活動状況報告(2023年3月~5月)1

ネパール国「教育の質の向上支援プロジェクト」(通称IMENプロジェクト)は、小学1年生から3年生の児童の算数の基礎学力の向上を目指して、2019年から開始されました。以下に、2023年3月から5月に実施した活動を3回に分けてご紹介します。

校長研修(フォローアップ)の実施

学校での学力向上のための取り組みを総括し、活性化させる目的で、プロジェクトでは2023年3月から5月にかけてパイロット地方政府(LG)において校長のためのフォローアップ研修(5日間)を実施しました。この研修は、2021年11月下旬から12月上旬にかけて行われた校長研修を補完する位置付けで、パイロットLGにおける全小学校(109校)の校長を対象に実施しました。

新たに任命された校長が一定数いること、そして各校での実践例を共有する必要性を踏まえ、2年前の研修とほぼ同じ内容としつつ、特により深い理解が必要となる「授業研究」は時間をかけて講義と実習を行いました。学校改善計画(SIP)作成手順の講義では、「児童」、「保護者」、「教員」を対象とした児童の学力向上のための活動例を紹介し、SIPの作成・改訂に活かすよう再度説明しました。講義の合間におこなった活動状況確認のためのセッションでは、2021年実施時に比べて多くの参加者が学校で実践した算数教育を強化する活動についてどのように予算を工面したかなどを報告し、相互に学び合う姿が見られました。

また2021年の校長研修と同様、今回のフォローアップ研修でも教員を対象とした活動の一環として「授業研究」を紹介し、参加者は近隣の学校の協力のもと授業研究を経験しました。「実際に授業研究を経験したことで、教師の授業力向上に繋がる良い取り組みであることを実感し、自校で取り組むための具体的なイメージを持つことができた」という声が聞かれ、研修最終日には、各校長が他校の事例から学んだ生徒・保護者・教師に焦点を当てた活動や授業研究を盛り込み、SIPを作成・改訂していました。

2022年1月から3月に実施した小学1~3年生の算数担当教員を対象にした現職教員研修(追加教員職能開発(TPD) 研修)でも授業研究について取り扱いましたが、その後実際に実践した学校は数校にとどまっていました。本フォローアップ研修により、校長が授業研究を経験し、その意義をあらためて理解したことで、授業研究を実践する学校が各LGにて徐々に増えてきていることがその後の学校モニタリングを通してわかってきています。 今後、校長が研修で学んだ内容を基にリーダーシップを発揮し、各校にて児童の学力向上を目指した活動がさらに活発に行われることが期待されます。

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フォローアップ校長研修の様子(タナフン郡バンディプルLG)

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授業研究の様子(タナフン郡バンディプルLG)

啓発活動の実施

A.「教材開発・展示会」 [パイロットLGの教員、保護者対象]

パイロットLGでは、教員や児童だけでなく地域の保護者や住民も巻き込み、地域全体で算数や教育の重要性について考える機会を設けています。その一環で、2023年3月10,12日に、タナフン郡バンディプルLGで教材開発・展示会を実施し、同LG内32校の教員、保護者、総勢81名が参加しました。

なお、この展示会に先立ち、同LGは独自予算で2日間の教材開発ワークショップを実施し、保護者の協力も得ながら様々な教材を作成していました。教員がTPD研修で指導を受けた教材開発を実践する場として、LGが独自予算を立てて実施した好例とみなすことができます。

作成された教材は、主に1)児童が覚えることを助けるための教材(カード類)、2)児童が概念を理解するための教材(小石、ペットボトルの蓋)、3)教員が仕組みを説明するための教材(時計、位取り表)に分類できました。教科書で取り扱いのある教材(紙や竹で作られた図形)のほか、足し算や引き算を教えるための石や竹のかご、位取りを教える教材、時刻や時間を教えるための時計、板に釘を打ち輪ゴムで三角形や四角形を作る「ジオ・ボード」など、ネパールでよく使われている教材や、これまでの研修で習った教材が見られました。

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ネパール語で数を数える教材(タナフン郡バンディプルLG)

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石や竹を使った教材(タナフン郡バンディプルLG)

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位取りを教える教材(タナフン郡バンディプルLG)

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竹細工による分数のための教材(タナフン郡バンディプルLG)

事前にプロジェクト支援のもと評価項目および配点を決め、教育研修センター(ETC)講師・LGの地方教育ユニット(LEU)オフィサー が展示された教材とプレゼンテーションとを評価して1-4位を確定しました。評価項目(配点)は、「教科書に沿っているか(25点)、教材の質(25点)、授業で使えるか(25点)、プレゼンテーション(25点)」でした。学校間の競争とあって、教員たちは教材作成に真剣に取り組み、また展示中も互いの教材やプレゼンテーションから多くを学んでいたようです。このうちチェパン族のコミュニティ(竹細工の日用品が特産物で知られる)の学校では竹で作ったかごを活用し分数の概念を教える教材がつくられ、保護者による教員への支援の仕方、教材の使い方のプレゼンテーション共に優れていたことから高評価を得、表彰対象校のひとつとなりました。

これまでもネパールで教材開発が行われた事例はありましたが、今回展示された教材はほとんどが保護者と教員の協力によりつくられた点で、これまでとは一線を画した活動だったと言えます。実施後の教員の聞き取りでは、「勤務中に教材を準備することは忙しくて時間がとれないが、保護者の協力があることで教材を作成できる」といった肯定的な意見が確認できました。また、保護者に対して実施した簡易アンケートでも、8割を超える保護者がプログラム実施後の自身の変化として「教員とのコミュニケーションに自信がついた」「子どもたちの学習を支援する自信がついた」ことを挙げ、今後も「身近な材料を使った教材開発を支援したい」「定期的に教員と保護者が協力して教材を開発していきたい」といった意見が多く聞かれました。その後の学校モニタリングでも、この展示会後も継続的に教材を作った事例が報告されており、保護者と教員による活動として定着する兆しが見られます。