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産業レポート2016.10.10

拡大期を迎える食品加工ビジネス〜バングラデシュの経済成長が促す食の変化〜

地域:全国

分野:食品

ソースの瓶

スポットライトを浴びる食品加工ビジネス

ハンバーガー、ピザ、フライドポテトにアイスクリーム。ダッカ市内の新しいショッピングモールにあるフードコートでは、色鮮やかなファーストフードの看板が人々を惹きつけてやまない。プラスチックのトレーにのせた食べ物や飲み物が行き交いし、いつもお祭りのような賑やかさだ。休日になるとテーブルスペースは家族やカップルで溢れ、大人も子供も食事を楽しんでいる。

今やバングラデシュで珍しくない光景だ。しかし、近代的なファーストフード店が増えたのは、比較的最近のことである。10年ほど前までファーストフードといえば、路上の屋台であり、カフェ代わりのチャドカンと呼ばれる露店の茶屋であった。高級自宅地に、はじめてケンタッキー・フライド・チキン(KFC)がオープンしたのは2006年。KFCを皮切りに、ダッカ市内におしゃれなカフェやレストランが次から次へとオープンした。

KFCの入るビル

こうした店は、当初富裕層をターゲットにしていたが、どんどん中間層へと広まった。バングラデシュ人は、家庭で食べることを第一としてきたが、その手軽さと品質の向上が手伝って、外食産業は成長した。

こうした外食産業を支えているのが、鶏肉加工や冷凍食品といった食品加工産業であり、バングラデシュ人のライフスタイルの変化に伴い、近年著しい成長を見せている。レストランやファーストフード、ホテルのケータリングなどで、加工された肉や野菜などの需要が高まっているほか、一般家庭での加工食品の消費量が増えている。

2010年以降、バングラデシュの国内冷凍食品市場は、毎年20%近くの成長を遂げ、市場は拡大を続けている。輸入一辺倒であった市場にも、国内の新規参入業者が増え、業界は活況を呈している。スーパーマーケットの商品棚にも、国内産が占めるようになり、品質の向上も目に見えるようになってきた。

冷凍食品

国内産の冷凍食品が増えている

食品加工産業の台頭

従来、バングラデシュでの食品加工は、精米や小麦の製粉、からし菜の搾油など付加価値が低いものがほとんどであり、冷凍食品のような付加価値の高い製品は、外国からの輸入品が大半を占め、販売対象は一部の富裕層に限られていた。

しかし、近年では付加価値の高い加工食品を、国内メーカーが生産するようになった。冷凍食品、乳製品、ジュースなどのほか、麺・パスタ、ビスケットやチップス類、アイスクリームにも地場企業の新規参入が相次いでいる。

従来、バングラデシュにおける食品加工は手作業で行われていたが、欧米からオートメーションの製造機械を導入し、近代的な設備を整えるところも増えてきた。ISO(国際標準化機構)の認証を受け、国際水準の品質を謳うところも珍しくなくなった。

加工食品が、一部の富裕層から一般の人々に広がっている点も近年の特徴だ。国内産は輸入品に比べ、格段に価格は低く、中間層でも手が届くようになった。価格の安いバングラデシュ製の冷蔵庫が一般家庭に広く普及することで、冷凍食品を家庭で保存することができるようになったことも市場の拡大を後押ししている。

現在、バングラデシュの加工食品市場は1兆円前後(2013年)と推定され、2018年には2兆円を超えると予測する向きもある。バングラデシュの全労働人口の約5割が農業に従事しており、食品産業は経済発展を牽引する最重要分野として、政府の5カ年計画や産業振興政策に位置付けられている。

スーパーマーケットの店頭

スーパーマーケットの店頭で売られる加工食品

加工食品市場成長の要因

こうした加工食品市場が成長している要因には、個人所得の増加、都市化、核家族化、女性の社会進出など、バングラデシュにおける人口動態や社会経済の構造的な変化がある。

【個人所得の増加】
個人所得は、年々増加しており、国民一人当たりの国内総生産額は2015年に1200ドルを超えるに至った。これは2007年におけるインドやベトナムと同じ水準である。特に中間層に厚みを増してきたことが、食品産業の成長を促している。可処分所得が増えた中間層では、食の品質や安全に対する選好意識が高くなっており、付加価値の高いものに対して対価を支払う意識が芽生えている。

表1:バングラデシュの一人当たりGDP推移

(出典)世界銀行World Development Indicators

【都市化、核家族化、女性の社会進出】
バングラデシュは、国民の大半が農村に住む農業国であったが、輸出用のアパレル産業が発展するに伴い、工場で働く工員として、多くの労働者が農村から都市部に移動した。この結果、ダッカなどの都市部に人口が集中するようになり、都市化が進行。農村部での大家族中心の社会が崩れ、核家族化が進み、女性の社会進出が進んだ。

大家族で手分けして料理を作る習慣は薄れてきており、都市部では時間をかけて料理する暇を持てなくなった。例えば鶏肉といえば、生きている鶏を買ってきて自宅で捌くのが通常であったが、そのような手間をかける余裕を持てない。おのずと簡便な加工食品に需要が高まる。

また、家庭用の冷蔵庫や電子レンジなどの電化製品の普及も、人々の食生活を変えた。一昔前では価格の高い輸入品が市場を占めていたが、現在では国内メーカーが低価格で品質の良い製品を国内で製造販売しており、一般の中間層の人々でも手が届くようになった。

【消費者の意識の変化】
消費者の意識も変化している。バングラデシュの国民は、料理は自宅でつくるものという意識が高い文化であった。外で食べるものや、工場で加工された食品は、味や品質面で劣るというのが一般的な見方で、国内産の加工食品には根強い不信があった。

しかし、人々のライフスタイルの変化に伴い、若い世代を中心にファーストフードや加工食品に対する抵抗感は薄れている。また、地場のGolden Harvest社のように品質向上に努め、それを広く宣伝することで、国内メーカーへの信頼は徐々に高まった。

Golden Harvestの宣伝

Golden Harvest社の広告

新しいビジネスの機会

食品加工産業は拡大期に入っているが、さまざまな課題も抱えている。中でも、食品の物流を支えるコールドチェーンは最大の課題の一つである。コールドチェーンとは、生鮮食品や冷凍食品などを、産地から消費地まで一貫して低温・冷蔵・冷凍の状態を保ったまま流通させる仕組みである。日本では高度経済成長時代に、都市化が進み、生産地と消費地の距離が伸び、輸送量が拡大する中、広く普及した。

農産物は温度が高くなると腐りやすいが、低温に保つ倉庫や運送車がないため、集荷や運送の過程で多大な農産物ロスを生じている。これは、食品加工メーカーにとって、品質の良い農産物を安定的に調達するための大きな障害となっており、産業の発展を阻んでいる。

この問題に取り組むため、米国開発庁(USAID)などの国際機関による支援やNGOによる取り組み、企業による自助努力が始まっている。コールドチェーンの構築に必要な道路や電力などの基本的インフラは改善しつつあり、この分野での新しいビジネスも注目される。

Golden Harvestの保冷車

Golden Harvest社の保冷車

食品加工においては、食品製造機械、厨房・調理機器、冷凍冷蔵設備など多様な分野での商機が期待される。より安全で、おいしい加工食品をバングラデシュの人々に届けるため、日本の高い技術力やマネジメント能力が生かされる機会も増えてこよう。バングラデシュの1億6千万人の胃袋狙う食品産業の成長は、これからが本番である。

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