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産業レポート2016.10.10

次世代へ向かうバ国の再生可能エネルギービジネス〜大型化する発電システムと社会インパクトの拡大〜

地域:全国

分野:資源・エネルギー

ソーラーパネル

太陽光の「ミニ発電所」:ミニグリッドのインパクト

首都ダッカから車で4時間程度のところに位置するノルシンディ地区の川の孤島。島は大河に阻まれて電線が渡らず、ずっと電気が通じていなかった。夜になれば、自家用の太陽光発電装置を持つ家以外は、灯油ランプで照らされるだけの暗闇に包まれる。電気が通じていないのでテレビも冷蔵庫もなく、島は近代的な生活から切り離されていた。政府の電力網改善の政策が進められていたが、この島に電線を渡す計画はまだなかった。

島の写真

大河に阻まれた島

そこに1年前、バングラデシュで初めてとなるミニグリッドが建設された。ミニグリッドは、太陽光の「ミニ発電所」であり、中央に100KW〜250KWの大型ソーラーパネルを設置し、電線を四方に張り巡らせ、周辺の家屋やビルに配電するものである。島では60基を超える大型ソーラーパネルが空を映して輝き、電線は電柱を介して島の隅々まで伸びている。一つのミニグリッドで周辺の1000世帯前後の電力を供給するという。政府が推進する無電化地域の電化政策の一つとして、官民連携で展開されている事業だ。

ミニグリッドが導入されてわずか1年で島の様子は様変わりした。街には電動三輪車が走り、食堂ではテレビに人が寄り、冷蔵庫にはアイスクリームがあふれている。つい1年前まで無電化だった地域とは思えない。

電気のおかげで、島に初めて「溶接工」という新しい職も産まれた。つい最近まで無電化だった地域とは思えないほどの変化を見せたのだ。

島のカフェ

島の小さなカフェにも冷蔵庫が入った

バングラデシュ政府の無電化地域の電化政策

バングラデシュは、近年に至るまで電化率が低かった。特に農村において電気が通じない無電化地域の割合が非常に高く、1990年に至っても電化率は21.6%に過ぎなかった。しかし、アパレルの輸出産業の発展を契機に国の経済が成長するに従い、電力需要は拡大した。持続的な経済発展のためには、電気インフラの整備は国の需要な課題となった。

電力容量を大幅に引き上げ、全国の電化率を高めるべく、政府は2021年までに全国を100%電化する目標を2008年に掲げ、JICAの支援等を受けながら、ひとつひとつ政策を実行してきている。規制を緩和し、民間資本も導入し、発電所の建設を急いだ。原子力発電所の計画も進み、大型の発電所プロジェクトが相次いでいるその結果、全国の電化率は大きく改善、都市部では99%まで改善した。

(表1挿入:バングラデシュの電化率)

表1:バングラデシュの電化率

(出典)世界銀行World Development Indicators

一方、農村における電化は、まだ不十分である。この課題を解決するため、政府は世界銀行やJICAを始めとした国際開発機関の支援を受けて、再生エネルギーの活用を積極的に進めた。特に開発が遅れている農村や河川に阻まれた地域などでは、再生可能エネルギーの利用が推進された。2010年、政府は2020年までに国の総発電容量の10%を再生可能エネルギーで賄うことを公約した。

その最初の切り札となったのは、ソーラホームシステム(SHS)と呼ばれる小型自家用太陽光発電システムである。

SHSは、無電化地域に生活する農家を対象に設計されたもので、屋根にソーラーパネルを取り付け、LEDランプや液晶テレビなど、家庭で使う最低限の電気を発電してバッテリーに貯める。システムの発電容量は平均して40W程度。1システムの単価は2万円〜3万円で、SHS販売業者を通じて農家に割賦販売されている。

世界銀行や国際機関の資金的支援を受けて、2003年にバングラデシュ政府の政策金融機関であるインフラ開発公社(IDCOL)が推進したSHSプログラムは、2010年あたりから急速に普及、現在(2016年)までに400万世帯以上がSHSを設置するまでに至った。

電気自動車

島を走る電気自動車のタクシー

「課金モデル」ミニグリッド

SHSシステムの販売台数も、2014年をピークに一段落し、政府は再生エネルギー活用の新しいステージに向かっている。その一つが「ミニグリッド」と呼ばれる中規模のシステムで、SHSが世帯単位のシステムであったのに対し、ミニグリッドは村単位の電化を目指す。

発電システムの規模がまず違う。SHSが小さなソーラーパネルを屋根において、小さな電池で電気を蓄えていたのに対し、ミニグリッドは大型のソーラーパネルを数十基連ねて、その制御システムも電池の容量も桁違いに大きい。

調査した島のミニグリッドは、総計564枚のソーラーパネルと288個の大型バッテリー、システムを制御するドイツ製のコントローラーで構成されており、現地の技術者が常時管理している。

バッテリー

ミニグリッドのバッテリー

制御装置

ミニグリッドの制御装置

また、ビジネスモデルにも違いがある。SHSは各世帯がシステムを購入する「物販モデル」であったが、ミニグリッドは各世帯が電気利用量に応じて料金を支払う「課金モデル」である。ユーザに初期投資の負担がなく、SHSにように電力容量の上限がないため、家庭での電灯やテレビのほか、商店街の冷蔵庫やコンピュータ、電動三輪車の充電まで、幅広い用途に活用できる。

現在約600世帯の契約者があり、月額平均して900タカ(約1,250円)の電気を使うという。支払いはプリペイドカードで行われる。各契約者の家屋に、メーターが取り付けられており、プリペイドカードを差し込むと、電気が通じる仕組みになっている。カードの残高がなくなると、事務所に来て現金でチャージする。

プリペイドカード

プリペイドカードを家のシステムに差し込むと電気が通じる

この島はミニグリッドを導入するには最適な場所であった。送電線敷設の予定がなく、比較的所得の高い地域で、他に競合がなく、独占的かつ安定的に住民から電気料金を受け取ることができるからである。政府からの助成金とIDCOLからの低利融資を受けることで初期投資のコストを大幅に下げ、電気料金をプリペイド(前払い)のシステムを導入して資金回収コストを下げることで、ビジネスとして採算があう。

プリペイドカードの補充

プリペイドカードを補充する島の住民

ミニグリッドの新規開発には、民間投資が期待されている。設備投資資金の半分は政府が助成金を出し、30%までの資金をIDCOLが低利融資で支援、残りの20%の資金を民間投資で負担するモデルになっている。府は2018年までに50件のミニグリッドを新設する目標を立てており、現在(2016年5月)までに18の案件が認可され、7件がすでに稼働している。

島の施設のオーナーによれば、最初のミニグリッドではすでに容量が足りなくなっているので、第二のミニグリッドを建設する予定だという。

「生活水準改善」から「生産性改善」へ

バングラデシュ政府は、さらに国内の電化を進めるため、10MW〜200MW級の巨大なソーラーパークの建設も推し進めていく計画である。すでに7つの案件が認可されており、日本企業の参加もある。ソーラーパークは、発電された電気を政府に売る卸電力事業である。米国や中国などの外国資本が参入しているが、海外からの投資を呼び込むため、政府は稼動後20年間、一定の料金で電力購入を保証するインセンティブをつけている。

政府の再生エネルギー関連の政策アドバイザーであり、United International Universityのシャリアー・チョードリー助教授によれば、再生エネルギービジネスの次の目標は、「生活水準向上」から「生産性改善」へのシフトだという。電灯やテレビなどの家電製品によって生活水準向上することに目処がつき始めた今、次は電気を使っていかに地域の人々の生産力を上げるかが重要なテーマだという。

携帯電話の基地局

島の携帯電話の基地局もソーラー発電で稼働

ソーラー発電を使った灌漑設備の整備、電動の農業機械、センサーを使った土壌管理、さらには農水産物の集荷、保存、運搬にかかるコールドチェーンの構築など、農村地域における様々な作業に電気を活用した生産性の改善が期待されている。発展した情報通信環境とも組み合わせ、新しいBOPビジネスのモデルづくりが求められている。

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