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事例紹介2015.07.15

再生エネルギーで農村をデザイン!(後)

Solargao Limited/Mr. Sufi Iqbal Ahmedさん

地域:ラルモニルハットロングプールロングプール管区

テーマ:資源・エネルギー農業/農村開発

団体の種類:民間企業

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ソーリューションを組み合わせる

ソーラーガオが取り組む農村の課題は、いくつかの分野に分けることができる。ひとつは農業の近代化であり、農業機械の導入がメインの課題となる。次が農家の所得水準の向上とコミュニティの社会インフラの改善。さらに農民の電化と続く。こうした一見それぞれが無関係に見える課題解決のソリューションを相互に組み合わせていくことで、最大効果を発揮するようにデザインするのが、「統合的な農業(Integrated Farming)」のコンセプトだ。

例えば、ソーラー灌漑システムは田畑に安価で効率よく水を引くことが目的のソリューションであるが、季節ごとの一定期間にしか利用しないので、未使用時は発電した電力が消費されずに無駄となる。一方、トラクターや耕耘機などを使った農業機械の導入は人手不足と人件費の高騰に悩む農家にこれから不可欠なものの、燃料費が高い。そこでソーラーガオは、農業機械の動力を電動エンジンにして、ソーラー灌漑システムで余剰となった電力を充電用に使うことを検討している。トラクターを動かすほどの発電はまだできないので、まずは電動の脱穀機など軽量級の機械から試験的に始めている。

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またコミュニティの教育や医療などの社会インフラの改善のため、小さな公民館のような家をソーラー灌漑システムの敷地内に設置し、コミュニティのクリニックに利用したり、情報収集や遠隔教育のセンターとして活用する場づくりにも取り組む。無電化地域では、保冷用の装置を持てないのでワクチンなどを備えたクリニックの運営は難しかったが、ソーラー発電の余剰分を生かすことで僻地にある農村でもクリニックを持てるようになる。

更に農産物の保冷倉庫が慢性的に不足していることから、ソーラーガオは簡易式の保冷倉庫を開発している。これは折りたたみ式で、季節に応じて場所を移動しながら使えることを意図しており、試作品でテストを繰り返している。この電力もソーラー灌漑システムと連動させることで機能を発揮できる。

もちろん、家庭用の電気としても利用することを検討しており、ビジネスモデルを検討中だ。家庭用の電気として利用する場合、電池が必要となるのでコストが高くなる。電気を利用する各家庭から利用料金を徴収する仕組みも含めて、今後の検討課題となっているそうだ。

こうしてモジュール化したソリューションを組み合わせながら、最大の効果を挙げようとするのが「統合的な農業」のデザインである。場所やコミュニティの特性に応じて、その組み合わせは異なってくるが、地域の理解をベースに作り込んでいく方法はとても新しいものだと言えよう。

Integrated Farming

ウポジラ全体をスマートグリッド化

ソーラーガオのグリーン・ウポジラ・プロジェクトは、ウポジラ(=日本の郡に相当)の全てのディーゼル・ポンプを600基のソーラー灌漑システムに置き換えようとするものであるが、各システムが7.6キロワットとして全体では最大4.5メガワットの発電量となる。ソーラーガオの次の狙いは、これらのソーラー灌漑システムを相互に繋ぎ、ウポジラ全体をスマートグリッド化することにある。全てのソーラー発電を制御することで、個別のソーラー発電では無理であった大容量の消費電力にも対応できる。例えば、電動トラクターの充電などである。

このような取り組みは、バングラデシュで初めてであるが、実現できれば画期的なものである。技術的な課題がいろいろとあると予想するが、このようなプラットフォームができれば、ソーラーガオの提唱する「統合的な農業」の幅とインパクトは、もっと大きくなるであろう。

バングラデシュの「7人の侍」

ダイナミックな展開を行い、政府にも注目されているソーラーガオであるが、実は2013年に設立した新しいベンチャー企業である。面白いのは、経営陣の背景である。

バングラデシュ出身のスーフィさんは土木技師としてカナダに移住し、多くの仕事を手掛けてきたベテラン技師であった。カナダで実績を残した彼は、バングラデシュの人々のために貢献したいと考え、故国に戻る決心をする。このスーフィさんの思いに呼応して、仲間が一人、二人と集まってきた。創業メンバーの一人であるシャーさんはカナダの人類学者であった。またタリクさんもカナダで工業デザインのデザイナーとして活躍していた。他にも、ジャーナリストや経済学者、グラフィックデザイナーなど、様々な背景を持つ人々が、スーフィさんの志に共感して仲間となってくれた。

個性や背景の違うメンバーがうまく調和し、ソーラーガオのイノベーションをデザインしている。「個性の違うメンバーが集まって農民のために戦うというのは、黒澤明監督の映画「7人の侍」のようですね」と言うと、スーフィさんは嬉しそうに笑ってくれた。

ソーラーガオ創業者の一人、シャーさん

理解を得るのに必要なこと

「最初は誰も信じてくれなかった」とスーフィさん。2年前にソーラー発電で動く灌漑用ポンプを全ウポジラに広げるグリーン・ウポジラの構想をまとめ、村の農家をひとつひとつ回って説明した。しかし、農家の人々は笑って相手にしなかった。農民は変化を好まない。新しいことに対しては、まず拒否反応を示すのだ。

スーフィさんは、実際にシステムを稼働させ、メリットを見せないと人は納得しないことを悟り、自己資金で最初のソーラー灌漑システムを設置し、稼働させた。百聞は一見にしかずということだ。実際に稼働する様子を見て、はじめて農民達は関心を示した。ソーラー発電で排水口から勢い良く出る水を目にした農民は、こぞってシステムの利用を申し出ることになった。最初は利用者としてであったが、オーナーになりたいと考える農家も出てきた。

農家の方々に変化を求めるためには、まずそのメリットを見せ、体験してもらうことが大事だとスーフィさんは語る。今も、農業機械の導入のメリットを理解してもらうために、自分たちでまずやってみて、農家の方々に体験してもらうことを心掛けているという。

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日本企業とのコラボレーション

最後に日本の企業や研究者との恊働の可能性について聞くと「日本からの技術移転などの機会があれば大いに歓迎する」という。実際、国際間の恊働の事例として台湾製のポンプの事例を話してくれた。この台湾製のポンプは、小型だがパワフルで、耐久性に非常に優れ、泥や小石などからの傷にも強い抵抗力を持っているそうだ。

実はこのポンプは灌漑用のものではなく、水の浄化槽に使うものであったが、スーフィさんが展示会でこれを見かけ、すぐにメーカーと掛け合い、灌漑用に半年間かけて改良してもらった。何度も台湾に足を運び、メーカーの社長もバングラデシュの現場を視察しにきたという。

「統合的な農業」の手法は、日本企業のソリューションとの組み合わせも十分に可能だと思われる。さまざまな分野での入り口を用意しており、一つの地域のプラットフォームとなっていることから、日本企業の持つ技術やアイデアを生かすテストケースとしてのコラボレーションも面白いと思われる。

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