フィリピンのアテネオ・デ・マニラ大学で書籍『Human Security and Empowerment in Asia: Beyond the Pandemic』発刊セミナーを開催

2024年2月23日、JICA緒方貞子平和開発研究所（JICA緒方研究所）とフィリピンのアテネオ・デ・マニラ大学は、人間の安全保障に関する書籍『Human Security and Empowerment in Asia: Beyond the Pandemic』の出版記念セミナーを共催しました。

同書はJICA緒方研究所の研究プロジェクト「東アジアにおける人間の安全保障とエンパワメントの実践」の成果としてまとめられたもので、東南アジアと日本の脆弱層のエンパワメントについて、この研究による８件のケーススタディーを取り上げています。各事例を通して、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響による障害や不確実性のため、人間の安全保障を確保するのがいかに困難なプロセスだったが示されています。

同セミナーは、アテネオ・デ・マニラ大学のディアネ・メンドーサ准教授によるあいさつと、JICA緒方研究所の峯陽一研究所長による開会の辞から始まりました。続いて、南洋理工大学（シンガポール）S.ラジャラトナム国際関係大学院のメリー・カバレロ＝アンソニー教授が筆頭編者として同書を紹介。私たちが直面する課題はつながっていると理解する重要性を指摘し、共同体として団結・連帯する価値を強調しました。

続いて、健康、ジェンダー、高齢化社会、強制移住についての4つのケーススタディーを各章の著者が発表しました。オーストラリア国立大学のマリア・タンヤグ氏は、パンデミック時のフィリピンを取り上げ、医療従事者や女性の人権保護のための活動家といった「最前線」で働く人々の経験に基づき、いかにコロナ禍が重大な「ケア格差」を顕在化させたかを説明しました。アテネオ・デ・マニラ大学のローデス・ベネラシオン氏は、パンデミック時のフィリピンにおける女性市民団体の経験を通じ、女性、平和、安全保障での水平的なエンパワメントの枠組みを提示しました。チュラロンコン大学（タイ）のスランラット・ジュムニアンポル氏は、パンデミック時のタイで高齢層が直面した複合的な安全保障の欠如に関し、トップダウンの保護とボトムアップのエンパワメントの実行についての考察を発表しました。最後に登壇したJICA緒方研究所のリセット・ロビレス研究員は、2020年のパンデミック最盛期に洪水が発生した熊本県球磨村の事例を取り上げ、災害避難と移動の不自由による重複的な安全保障の欠如に見舞われた地方のコミュニティーで、いかにエンパワメントが実践されたのかを示しました。

各ケーススタディーの発表を受け、学識者や実務家によるフィードバックが行われました。フィリピン大学のマリア・エラ・アティエンザ氏は、同書について、過去の研究プロジェクトによる書籍『Human Security Norms in East Asia』との共通点から考察を加え、フィリピンの文脈における多様なエンパワメントの形とその課題について提起し、人間の安全保障の理論から実践へどのように進むべきかを著者らに問いかけました。また、JICAフィリピン事務所のマリー・アン・バキサン氏は、人間の安全保障と質の高い成長というJICAのミッションを踏まえながら、保健と社会開発に関する協働の具体例を通じて同国でのJICAの取り組みを概説しました。

JICA緒方研究所の武藤亜子専任研究員による進行の下、アテネオ・デ・マニラ大の学生やオンラインの参加者は積極的に著者らと意見交換をし、パンデミック時の多様な脆弱層のエンパワメントや人間の安全保障の実践、パンデミック下で調査を実施する困難と学びについて、新たな考察につながる質問を投げかけました。

書籍『Human Security and Empowerment in Asia: Beyond the Pandemic』はRoutledge社からオープンアクセス形式で刊行され、以下のリンクからご覧いただけます。