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事例紹介2015.07.15

再生エネルギーで農村をデザイン! (前)

Solargao Limited/Mr. Sufi Iqbal Ahmed さん

地域:ラルモニルハットロングプールロングプール管区

テーマ:資源・エネルギー農業/農村開発

団体の種類:民間企業

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統合的農業に挑戦するソーラーガオ社

バングラデシュで統合的農業(Integrated Farming)と呼ばれる新しいコンセプトで農業の近代化を図ろうとする先進的なソーシャル・エンタープライズがある。太陽光をはじめとした再生エネルギーを活用し、農村の電化、農業の機械化、農業技術の近代化を統合的に進めようとしている社会的企業である。

同社はその名もSolargao(ソーラーガオ)。「gao」とはベンガル語で「村」を意味する。太陽光の村ーその名称の通り、太陽と自然の恵みを人間の持つ技術や知恵と結びつけて、地球環境に優しく、農村の生活を豊かにするための活動に取り組んでいる。

ソーラーガオ社のユニークなところは、卓越したイノベーションのデザイン力にある。新しい技術を使った社会課題の解決は、多くの人々によって試されているが、機械や器具あるいはシステムの単体での適用で終わることが多い。ところが、ソーラーガオの場合、ひとつのソリューションを、コミュニティの多様な要素と有機的につなげることでイノベーションをデザインする。技術やアイデアで解決できるひとつのソリューションをモジュール化し、農民やコミュニティの状況にあわせて、モジュール化されたソリューションを柔軟に組み合わせていく。

ソーラーガオが提唱する「Integrated Farming(統合的な農業)」は、その言葉の通り、農村の生活改善を経済、社会、環境といった多様な側面から捉え、適切な技術やアイデアをコミュニティの中に組み込み、新たに農村のコミュニティを統合しなおしていくことを意味する。

その事例のひとつが、同社が進める「グリーン・ウパジラ(Green Upazila)プロジェクト」である。ウパジラとは日本で言えば郡にあたる行政単位である。バングラデシュ北西部に位置するランプール県のボデルガンジというウパジラ全体をエコ・ヴィレッジに組み直して、農業の発展と農村の生活改善を目指している。

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ソーラー灌漑システムの導入

エコ・ビレッジの主役になるのは「ソーラー灌漑システム(Solar Irrigation System)」である。灌漑とは、農作物を育てるのに必要な水を耕作地に引いてくることをいうが、ボデルガンジでは地下水を使っている。この地下から水を汲み上げるためのポンプはディーゼルを燃料としていたが、これを全てソーラー発電に動くソーラー灌漑システムに置き換えようとするプロジェクトである。ボデルガンジにある3000台を越すディーゼル・ポンプが、2015年末には600基のソーラー灌漑システムに全て置き換わる計画だ。

実は、このソーラー灌漑システムはバングラデシュ政府が重視する再生エネルギー活用法のひとつである。現在、政府は農業振興のため、灌漑用のディーゼル燃料に補助金を出しているが、政府の財政負担も大きく、個々の農家にとってもコスト高となっている。この解決策としてソーラー灌漑システムが注目されているのだ。政府は、2016年までに1550基のソーラー灌漑装置を全国に普及させたいとし、将来的には現在年間2.8億ドル(約336億円)に上る補助金を大幅に解消するのが目標だ。

ソーラーガオの本プロジェクトは、現在進められているソーラー灌漑システム案件の中で、最大規模のものであり、政府の期待も大きい。資金については、世界銀行やバングラデシュ政府のインフラ開発公社(IDCOL)等の支援を受けている。( 出典 : The Daily Star, “Solar irrigation pumps gaining traction”, 2014年8月11日 )

本プロジェクトの現場をソーラーガオの代表であるスーフィさんとディレクターのシュポンさんに案内して頂いた。見渡す限り広がる美しい田園風景の中に待っていたのは、銀色のパネルを空に向けて、太陽の光に反射するソーラー灌漑システムであった。不思議に違和感はなく、風景と静かに調和して端然と佇んでいた。

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ソーラー灌漑システムは、54枚のソーラーパネルで一基ができており、7.6 キロワットを発電する。発電された電力を使い、電子制御されたポンプが井戸の底から水を汲み上げる。汲み上げられた水は、地下に張り巡らされた水道管を通り、地上の随所に出された排水口から田畑に水を供給する。外国製の高性能ポンプは、400メートル先の水道口まで水を送り出すことができるという。実際に、ポンプから水を汲み上げるところを見せて頂いたが、とても勢い良く水が田畑に引かれていた。

スーフィさんによれば、本システム一基でディーゼル・ポンプ5台を置き換えることが可能だという。ソーラーガオは、2015年末までに600基設置してこの地域のディーゼル・ポンプ全てを置き換える計画で、既に60基が設置され稼働している(2014年12月時点)。ひとつのウパジラ全体の灌漑設備をソーラーエネルギーに置き換える試みはバングラデシュでも初めてのケースである。

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ソーラー灌漑システムのビジネスモデル

この灌漑システムは、農民が使用料を払うビジネスモデルとなっている。灌漑は、常時必要なわけではなく、シーズンごとに灌漑を要するタイミングと期間が決まっている。農民は1回のシーズンで、1エーカー当たり6,000タカ(約9,000円)の利用料金を支払うことにより必要な水を自分の田畑に引く。ディーゼルでは1回のシーズンで1エーカー当たり9,000タカ(約13,500円)を負担していたので、30%の燃料コスト削減となる。

ソーラー灌漑システムは、ソーラーパネル、制御装置と格納庫、ポンプ、地下に水を通すためのパイプなどから構成され、コスト節約のため電池は付属されておらず、日照に合わせてパネルの角度を調整するのも手作業だ。これらの設備と工費を合わせた費用は180万タカ(約2百万円)となる。

この資金の調達方法であるが、オーナーが費用全体の20%を出資、政府が40%の助成金を出し、残りの40%を世界銀行や政府のインフラ開発公社が低利で長期融資を提供する。オーナーは、近隣の農家からの利用料金で借入れを返済し、出資金に対するリターンを受け取るモデルとなっている。2014年にはIDCOLが総額4350万タカ(約6090万円)分のソーラー灌漑システムを支援する契約を結び、このプロジェクトの進捗次第で更なる追加支援が検討されるという。

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ソーラーガオは、自らがシステムのオーナーになるケースもあるが、基本的にはプロジェクト全体を推進し、個々のシステムの設置と運営上のサポートをする役割を担う。現地のニーズを汲み上げ、適切な技術を組み合わせ、最適なソリューションを提供することをソーラーガオはミッションとしている。プロジェクトを企画し、資金調達のアレンジを行い、ソーラーパネルやポンプなどの設備の調達も同社の仕事だ。

ソーラーガオは「ソーラー灌漑システム」というソリューションをひとつのモジュールにしながら次の展開を考えている。同社が目指すのは、統合的な農業(Integrated Farming)による農作業の近代化と農民の所得の改善である。再生エネルギーを活用して、環境に配慮したサステナブルな開発モデルを実現しようとしているのだ。

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