イヌの血清学研究を実施

2022年6月10日

世界保健機構(WHO)は、犬の狂犬病をコントロールするための最も有効な手段は対象地域に生息する全頭数の70%以上のワクチン接種率を達成することだと述べています。

このような背景から、フィリピンではこれまで各地方自治体ごとに獣医事務所が中心となって集団ワクチン接種プログラムを実施してきましたが、ワクチン接種後の抗体保有率などの知見は不十分でした。また、人の狂犬病の多くが子犬からの曝露であるにもかかわらず、フィリピンではほとんどの場合生後3ヶ月からワクチン接種が開始されます。3ヶ月未満における母犬からの狂犬病の抗体価は不十分であるという報告もあり、現行のワクチン接種プログラムの妥当性を再検討する必要があります。

これらの課題を解決するにあたり、本プロジェクトはマニラ首都圏モンテンルパ市獣医局の協力を得て、同市の約420匹の飼い犬を対象に血清学調査を開始しました。

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飼い主への聞き取り調査

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会場に集まったモンテンルパ市の住民とイヌたち

当日は、各飼い主から調査への協力に関する同意書の取り付けに始まり、各イヌのワクチン接種の有無や回数、時期、また子犬の場合は母犬のワクチン接種状況等の聞き取り調査、そして当日の狂犬病ワクチン接種と採血を行い、最終的に約170匹分の血液サンプルを採集しました。

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市役所獣医局職員による子犬の採血作業の様子

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採集した血液サンプルの識別情報を記入

各イヌは年齢別に5つの対象グループに割り振られ、今後数週間毎に追跡調査の対象となる予定です。また採集した血液サンプルは、本プロジェクトのカウンターパート機関であるフィリピン熱帯医学研究所に持ち帰り、チーフアドバイザーの大分大学西園教授と大分の民間企業のアドテック社が共同開発した急速中和抗体検査(RAPINA)を用いた分析が行われます。

本研究を通して、狂犬病ワクチン初回接種1か月後、さらに初回のみ接種と2回目接種10か月後の抗体値を明らかにします。そこから母犬がワクチン接種済みと未接種それぞれのケースの3か月未満の子犬に対する適切な予防接種スケジュールが導かれ、当地の狂犬病予防対策に貢献することが期待されます。

本プロジェクトは、本研究などを通じて今後も科学的根拠に基づいた政策提言に引き続き取り組んでいきます。