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産業レポート2016.10.01

市場規模5800億円のヘルスケア産業〜年率10%の成長:課題解決への新しい取り組みが始まる〜

地域:全国

分野:保健医療

医者のイメージ

成長するヘルスケア市場

「バングラデシュ国内でも、高度な医療サービスを受けることができるようになりました。」

こう語ってくれたのは、ダッカで医療機器輸入販売業を営むカマル氏だ。バングラデシュでは、長い間、医療サービスの水準が低く、がん治療などを受けるには高い旅費を払ってシンガポールやタイなどの外国へ行く必要があり、高度な医療サービスとは高額の医療費を負担できるほんの一部の富裕層に限られた特権であった。それが今や、国内でも治療が可能になってきたという。

「例えば、ガンの放射線治療に使用されるリニアアクセレーターという高度な医療機器がバングラデシュにも12台すでに導入されており、扱うエンジニアも育っています。」とカマル氏は胸を張る。国内であっても高度な医療行為は高額で、一般のバングラデシュ国民には手が届かないが、以前よりは間口が大きく広がった。

「より良い医療サービスを受けたいというニーズは、国民の間で広がっています。家族の健康のためには費用を惜しまないという人々が増えてきているのです。」とカマル氏。

CTスキャン

シーメンス(独)製のCTスキャンを備える医療機関

バングラデシュのヘルスケア市場は近年拡大傾向にあり、民間調査会社BMI Reasearchによれば、現在(2015年)の市場規模は53億ドル(約5800億円)であると推定されている。同調査会社は、今後も市場は着実に拡大し、2020年には79億ドル(約8700億円)に成長すると予測している。

表1:総保険医療支出額

(出所)世界保健機構(WHO):World Health Expenditure Database

世界3位の医療費出規模を誇る日本の40兆円を超える国民医療費に比べれば、はるかに小さな市場規模であるが、確実に成長を遂げてきている。その背景となっているのが国民の個人所得の増加であり、長寿化に伴う医療ニーズの変化である。

バングラデシュは、過去10年以上に渡り、6%以上の経済成長を続けており、個人所得が増加、中間層の厚みが増している。The Boston Consulting Groupの調査によれば、現在(2015年)、月収400ドルを超える収入を得ている中間層(上位)と富裕層は1200万人に上り、2020年には1930万人に増加すると予測している。人々は、以前より豊かになったことで、自分と家族の健康に対する意識を高め、費用が高くても質の高い医療サービスを求める傾向を強めている。

この国民の意識を象徴するのが民間の医療機関の増加である。民間の病院や診療所は、2010年から2015年までのわずか5年間で71%増加し、4180施設を数えるまでになった。首都ダッカと第二の都市チッタゴンのような大都市では、250床以上を持つ大病院も増えてきた。

また、CTスキャンやMRIなど高度な医療機器を備えた診断センター(Diagnostic Center)も急増している。2010年に5000施設であったものが、2015年には9000施設に増えている。こうしたセンターは、大都市だけでなく地方都市にも広がっており、全国にチェーン展開しているところもある。調査団が訪問した地方の診断センターでは、毎日1000人以上が健康チェックを受けるために訪れるという。

Diagnostic Center

診断センター(Diagnostic Center)の外観

ヘルスケア産業成長の要因

ヘルスケア産業が成長している背景には、個人所得の増加以外にも要因がある。

一つには、バングラデシュ国民の平均寿命が大きく伸びたことである。1990年代には65歳に満たなかった平均余命が、現在(2014年)では72歳に伸びている。これは貧しい農村における5歳未満の幼児死亡率が減少し、伝染病による死亡者数が大きく改善したことが理由である。現在でも、結核などの伝染病による死者は少なくないが、2000年に48%であったものが、2012年には32%に低下している。

表2:平均余命の推移

(出典)世界銀行World Development Indicators

                       

二つ目は、死亡要因の変化だ。前述のとおり、感染症が大きく低下した一方、非感染症(心臓病、ガン、呼吸器系疾患など)が増加している。伝染病による下痢など疾患は、主に予防対策や薬で治療することができたが、心臓病やガンなどの疾患の診断や治療は、専門的な医療技術が必要となるので、高度な医療技術に対する需要が高まっている。寿命が延び、非感染症の疾患比率が高まるに従い、この傾向はますます強くなると予想される。

図1:死亡要因

バングラデシュの医療産業の課題

【医療費負担の高さ】
着実に成長している医療関連市場であるが、まだまだ課題は山積みである。例えば、国民一人当たりの医療費は32ドルと低い。これは低中所得国の平均79ドルに比べ、半分以下の水準にとどまる。

医療費の水準が低い理由の一つは、患者の自己負担率の高さだ。バングラデシュには、健康保険制度が整備されていない上、国の支出が医療費総額の34%にすぎず、患者の自己負担割合は60%を超す(日本の場合、現役世代の自己負担は3割)。自己負担の大きさは、特にBOP層の家計に重くのしかかる。

バングラデシュ政府は2023年までにユニバーサル・ヘルスケアの実施を目指しており、医療費総額の7割を公的な資金で賄う計画である。政府はShasthyo Suroksha Karmashuchi (SSK)と呼ばれるパイロットプロジェクトを2016年から開始し、貧困者10万人に健康保険カードを配布、本人と家族が無償で医療サービスを受けられる実験を行っている。

女性と赤ん坊

赤ん坊を見守る農村の女性

【人材不足】
極端な人材不足も、バングラデシュの医療業界が抱える大きな課題だ。医師だけでなく、看護師や技師が圧倒的に不足している。政府に正規に登録している医師は64,434人、歯科医師は6,034人、看護師に至っては30,516人にすぎない(日本の看護職員の数は154万人:厚生労働省)。1億6千万人の人口を抱える国として、この人数はあまりに少なすぎる。

特に農村部の医療サービスへのアクセスは劣悪だ。政府の病院や医療機関は、サービスの質が悪いので避けられる一方、民間の病院は都市部に集中していて近場にない。政府は、Community Health Centerを全国18000箇所に配置し、農村における基礎医療サービスを提供しているが、今後増える心臓血管疾患やガンなどには対応できていない。

こうした状況を改善するために、NGOが果たしている役割は大きい。バングラデシュのNGOであるBRACは、13万人のヘルスワーカーを全国に配置し、農村の女性を中心に健康に関するさまざまなサービスを提供している。

女性2名

BRACのヘルスワーカーと農村の女性

課題解決への新しい取り組み

国の提供する医療サービス改善が短期的には見込めない中、こうした課題を解決するための新しいイノベーションがバングラデシュで次々と生まれてきている。特に全国に普及した情報通信インフラを活用した新サービスが、人々の関心を呼んでいる。

例えば、Doctorola Limitedが運営するdoctorola.comは、病院や医師の情報を提供し、医師との予約サービスを提供している。いわゆる総合病院が少ない中、専門の医師を探すことは一般の人には難しい。doctorola.comでは、自分の住む地域と探している専門分野を入力すると、適切な医師の候補が示されるというシステムで、医師と患者をマッチングするプラットフォームとして期待されている。2015年9月には、地元のベンチャーキャピタルから投資も受けた。

Doctorola.com

Doctorola.comのホームページ

またbhalothakun.comでは、医薬品や衛生用品、健康グッズや避妊具などをオンラインで販売している。医薬品に関しては、医師からの処方箋をアップロードすると、指定された医薬品が自宅に届けられる仕組みになっている。サイトでは、医療知識のない一般の人々にむけて、医療や健康に関する情報が豊富に掲載されている。

bhalothakun.com

bhalothakun.comのホームページ

バングラデシュのヘルスケア産業は、これからの社会経済の発展に伴い、ますます成長することが予想される。国民のより良い医療・ヘルスケアサービスへの需要が高まり、多様化するであろう。医療費の負担や人材不足など、抱える課題は重く複雑であるが、障害を打ち破る新しいイノベーションに期待したい。

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