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事例紹介2016.10.10

日本製品で市場シェア8割を獲得する方法〜バングラデシュの医療機器販売のトップランナー〜

GME Limited

地域:ダッカ

分野:保健医療

ハサン・チョードリー社長

GME Limited CEO: ハサン・チョードリー社長

バングラデシュで日本製品を販売して成功

「我が社は、日本製品で市場シェアの8割を獲得しています。」

バングラデシュで医療機器の輸入販売を手がけるGME Limitedのハサン・チョードリー(Mahmud Hasan Chowdhury)社長が、こう胸を張って話してくれた。同社は、業界をリードするトップ企業の1社である。

GME社は、日本をはじめとした世界の医療機器メーカーの正規代理店として、医療機器を輸入し、バングラデシュの病院やクリニックに販売している。なかでも富士フイルム社製のデジタルX線画像診断システム(Computed Radiography、CR)は、バングラデシュの国内市場の8割を獲得し、同社の主力商品である。

Fujifilmの製品

富士フイルムのデジタルX線画像診断システム

印刷用機器の輸入販売会社として1966年に設立された同社を、現社長が2代目として1992年に引き継いだ。ハサン・チョードリー氏は、自らの医学での経験を踏まえ、医療分野こそがバングラデシュに必要な成長産業と見定め、医療機器分野に注力した。その狙いはあたり、近年のバングラデシュ国内の医療・ヘルスケア市場拡大の波に乗って、引き継いだ当初は従業員6名に過ぎなかった零細企業を600名超の大企業に育て上げた。売上高は約100億円(2015年)、業界のトップランナーの1社である。

現在、富士フイルムのほか、日本企業では島津製作所、大日本スクリーン、桜井グラフィックシステムズ、欧米企業ではBoston ScientificやMedtronicの製品を扱う。いずれの製品も、バングラデシュ国内で高い市場シェアを誇る。

島津製作所の製品

GME Limitedが扱う島津製作所の製品

バングラデシュの未来を考える

ハサン氏は、「ビジネスを成功させる秘訣は、未来について徹底的に考えることである」と力説する。それは1992年に事業を引き継いだ時から一貫として変わらない強い信念である。

1992年当時のバングラデシュは、国民一人当たりのGNP(国民総生産額)が285ドルに過ぎず、世界最貧国の一つであった。電気や水などの基本的なインフラは都市部でも満足に整備されていなかった。健康面では平均寿命がやっと60歳を超えた時期で、民間病院は少なく、近代的な医療設備は到底望めない時代。高度の医療を受けるにはタイやシンガポールなどの国外に行くしかなく、それは富裕層だけに与えられた特権だった。

当時のGME社は、印刷用機械の輸入販売が中心で、年商は60万ドル(約7千万円)程度の中小企業であった。医療関係ビジネスとしては、1974年から富士フイルム社の正規代理店となってX線フィルムの輸入を開始していたが、売上は小さく、限定的なものだった。

医学部を卒業したばかりであった若いハサン氏は、バングラデシュの現在の医療サービスの課題と国民の未来を思い、母国の医療環境を改善したいと考えた。ハサン氏がバングラデシュの医療水準を改善する上で注目したのは、世界で進む医療分野におけるデジタル化の動きであった。特に画像診断分野におけるデジタル化の流れは勢いを増しており、経済発展を続けるバングラデシュにおいても、遅かれ早かれ、デジタル化の波は到来するとハサン氏は確信した。

レントゲン写真のモニター

しかし、医療機器販売に関わるということは、ただモノを売るということでは済まない。人の命に関わることであり、医療機関や医師との信頼関係を築き、販売後のメンテナンスやサービスがきちんとできる体制が不可欠である。ハサン氏は売り上げを焦ることなく、自社の体制を固めながら、時間をかけて顧客の信頼を勝ち取り、徐々にネットワークを広げていった。

ハサン氏が、最初に目をつけたのはX線診断機器だ。GME社はバングラデシュで富士フイルムのX線フィルムを扱っており、この市場の動向は熟知していた。世界ではすでにデジタル化が進んでいたが、バングラデシュではアナログ式をずっと続けており、X線写真の現像は全て手作業であった。しかし、いずれバングラデシュにおいてもX線診断がデジタル化する時代がくることは、ハサン氏にとって火を見るより明らかであった。

「この分野のデジタル化は我が社が先導する。」1999年にハサン氏は、満を持して医療機器販売のための特別チームを立ち上げ、富士フイルム社から初めてデジタルX線画像診断用機器(CR)を輸入した。

GMEのスタッフ

市場の先の先を考えて、諦めない

もちろん、ことは簡単には運ばない。

医師や技師は、アナログ式のレントゲン写真を30年に以上に渡って扱いなれており、今までの方法を変える必要性を全く感じていなかった。また、技師達の中にデジタル機器を扱うためのコンピュータ操作の知識をまともに持つ者は少なく、デジタル化で自分たちの仕事がなくなるのではないかという不安や不信で、技師たちは見えない抵抗を示した。デジタル化のメリットは分かっていても、長年慣れた方法を変えることは、とても難しい。

しかし、ハサン氏は諦めなかった。「顧客は探すのではなく、つくるもの」という信念を持っている。顧客は自分のニーズを常に理解しているとは限らない。人々は新しいものには、新しいというだけで抵抗を感じる。しかし、顧客にとって本質的なニーズに合うものであれば、いずれ受け入れられる。だから、目先ですぐにビジネスにならなくとも諦めない。

市場の先の先を見ることで競合より早く顧客を掴み、強い競争優位性を築くことが、激しい市場でリーダーになるために大事だという。成功するための道筋を徹底的に考え、その信念に従うことが大事だと説く。

病院での使用例

バングラデシュの病院で利用されているデジタル医療機器

顧客側に立つ

便利さを言葉で語るだけでは説得できないと考えたハサン氏は、目に見える成功事例をつくることで突破口を見出せると考えた。見込みのある医療機関を1軒だけ選び、徹底的にサポートして成功事例を実現させることに目標を定めた。

まず、社内で最も優秀な営業マンとエンジニアを現場に張り付かせ、コンピュータの使い方からメンテナンス方法まで、徹底的なサポートと技術者の育成を行った。

機器の使い方を教えるだけでは終わらない。使った便利さを実感させ、病院のルーティン・ワークに深く組み込まれるまで、徹底してサポートする。高度な医療機器は使われないままに放置されてしまうことが、往々にしてあるからだ。技術者が消極的な抵抗を示すこともある。それでは、1台売れても市場は広がらない。本当に便利だと医師や技術者が実感し、古いやり方には戻れないようにするまで転換させることが大事である。納得する成功事例に育てるまでに半年間かかった。

この成功事例が口コミで広がり、次第に商品は黙っていても売れるようになった。富士フイルムのデジタルX線診断システムの評判は高く、いまや市場で8割のシェアを獲得するトップブランドである。GME社の成功は、X線診断のデジタル化だけでなく、バングラデシュの医療機器がデジタル化へ向かう道筋を切り拓くことにもなった。

業績が評価され、2013年にGMEは富士フイルムから世界で最も優秀な代理店として表彰されている。1999年にはじめてデジタル医療機器を扱ってから14年後のことである。

顧客を集めた会議

GME Limitedの展示会に集まった全国の顧客・パートナー

次は医療機器の国内製造

ハサン氏の次のビジョンは、医療器具の国内製造である。バングラデシュの医療機器は、輸入一辺倒であり、国内で製造されるものはわずかにすぎない。しかし、国内市場が急速に拡大するに従い、国内での医療器具製造ビジネスにも商機が生まれてきている。

注射器、点滴用のチューブ、検体採取管などの医療器具を国内で製造し、国内販売と輸出することを考えている。製造機械、技術、QCなどの面で提携できる日本企業があれば、前向きに検討したいという。

日本製品でも十分に市場で戦えることを示したGME社の次の展開に注目したい。

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