厳冬の草原に遊牧民を訪ねて

2023年2月15日

例年より厳しい寒さに見舞われているモンゴル。
首都ウランバートルでもマイナス40度を記録し、地方は雪に覆われ、家畜が草原に残った枯れ草をはむことも困難になっています。
このような極端な寒さや積雪に見舞われる冬の状況をモンゴルではゾド(注)と呼び、警戒されています。

「この冬はゾドになりそうだ」
プロジェクトマネージャーJ.Batkhuu教授(モンゴル国立大学)から、村田敏拓先生(東北医科薬科大学)が連絡を受けたのは冬の初め。2人は本プロジェクトの根幹となる遊牧民伝承の調査と科学的検証を協力して進めています。
「遊牧民が直面するゾドをこの目で見なければ」
最も寒いと言われる1月、村田先生は単身モンゴルへやってきました。

2人はプロジェクトサイトTuv県Arkhust村に出発。複数の遊牧民宅を訪問しました。
Erdenebatさんはプロジェクトに賛同し、牧柵の設置等に協力してくれている同村の遊牧民です。
荒廃が進む草原に危機感を覚え、自発的に木の苗を植える試みをしていた時、調査中のBatkhuu教授と知り合いました。

Batkhuu教授は、増えすぎた家畜が草原に過剰な負荷をかけてしまっていると憂慮しています。
Erdenebatさんは「昔に比べると家畜の成長が鈍化し、体格が良くない」と言います。
「家畜が必要とする栄養素は季節ごとに異なっている。しかし、草原のバランスが崩れ、いわゆる旬の植物が適切に育っていない。遊牧民にも草原の保全に意識を向けてもらう時が来ている。」
Batkhuu教授はそう考え、遊牧民との対話をとても大切にしています。
村田先生もBatkhuu教授と並び、彼らの声にじっくりと耳を傾けました。

道中、栄養不足で死んでしまった家畜を何頭も目にすることになった村田先生。
自然環境の変化を前に遊牧文化が翻弄される現実を目に焼き付け、雪に閉ざされた草原で植物調査を実施しました。調査に没頭し、気づくと汗ばむほどだったと言います。
「厳冬期に来て本当によかった」と、村田先生は確かな手応えとともにモンゴルを後にしました。
村田先生の持ち帰った貴重な情報は早速日本側研究者に共有され、研究活動がさらに活発に進められています。

(注)ゾドには数種類あると言われている。
例;ハリン・ゾド(降雪が少なく極端に寒くなり、水や草が不足し、遊牧生活に深刻な影響を与える。)
ツァガーン・ゾド(極端な寒さと積雪で草が雪に覆われ、遊牧業に甚大な被害を与えることがある。)

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遊牧民と研究者

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植物調査

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家畜の囲いにて

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死んでしまった家畜