018年4月16日

2018年2月

ソ連邦、東欧諸国は社会主義体制の崩壊後、いわゆる「ショック療法」(注)で一時的な大混乱に見舞われましたが、その後、急速に資本主義体制を整備していきました。一方、中国、ベトナムは「漸進主義」をとり、共産党の一党体制の下、徐々に資本主義制度を取り入れていきました。中国もベトナムも社会主義的市場経済を採用していますが、国営企業の民営化等には慎重なスタンスを崩していません。キューバもこれら2国と同様、「漸進主義」を取っていますが、経済は統制経済の割合が多く、まだ中国、ベトナムほどには市場経済を取り入れていません。これはより効率的な社会主義体制を構築するのがキューバの使命だという革命精神の国内への浸透の強さや米国との長年の敵対的な関係で、より慎重に経済運営を行ってきたという歴史によるものと思われますが、米国との国交が回復し、政権も今年、革命世代から次世代に引き継がれるだろうといわれる中、今後いかなる経済発展を目指すのかが注目されています。

キューバは1959年の革命以来、貧富の格差のない平等な社会の発展を目指してきましたが、砂糖産業が衰えた後は、観光セクター以外に新しい産業が興らず、米国の経済封鎖も続いており、国内は常に物不足の状態です。近年、政府も300近くの職種に限り、登録制の自由営業を認めたり、不動産の売買や自家用車の所有も認めるようになるなど徐々に規制緩和が進んでいます。外資の誘致を始め、新しい経済開発のあり方が議論されている最中です。

キューバの経済学者からは、社会主義のいいところと資本主義のいいところは同居することが可能だと発言もあり、その方法論が議論されている段階ですが、農業においても首都ハバナ近郊の野菜栽培を中心にしている農業組合の中には政府の許可の下、大手ホテルと直接契約を結び、農産物を卸している組合もあり、観光業に近いところではより市場を重視した経済活動も行われています。これは未だ観光業周辺の開発特区的な試みかと思われますが、徐々に他分野においても組合方式による新規事業が誕生していくものと予想されます。

経済発展の初期段階では、貧富の格差が一時的に生じるといわれますが、それを分配政策でどう調整するかが重要となってきます。教育費、医療費が無料で、約2週間分の食料配給のあるキューバでは、全国民に対する一定レベルの生活保障は実現されています。今後は、国民生活の全体を底上げし、どのように格差のない経済発展を図っていくのかが重要な課題となっています。キューバの挑戦はこれからも続きます。

(チーフアドバイザー:北中 真人)

(注)「ショック療法」:社会主義の枠組みを解体し、急激に市場経済へ移行すること。

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ハバナ市内では今も多くのクラシックカーが走るが、観光バスや国営タクシー(CUBATAXI)は中国製や韓国製の新型車である。
出典:キューバ国基礎穀物のための農業普及システム強化プロジェクト・チーム

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野菜市場の様子。売られている野菜の種類は限られている。
出典:キューバ国基礎穀物のための農業普及システム強化プロジェクト・チーム