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TICAD8に向けて:障壁を取り除き、公平な成長を実現するためのアフリカの回廊開発

2022年10月31日

アフリカには16の内陸国があります。これらの国々は海に面していないため、他国や他大陸との関係を築きにくいという課題を抱えています。アフリカの成長の成果をより公平に分配するためには、港湾、道路、送電線などのインフラを整備し、沿岸部と内陸部、都市部と農村部の格差を是正することが重要です。こうした格差是正に寄与する重要幹線は「回廊」と呼ばれます。

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JICAガバナンス・平和構築部国際協力専門員(貿易円滑化・税関・公共財政管理)徳織智美氏

アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の発足、世界的なパンデミックによる国境管理の強化、テロ活動の活発化、ロシアのウクライナ侵攻による輸送関連コストの上昇など、近年、回廊の開発を取り巻く環境と課題は変化しています。そのため「国際協力機構(JICA)の回廊開発も新しいアプローチが必要です」と、JICAで貿易円滑化・税関・公共財政管理の国際協力専門員である徳織智美氏は言います。

デジタルトランスフォーメーション(DX)を活用し、人材への投資を続けることで、アフリカは2021年1月に運用開始となったAfCFTAの恩恵をより享受できるようになります。AfCFTAは、モノとサービスの単一市場の創設、人の移動の円滑化、産業の発展、持続可能で包括的な社会経済成長の促進を目的とした自由貿易協定です。

「今後のJICAの回廊開発では、最新のデジタル技術を活用した運輸交通・貿易円滑化の進展を注視しつつ、大陸・地域レベルでの現在の取り組みとのシナジーを創出・補完するアプローチを模索する必要があります」と徳織氏は言います。

8月末にチュニジアで開催される第8回アフリカ開発会議(TICAD8)では、税関の近代化、貿易円滑化、貨物輸送システムの技術やデジタル化などの分野について議論される予定です。

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右、国際協力機構(JICA)社会基盤部 次長兼都市・地域開発グループ長 讃井一将氏

JICAで回廊開発の構想・計画策定に携わる讃井一将氏は「経済規模の小さいアフリカ諸国が回廊によって連携することで、スケールメリットが生まれます。それは世界と交渉する力にもなります」と指摘します。

「内陸国が貿易港や貿易ルートを近隣の沿岸国に依存している状況は、国家間の優劣関係につながりやすい。また、輸送コストが高くなるため、内陸国の産業発展は一層難しくなります。回廊を使って沿岸と内陸、都市と農村の連結性を高めることで、こうした課題が解決されるはずです」と讃井氏は言います。

回廊開発により、都市部だけでなくそれ以外の様々な地域への輸送コストを下げることで、内陸国の生産性が向上することが期待されています。

讃井氏は「回廊が結ぶ地域内の貿易や、モノやサービスの双方向の貿易を活性化させること。これこそが、アフリカにおける回廊開発の本質です」と言います。

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AUDA-NEPAD経済統合課長 トウェラ・ニレンダ・ジェレ氏

AUDA-NEPAD経済統合課長 トウェラ・ニレンダ・ジェレ氏は、「持続可能かつ高品質なインフラを構築しなければなりません。国境を越えた貿易のための輸送インフラ、電子サービスを円滑化するための通信インフラ、産業を牽引するエネルギーインフラ、さらに輸送、物流、衛生に関する水・海洋インフラなどです」と述べます。

「回廊は、地域内、大陸間、国内貿易のための強力なバックボーンを形成し、地域の経済活動の中心をつなぐ役割を果たします」(ジェレ氏)

アフリカには5つの成長回廊開発地域があり、JICAはそのうち以下の3つに関わっています。

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JICAの3重点回廊

何百万人規模のアクセスを生み出す回廊開発

「アフリカの地域経済統合、工業化の促進、アフリカ域内貿易を実現するための青写真が、アフリカ・インフラ開発プログラム(PIDA)です」とジェレ氏は言います。

JICAは2013年のTICAD V以降、3つの重点回廊をめぐり、円借款や無償資金、技術協力スキームを提供し、ハード・ソフト両面から複数のプロジェクトに関わってきました。

ハード面とは、港湾、道路、橋梁、国境施設、経済特区などの物流インフラ整備を指します。一方、ソフト面では、環境、制度・法律改革、人材育成などの側面に焦点が当てられています。

2020年に終了した第1期PIDA-PAP(Priority Action Plan)では、輸送、エネルギー、情報通信技術などの分野で、433のプロジェクトに分かれた51のクロスボーダープログラムがありました。2021年に始まり2030年まで続く第2期では、雇用創出の最大化、気候への配慮の強化、ジェンダーに配慮したインフラ整備の推進を目的に選ばれた69のプロジェクトが中心となっています。

これまでPIDAによって、16,066kmの道路、4,077kmの鉄道、3,506kmの送電線、7GWの水力発電、グローバルおよびアフリカ域内の接続性を提供する海底ケーブルや地域の光ファイバーケーブル、38のインターネット交換点が追加されてきました。2013年から2019年にかけて、約3,000万人が電力にアクセスできるようになりました。

また、JICAの資金・技術協力により、PIDAの下で優先的にOSBP(One-Stop Border Posts、国境通過と出入国手続きを1カ所に集約し、人や物の移動をより効率的に行うもの)が設置され、大陸での実践的教訓を蓄積した運用指針として2022年6月に第3版OSBPソースブックが発刊されました。

「JICAは、OSBP以外にも、貿易円滑化と税関の近代化に焦点を当てた世界税関機構(WCO)との共同プロジェクトを通じてアフリカの税関行政の能力強化に取り組んでおり、AfCFTAの円滑で効果的な実施に貢献しています」と徳織氏は言います。

現地のステークホルダーも同様に、回廊の潜在的可能性を最大化しようとしています。その一つが、2011年に設立された西アフリカの貿易拡大を目指す民間セクター主導の連合体である、ボーダレス・アライアンスです。

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ボーダレス・アライアンス 事務局長 ジャスティン・バイリ氏

ボーダレス・アライアンスはビジネス環境の改善に向け、国や地域レベルで、公的機関や民間事業者が政策や実務をどのように改善すべきかを提言しています。

事務局長のジャスティン・バイリ氏は「国境情報センターの存在は、交通上の障壁を減らし、国境通過時間を短縮することで、回廊の競争力向上に貢献しています」と述べます。

しかし、同氏は「アフリカの他の地域とは異なり、西アフリカには回廊管理当局がないため、経済共同体のなかで政策的な整合性が取れていない」と指摘します。

「アフリカ連合は、西アフリカにおいては回廊創設のための法的枠組みだけでなく、回廊管理当局の設立など、管理面の強化も支援すべきです」と言います。

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しかしジェレ氏は、回廊のアプローチは、「分野横断的な、水・健康・エネルギー・食料ネクサス プロジェクトで、パンデミック後の経済復興のニーズに対応する機会になる、という点でコンセンサスを得ています」と話します。

「回廊のネットワークは、アフリカの統合を促進し、アフリカ域内の貿易を促進し、持続可能で包括的な経済成長につながる工業化を促進します」(ジェレ氏)

また、同氏はグリーンこそインフラの未来であると言います。

「私たちは今後何年にもわたって世界の在り方を形づくるチャンスを得ているのです。今こそ、断固とした行動をとらなければいけません」(ジェレ氏)

(本記事は2022年8月23日に掲載した「Towards TICAD8:Africa's Corridors Break Down Barriers, Ensure Equitable Growth」を基に作成したものです)