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産業レポート2016.10.20

近代化前夜のバングラデシュ食品流通業界〜都市部を中心に近代化が進む食品小売業〜

地域:全国

分野:食品

スーパーの野菜棚

伝統的なバングラデシュのライフスタイルに変化の兆し

「お客さん、トマトはどうかね。これは新鮮でうまいよ。買っていきな。」山と積まれた色とりどりの野菜を前に、八百屋の主人が声をあげて呼びかける。「いくらだい?」「1キロ150タカだ。」「高いね。」「まけるよ。」バングラデシュの市民が通う青空市場や公営のマーケットでは、あちこちで売り買いの掛け声が交差して、にぎやかこの上ない。

日本では遠い昔に失われてしまった光景だが、バングラデシュではいまだ健在だ。人々は日々の野菜・肉・魚などの生鮮食品、穀類、スパイス・調味料などを市場で買う。スーパーマーケットに慣れてしまった私たちには、いちいち店を渡り歩いて買い物するのは面倒に感じるが、バングラデシュの人々はこんなやりとりを楽しんでいるようにさえ見える。

八百屋

市場での野菜販売

バングラデシュにおけるこうした伝統的な市場やマーケットでの食品販売は、食品流通の9割以上を占めると言われ、バングラデシュの人々の生活に深く根付いている。市場で買う食材が一番新鮮で安全だという。売られているのは季節の野菜や果物で、鶏肉は生きた鶏をそのまま買って家で捌くのが普通だ。

しかし、バングラデシュの経済が発展し、社会のあり方や人々のライフスタイルが変化していくなかで、日々の食品を買う行動にも変化の兆しが表れている。

市場を渡り歩く時間的な余裕も失われてきた都会の消費者は、利便性や簡便性を求めるようになり、サッサと手軽にスーパーマーケットで買い物を済ます新しいスタイルに変わりつつあるのだ。

魚屋

魚も市場の路上で売られている

バングラデシュにおける近代的小売業の誕生

バングラデシュに近代的な小売業が誕生したのは、比較的最近のことである。

ダッカの高級住宅街には古くから富裕層や外国人を相手にしたコンビニエンスストアがあり、輸入製品などを取り扱って品揃えは豊富にあるが、それはほんの一握りの人々を対象にした小規模の商いであった。いわゆる近代的な小売業と言われるスーパーマーケットは、21世紀に至るまでバングラデシュに存在していなかった。

バングラデシュ初の近代的なスーパーマーケットがオープンしたのは、ようやく2001年になってからである。Agora Superstore(アゴラ・スーパーストア)がダッカ市内に4店舗をオープンし、バングラデシュに新しい小売業の幕開けを飾った。

当初は品揃えが少なく、商品棚は輸入製品が多く、従来からあったコンビニエンスストアをちょっと大きくした程度であった。生鮮食品の棚も新鮮さはなく、伝統的な市場の野菜や果物、肉や魚に比べ、見劣りしていた。それでも清潔なフロア、簡便なレジ、明るい雰囲気、スタッフの丁寧なサービスなど、いままでにない要素で徐々に人々を引きつけていった。

スーパーマーケットの様子1

ダッカ市内のスーパーマーケット

Agoraは、2010年に欧米の投資ファンドなどの出資を受けて店舗の設備や物流の改善を図り、商品の品揃えや生鮮食品のサプライチェーンの強化などに投資を行い、スーパーマーケットとしての魅力を高めた。国内産の食品に重点を置き、品揃えも格段に豊富になった。

Agoraが開始されたあと、Meena Bazar(2002年)やShwapno(2008年)などの競合が次から次へと参入し、スーパーマーケットの数は一時全国に130店舗に拡大した。品揃え、店舗の大きさやデザインなど、それぞれに特徴を持ち、サービスを競い合っている。AgoraやMeena Bazarがダッカ市内に商圏を限定しているのに対し、Shwapnoはダッカ以外の地方都市にも店舗を展開した。内装を変え、品揃えを変えて常に新鮮さをアピールすることで顧客層を広げ、バングラデシュの人々に受け入れられてきた。

スーパーマーケットの様子2

大型のスーパーマーケットも登場している

食品流通の新しい展開

成長を続けてきたスーパーマーケットであるが、近年、拡大の勢いに少し陰りが見える。原因としてスーパーマーケットに不利な付加価値税(通常の小売店より高い付加価値税の付加)、高騰する家賃やコストなどが指摘されている。

スーパーマーケットの勢いに陰りが見えてきたなか、新しい展開が生まれている。食料・雑貨のオンライン・デリバリーサービスである。この分野を切り開き、急速な成長を遂げているのが、Chaldal.comである。

Chaldal.comのホームページには4000以上の商品の品揃えがあり、ユーザはオンライン上で買いたい商品を選ぶと、同社が1時間以内に宅配するというサービスを提供している。2014年から本格的に事業を開始した同社は、シリコンバレーの著名な投資家の出資も受け、ダッカ市内に5カ所の配送センターを持ち、来年には第二の都市チッタゴンと第三の都市シレットにも進出する計画である。

Chaldal.comのホームページ

Chaldal.comのホームページ

同社の特徴は、ITをフルに活用した先進的なオペレーションにある。在庫管理、注文を受けてからのフローの管理、配車、最短の配送ルートの決定などを自動的に計算するシステムを開発し、業務の効率化に生かしている。

バングラデシュでは携帯電話の普及率が高く、スマートフォンの利用も増え、若い人々を中心にオンラインで注文することに抵抗感がなく、こうしたオンライン・デリバリーのサービスは、これからも伸びていくであろう。

バングラデシュの食品流通業の今後

Chaldal.comのCEOであるワシーム・アリム(Waseem Alim)氏の考えでは、「バングラデシュの食料・雑貨(グロッサリー)の小売業は、欧米とは違う発展をする」と語る。

欧米では、ウォルマート(米)やカルフーズ(仏)のように大店舗を全国に多数展開し、巨大な販売力を背景に仕入価格の交渉力を高めて利益を挙げるモデルが主流だが、バングラデシュでは、そのモデルは通用しないという。

都市部に大店舗を構える土地がなく、車で移動するのも極めて不便で集客しにくいことが理由だ。比較的小さな店舗のチェーン化か、オンラインの宅配サービスによる小売業の発展がバングラデシュにあった発展の仕方だとみている。

Chaldal.comの配送用オートバイ

Chaldal.comの配送用オートバイ

もちろんアリム氏の意見は、いろいろな意見・見方の一つに違いないが、今後、バングラデシュの食品流通業界が新しい時代に入ってくことは間違いないだろう。都市に住む人々は忙しく、生活のあらゆる場面で利便性を追求するようになっている。日々の食材購入に費やす手間と時間を短縮するため、より簡便な方法に頼ることは自然な成り行きである。

また、冷凍食品をはじめとした新しい加工食品が普及してきており、冷蔵・冷蔵ディスプレイをもたない従来の販売方法では対応できなくなっている。都市部の消費者は、食品の安全性や、衛生面についても敏感になってきており、清潔な環境での買い物を好むようになった。

米国の農務省のレポートによれば、潜在的にはバングラデシュ国民の20%、約3000万人が近代的小売店舗で買い物するようになると予想している。人口の割合としては少ないが、購買力の4割超を占めるという。

8年前のスーパーマーケット誕生から始まったバングラデシュの新しい食品流通の潮流は、これからも少しずつ勢いを強めていくだろう。近代化に進む新しい流通の展開は、日本の企業にも多くのチャンスを生み出すに違いない。

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