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事例紹介2016.10.01

1時間で届けます!食料・雑貨のオンラインサービス〜シリコンバレーが認めるベンチャー企業〜

Chaldal.com

地域:ダッカ

分野:食品

配送トラック

食料雑貨のオンライン宅配サービスを開始

ダッカを初めて訪れた人は、その交通渋滞のひどさに目を丸くするであろう。自動車や二輪車が道を塞ぐだけではない。人力車(リキシャ)、牛車、リヤカー、牛、ヤギとなどが、渾然一体となってカオスをつくり、人が溢れ、クラクションと怒声があちこちで飛び交う。この様子を見れば、食料や雑貨を1時間で届けるオンライン宅配サービスなど商売にならないと思うのが、一般的な感覚である。

しかし、バングラデシュの若い起業家3人の目には、この渋滞が大きなビジネスチャンスに映った。

バングラデシュの都市に住む人々のライフスタイルは、どんどん忙しくなっていて、ゆっくり買い物をする時間も無くなっている。簡便な宅配サービスには、高いニーズがあるが、渋滞がひどく、オペレーションも複雑で、だれもまともに挑戦しない。しかし、自分たちには、シリコンバレーで磨いた技術とアイデアがある。困難に立ち向かう覚悟もある。この国の誰にもできないようなビジネスを自分たちが実現してみよう。

バングラデシュのベンチャー企業Chaldal.com(チャルダルドットコム、以下Chaldal)は、そうして2013年に設立された。「尖った」個性をもつ新進企業である。

Chaldalは、食料雑貨のオンライン宅配サービス会社として、ダッカ市内の顧客を対象に、現在4000品目を超える生鮮食品や雑貨をネット販売している。注文された品物を1時間以内に自宅やオフィスに届ける型破りなサービスが売りだ。

現在、ダッカ市内に5つの配送センターを持ち、来年はチッタゴン(バングラデシュ第二の都市)とシレット(同第三の都市)に進出する計画で、ビジネスは順調に拡大、この業界トップ企業に成長した。

社長の写真

Chaldal.comのCEO ワシーム・アリム氏

リスクをチャンスに変える

インフラが高度の整った日本では、宅配サービスは決して珍しくないサービスである。しかし、バングラデシュで宅配サービスを始めるには、日本では到底考えられない無数の障害を乗り越えなければならない。

例えば、正確な地図がないことである。ダッカ市は、入り組んだ迷路のような小道がたくさんあるが、政府が正確な地図を出すことに慎重なこともあり、こうした道は地図に載っていない。しかも、ダッカの番地や通り番号は、順番通りになっていない。整備計画された都市ならば、通りの順番もRoad1の次はRoad2と続くが、ダッカの場合は計画が行き届いていないので、Road 1の次がRoad 7になったりする。通りの番号や番地を見ただけでは、正確な位置を特定することが難しい。注文を受けて届けようにも、届け先の場所を探すだけでもたいへんなのだ。もちろんカーナビもない。

また宅配するスタッフは、基本的な教育や社会人のトレーニングを受けていない人が多く、そのマネジメントは極めて難しい。職業倫理もきちんと教えられていないので、日本ではあたりまえと思われている常識が、バングラデシュでは通用しない。スタッフの時間管理、金銭の管理など、あらゆる点で細心の注意を払わないと、機能しなくなる。

Chaldal.comのHP

Chaldal.comのホームページ

そもそも宅配サービスは、極めて複雑なプロセスを要する商売である。注文を受けて、倉庫から品物を選び、包装し、配車や配送ルートを決めて品物を顧客へ届け、代金を受け取って会社で精算する。売れるかどうかの市場リスクもあるが、オペレーションリスクが非常に高い。

しかし、リスクが高いだけに競合も参入しづらい。先行者としての地歩を固めることで、業界でのコストリーダーシップを維持する戦略をとることができる。Chaldalは、創業者のそれぞれが卓越した能力をもつ。シリコンバレーで培った情報通信技術(IT)に関する豊富な知識と経験、大規模なアパッル工場でのオペレーションのノウハウ、ファイナンス事業の経験を生かして、人が見向きもしなかった市場に商機を見出した。

野菜の仕分け

注文を受けて野菜を仕分けするスタッフ

他社が真似のできない競争優位性

Chaldalの強みは、IT、オペレーション、ファイナンスに卓越し、それぞれが有機的に組み合わされている点である。

際立つのは、ITを活用したシステム開発能力である。創業メンバーであるワシーム・アリム(Waseem Alim)氏とテハス・ビスワナス(Tejas Viswanath)氏は、もともと米国シリコンバレーのFintech(フィンテック、ITと金融を組み合わせた新サービス)ベンチャー企業であるSigfig社において、創業期から商品開発に関わっていた。アリム氏は米国の名門ウォートン大学で金融を学び、SigFig社の商品開発の責任者となり、シンガポールで学んだビスワナス氏は高度なシステム開発のエキスパートである。

現在(2016年5月)、1日に600件以上の注文を受けるが、注文を受けてからの一連のプロセスは、すべてシステムで管理されている。宅配に使われるトラックとオートバイは、GPSで場所と稼働状況をモニターされており、注文ごとに全体の配車と配送ルートの最適化を図っている。

PCの画面で地図

Chaldal.comでは自社開発のシステムで配車・配送を管理

GPSのデータは、各スタッフの成績が細かく管理することにも利用するが、運送車の位置情報や移動ルートを分析することで、独自のダッカ市内地図も開発している。

創業者の一人ジア・アシュラフ(Zia Ashraf)氏は、アパレル工場で数百人の生産管理をしてきた経験を生かし、勤怠管理、在庫管理、調達管理などにおいて徹底したモニタリングと合理化を図る。基礎教育や社会人教育を受けていない人々を雇用することを前提に、プロセスを細かく管理し、業務がシンプルに運営できるように工夫を凝らす。

例えば、配達員には一切釣り銭を持たせない。顧客に釣り銭が必要な場合にも、釣り銭は渡さず、次回購入時の前払金に充てる。またタイムカードは替え玉行為ができるので信用せず、指紋認証で勤怠時間を管理する徹底ぶりである。

また、Chaldal.comの強みは、その資金調達能力にあるであろう。米国シリコンバレーの著名なアクセレーターである500 StartupsやY Combinatorが出資したことで注目され、すでに500万ドル(約5億3500万円)を超える資金獲得に成功し、システム開発や設備投資に投資している。

スタッフたち

Chaldal.comの配達スタッフ

時代の変化を先取りし、困難に挑む

Chaldalの成長要因は、技術力や資金だけではない。そこには、近年のバングラデシュの社会経済的な変化をとらえた先見性がある。

バングラデシュでは、農村から都市へ人口が移動し、都市化と核家族化が進んだ。女性の社会進出も増え、人々のライフスタイルは様変わりしつつある。より簡便な方法で、安心かつ安全な食料雑貨を購入したいと考える人々が、特に若い世代の間で増えているのだ。

またバングラデシュにおける通信インフラの普及、コールドチェーンの広がり、モバイルファイナンスやクレジットカードの普及などがChaldalのビジネスモデル支えている。

しかし、何よりもChaldalを際立たせているのは、困難への飽くなき挑戦であろう。食料雑貨のオンライン宅配サービスのシステムは、頭で考えただけでは到底構築できない。無数の失敗に懲りず、困難な課題に取り組む情熱こそが、Chaldalの骨太な事業を育てている。

注文された商品のカゴ

注文された品物はカゴで整理される

日本企業への期待

Chaldalの日本企業への期待も大きい。システム開発などのソフトウェアはChaldalが自信を持っているが、物流にかかる設備などハード面には試行錯誤を繰り返している。例えば、JICAが開発を支援した「チョットクール」という簡易冷蔵庫をインドから輸入して生鮮食品の輸送時に使っている。さらに、これにバッテリーが付いたものを探しているという。新しい方法に貪欲だ。日本の優れたコールドチェーンのマネジメント(例えば魚介類の管理など)や人材育成などの点でコラボレーションしたいと考えている。

Chaldalの構築している物流を生かした製品やサービスの展開も考えられる。Chaldalのネットワークや顧客基盤を自社製品の販売テストやマーケティングに活用するような戦略も可能だ。

配送バイク

Chaldal.comの配送バイクは渋滞をすり抜けて走る

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