このページのTOPへ戻る

バングラデシュ進出支援・現地情報ならBangland(バングランド)

HOME事例紹介雨水博士の闘うBOPビジネス(第2回)

事例紹介2016.06.13

雨水博士の闘うBOPビジネス(第2回)

Skywater Bangladesh Limited/会長 村瀬 誠さん

地域:クルナ管区バゲルハット

テーマ:水資源・防災

団体の種類:民間企業

雨水博士の闘うBOPビジネス

売っているのは健康と生活改善

「雨水タンクが何百台売れたのかという“アウトプット”ではなく、雨水タンクにより人々の生活がどのように変わったのかという“アウトカム”の方が重要」と、村瀬さんは話す。つまり「現地の問題の解決=人々の健康と生活の改善」が事業の目的にある。村瀬さんにとって、雨水タンクの製造・販売は手段であるが、本当に売りたいのは安全な飲み水による人々の健康と生活改善である。その対価として収入を得て、持続可能なビジネスを構築することが、BOPビジネスの本筋だと考えている。

だから村瀬さんのアイデアの源泉は常に人々の生活の現場にある。村の人々の生活のレベルや、ものの考え方や捉え方などを理解することから始まる。人の意識を変えることは、極めて難しい。村の人々は、困っているからといって、新しいソリューションに飛びつくことはない。新しいものには、むしろ極めて保守的だ。わからないものに手を出すよりは、汚い水を飲むにしても、慣れ親しんだ方法を選ぶ。製品の良し悪しを訴えても訴求力は弱い。まずは信頼を築くことが、先決なのだ。

ラーマンさん

ラーマンさんの事例

メジャタール・ラーマンさんは、そんな村瀬さんの大切な顧客の一人である。

ラーマンさんの家は5人家族で、エビの養殖と農業で生計を立てている。収入は少なく、暮らし向きは楽ではない。なけなしの資金で、ラーマンさんが2013年に1基、AMAMIZUを割賦払いで購入したのは、安全な飲み水で家族の健康が守れるという村瀬さんの言葉を信じたからだ。

ラーマンさんには、製品の良し悪しは、本当のところよくわからない。ただ、村瀬さんの作成したビラや説明会で、安全な飲み水の大切さを知り、製品を売るためではなく、人々の健康と生活水準の改善を訴える村瀬さんの姿勢に心を動かされた。「年に少なくとも3~4回は下痢の為に病院で点滴を打たなければならなかったが、AMAMIZUで家族はずっと健康になった」とラーマンさんは語る。

最初の1基の支払いを終えると、2014年には2基目も購入した。顧客のこうしたロイヤルティが、ビジネスを拡大させる。口コミで評判が広がり、実際に健康や生活を改善している様子が実際に目に見えてくると、頑なな村人たちの心も開いていく。村瀬さんが、リスクを取ってまで信頼に応えようとするのは、そうした確信があるからだ。

ネバーギブアップ!スーパーAMAMIZUの誕生

新しい雨水タンクは、長時間にわたるデコボコ道での揺れと衝撃に耐える耐久性がなくてはならない。そのための構造と素材の研究に没頭し、寝食を忘れて世界の技術を調べ直したところ、フランスのフェロセメントという技術に行き着いた。コンクリート製ヨットなどにも使われる技術で、強い衝撃性と軽量化が特徴だ。

ダッカにフェロセメントを知る専門家を探し、これを工場に呼び寄せ、フェロセメントを活用した新雨水タンクの開発を続けた。試行錯誤の結果、スチールワイヤネットをモルタル層の間に埋め込むことで雨水タンクの耐久性が大きく改善することを発見。長時間のデコボコ道を輸送しても、亀裂が入ることはなくなった。村瀬さんは、この新しいタンクを「スーパーAMAMIZU」と名付ける。

新技術の開発には数か月を要した。その間、営業を停止していたことから、2015年の売上は目標の3分の2にまで落ち込んだ。しかし、販売活動をすぐに開始するのではなく、まずは既存顧客の亀裂の入ったタンクを無償で新製品と交換した。失われかけた信頼を取り戻すことが優先である。その上で、停止していた営業活動を再開した。

スタッフと打ち合わせをする村瀬さん

BOPビジネスに教科書はない

売上が落ちた上に、フェロセメントの追加によりコストは10%アップしており、収益面は厳しくなった。しかし、村瀬さんは失ったものより、得たものの方がはるかに大きいと考えている。それは、人々の信頼だ。無償交換のストーリーは、AMAMIZUブランドの逸話として人々に語られるだろう。長期的なビジネスを考えた時、人々からの信頼こそが会社を支える。それは先進国であろうと、発展途上国であろうと変わらない。

所得層に応じて、大型の雨水タンクも販売

社員に製品の品質や顧客ロイヤルティの大切さを伝えることができたのも大きな成果だ。現地の問題は、現地の人々で解決することが一番良いと考える村瀬さんにとって、こうしたビジネスの基本をひとつひとつ伝えていくことも大切な仕事だ。

BOPビジネスに教科書がある訳ではない 〜 村瀬氏の戦いは、まだまだ続く…….

同じ連載の記事はこちら

一覧へ戻る