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事例紹介2016.06.13

雨水博士の闘うBOPビジネス(第1回)

Skywater Bangladesh Limited/会長 村瀬 誠さん

地域:クルナ管区バゲルハット

テーマ:水資源・防災

団体の種類:民間企業

雨水タンクについて熱く語る村瀬 誠さん

雨水タンクについて熱く語る村瀬 誠さん

スカイウォーター・バングラデシュ社の社長である村瀬さんがバングラデシュの飲み水の問題に取り組み始めたのは、もう16年も前のことである。バングラデシュでは、地下水ヒ素汚染が全土に広がり、沿岸部では塩害が深刻だ。世界的な雨水利用の権威である村瀬さんは、飲み水に困る人々を支援することを自らのミッションと信じて2011年からBOPソーシャルプロジェクトに取り組んできた。 目指すのは、援助だけに頼るのではなく、ソーシャルビジネスの手法を活用したサステナブルな社会の実現だ。人々がオーナーシップを持って、自らの課題に取り組むことが大事だという。それを技術面や資金面で支援するのが、日本人である村瀬さんの役割であり、ヒューマン・スピリットであると語る。 しかし、簡単なことではない。壁や障害が、次から次へと襲ってくる。村瀬さんは、逃げずに真正面に向き合って戦っている。2年前に取材した時、「BOPビジネスはネバーギブアップが大事」と教えてくれた。あれから2年、村瀬さんはどんな戦い方をしてきたのだろうか。

新たな難題

村瀬さんが取り組んでいる事業は、雨水を貯める巨大な水瓶=雨水タンクの製造、販売及び設置である。年間を通じて安全な水が得られるように雨季で溜めた雨水を乾季に飲料水して利用するものだ。雨水を村瀬さんは「天水」という。地球の水循環という巨大な自然の蒸留装置を通して得られる雨水は、まさに天の恵みである。感謝の気持ち込めて、製品である雨水タンクを「AMAMIZU」と名付けた。 スカイウォーター社のAMAMIZUは、容量が1トン。モルタル製で、職人の手作業で一つ一つ丁寧に作られている。成型された雨水タンクは、一定の養生期間を経て最終製品となる。単純そうな作業に見えるが、様々な技術やノウハウが詰め込まれており、簡単には真似されない。

雨水タンク

2年前に1000個目のAMAMIZUを生産し、販売は順調に伸びていた。「家族の下痢がなくなった」、「水汲みの時間が大きく節約できる」といった評判が評判を呼び、徐々に遠くの村々からも注文が入るようになった。 ハプニングが起きたのは、まさに本格的に販路を拡大しようとした矢先であった。雨水タンクから水漏れがするとのクレームが次々と舞い込むようになったのである。 品質管理は厳重に行っているので、今まで水漏れのクレームはなかった。さんざん調べてみたが、製造や在庫管理には問題は見つからない。そこでバリューチェーンの一つ一つを検証すると、雨水タンクの輸送方法に問題があることが判明した。 農村地域の道は、ほとんど舗装されていない。ひどいデコボコ道である。250kgの雨水タンクを台車に乗せて顧客までエンジンバンで運ぶが、販路が拡大するに従い、輸送距離も長くなる。デコボコ道で上下に長時間揺らされているうちに、タンクに細かい亀裂が入り、一見だけではわからないが、水を貯めると水漏れを起こす。貧困層にとって、雨水タンクは安い買い物ではない。ましてや、家族の健康がかかっている。タンクの水漏れは一大事であった。

バングラデシュの悪路

バングラデシュの悪路

背水の陣

村瀬さんが、スカイウォーター事業でもっとも大事にするのが顧客からの「信用」である。しかし、信用できないインフラや環境の中で、自らコントロールできる範囲は狭く、人との約束を守り、信用を築くことは想像以上に難しい。雨水タンクには全製品に品質保証をつけてあり、問題があれば交換すると顧客に約束している。今の状態では、約束していた製品の交換をしたいと思っても、遠隔地には安全にタンクを届けられない。 「交換する」と言った約束を果たせないのであれば、築いてきた信用が崩れてしまう。交換すると約束したからには交換しなくてはいけない。これは信用の問題である。さらに、製造業にとって安全に製品を輸送できないということは、ビジネスの終わりを意味する。村瀬さんは、頭を抱えた。 BOPビジネスは、通常のビジネス以上に、コストに対する制約が大きい。遠隔地に新しい工場を設置したり、コストをかけて輸送手段を改善したりするようなことは立ち上がり段階では難しい。修理のための人員増強も、現実的ではない。

輸送される雨水タンク

輸送される雨水タンク

あとは、デコボコ道に耐える新しい雨水タンクの開発である。言うは簡単であるが、一朝一夕にはできないし、開発コストもかかる。しかも、開発に成功する保証はなく、どれほどの期間を要するかも定かではない。しかし、事態打開に残された可能性はこれしかない。 村瀬さんは、新規の受注を全て停止した。背水の陣をとったのだ。デコボコ道に耐える耐久性のある雨水タンクの開発に、事業の命運を賭けた。会社が潰れるか、新製品の開発が先か。「スーパーAMAMIZU」の開発へ向け、村瀬さんの闘いが始まった。

雨水タンクの表面を仕上げるために、写真のフィルムを最後に利用する

雨水タンクの表面を仕上げるために、写真のフィルムを最後に利用する。

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