バンサモロ地域における地場産業振興−産業クラスターの推進−
1)「地場産業振興」にかかる活動
バンサモロ包括的能力向上プロジェクト(CCDP)は、2016年に予定されているバンサモロ新自治政府の設立に向けて、新自治政府の体制・制度構築、人材育成、地域開発計画の策定、行政サービス能力の向上などを目標に実施されています。同プロジェクトのコンポーネントの一つである「行政サービス能力の向上」においては、地場産業振興にかかる支援も進められています。
当該分野における支援として「ARMM Industry Cluster Capacity Enhancement Project(AICCEP)」と呼ばれるプロジェクトがあります。同プロジェクトは、現時点でバンサモロ地域を統治しているムスリム・ミンダナオ自治区(ARMM)政府(注)の貿易産業省をカウンターパートとして、地場産業振興手段としての「産業クラスター」活性化に必要な能力強化を行うことを目標に、2014年3月から2016年6月までの28ヶ月間の予定で実施されています。
(注)ムスリム・ミンダナオ自治区(ARMM:Autonomous Region in Muslim Mindanao)政府は1989年に成立した「自治基本法」により設立されたイスラム教徒の自治地域。ミンダナオ島西部のマギンダナオ州、南ラナオ州と島嶼部のバシラン州、スールー州、タウィタウィ州の5州からなる。
2)産業クラスターの推進
産業クラスターとは、産業集積とも言われるように、特定の産業分野において相互に関連する企業(当該分野に専門性を持つ資材・原料供給産業、サービス産業、周辺産業)と、関連する政府機関・団体(大学、研究機関、試験機関、業界団体など)が一定の地域に集積している状態を指します。こうした集積が見られるところでは、関係者が競争と協力を通じて専門性を向上させやすく、それが産業の競争力向上に結びつくことが知られています。JICA支援のねらいは、ARMM政府がバンサモロ地域における企業集積を促進することを通じて、同地域における地場産業の競争力を一層高めるようにしていくことにあります。
産業クラスターを活用した地場産業振興では、それぞれの産業関係者(パームオイル産業、ココナッツ産業、アバカ産業等)の民間事業者(原料生産者としての農家・漁家、協同組合、加工業者、流通業者等)が中心となり、自分たちで競争力向上に必要な課題を特定した上で、主体的に活動を計画・実践して行くことが重要です。そして、政府には民間事業者による組織化や活動の最初のきっかけを作り、持続的展開のための側面的支援を行うことが期待されています。政府がクラスター組織の活動を計画し、実施するというものではありません。
ゴム・クラスターの現状分析
本支援の最終目的が地域産業振興に向けた活動を活性化することにあることから、プロジェクトにおいては、従来のような一般論の研修と模擬演習ではなく、あくまでも民間事業者を主体に、自らの発展ポテンシャルを分析し、活動計画を立て、行動を起こすというプロセスを支援することを重視しているのが特徴です。そのプロセスにおいて、各産業の技術的あるいは社会的発展を支援する当地の大学・支援組織、同自治区農水省、ココナッツ庁、漁業・水産資源庁などの政府機関が、クラスター組織メンバーとして積極的に参加し、民間事業者に対して助言を行っています。
プロジェクトではすでに7回にわたる計画策定ステージを実施し、いずれのクラスター組織においても自分たちで策定した計画を実施する段階にあります。原材料供給面や生産・流通面での事業環境改善、生産者である農家のスキル向上、市場との連携改善などをテーマとする活動が開始されています。
ゴム・クラスター 挿し木準備研修
ゴム・クラスター 挿し木枝の準備指導
3)ダバオでの活動モニタリング
これまでの計画策定フェーズに続き、各クラスター組織の活動モニタリングを目的とするワークショップの第一回目が、5月11日から1週間ダバオで開催されました。その目的は、それぞれのクラスター組織が自分たちでこれまでの活動をレビューし、必要に応じ計画を実効性・効率性の高い計画に改訂することです。日本人専門家は各クラスターでの協議をモニタリングし、適宜助言していきました。
ダバオでのワークショップ
参加した民間事業者の多くは、クラスター組織活動を通じて、様々な政府機関や大学、支援組織が当該産業のためにどのような支援手段を持っているたのか初めて知ったと述べていました。また、実現可能、効果的な計画とはどういうものかを理解したとの声も聞くことができました。関係者間の相互理解と情報共有ができたこと、産業と行政が一体となって産業振興に取り組むことの必要性を学んだことは、本支援の重要な成果の一つであると考えられます。
今後残りの支援期間を通じ、計画の実現に向けて産官学が連携し、品質向上や分業化の深化等具体的な成果を挙げると同時に、クラスター組織の持続的活動基盤を確立させていくことが期待されています。