活動状況報告（2023年5月～7月）

ネパール国「教育の質の向上支援プロジェクト」（通称IMENプロジェクト）は、小学1年生から3年生の児童の算数の基礎学力の向上を目指して、2019年から開始されました。以下に、2023年5月から7月に実施した活動をご紹介します。

プロジェクトで実施した一連の介入に対する校長、教員、保護者、児童の反応、ならびにそれらを通じた変化などを確認する目的で、2023年5月から7月にかけて対象群である4つのパイロット地方政府（LG）の学校において校長及び教員に対して聞き取り調査を行いました。

IMENプロジェクトが開発を支援した小学校1-3年生算数教科書・指導書、算数自習教材は分かりやすい・使いやすいと校長や教員に概ね好評でした。特に丘陵・山岳地帯の学校では、近年増加している出稼ぎ労働との関連で英語での教育を希望する保護者が多く、こうした声に押されて（政府が発行するネパール語で書かれたものではなく）民間の出版社が発行する英語で書かれた算数教科書（副教材として政府が承認）を使用する学校も一定数あります。そのような学校では教員・児童ともに慣れない英語での指導を難しいと感じている場合が多々あります。ネパール語で作成された上記の指導書や算数自習教材はそのような学校にも配布されましたが、今回のモニタリングでは「教科書は英語だが、ネパール語の指導書から活動や授業づくりのアイディアをもらっている」、「自習教材は母語なので子どもの学習が進む」、といった声が聞かれ、指導言語に関わらずこれらの教材は現場で活用され成果を挙げていることが分かりました。

今回のモニタリングでは、IMENプロジェクトの対象である低学年児童、教師、保護者の変化についても聞き取り調査を行いました。まず児童に関しては、訪問した殆どの学校で「算数に興味を持つ子が増えた」、「算数の活動に積極的に参加するようになった」、「宿題をちゃんと終わらせてくる子供が増えた」、といった声が多く聞かれ、学校間で程度の差はあるものの総じて「算数の成績が向上した」という結果が出ているようです。教師についても、「児童が問題を考える時間や互いに話し合う時間を多くとるようになった」、「より教材を使った活動を取り入れるようになった」といった授業デザインの改善に関係する変化を自己評価する声が多く、さらに一部教員は「学習が遅れている児童により注目するようになった」、「児童をより観察するようになった」と、自身の視点の変化も自覚しているようでした。一方、保護者の変化についてはLG間の差が大きく、バンディプールLG（タナフン郡）、チャングナラヤンLG（バクタプール郡）ではモニタリングを行った学校の殆どで「保護者の学校活動への参加」ならびに「子どもの家庭学習のサポート」の両方で前よりも良くなったという回答を得られました。しかし残るタトパニLG（ジュムラ郡）とピパラLG（マホタリ郡）では変化の度合いが小さく、特にピパラLGの教師からは（子どもたちの欠席が多いことと関連付けて）保護者の啓発活動を強化すべきという声が多く聞かれました。

また、IMENプロジェクトで導入した授業研究（会）が幾つかの学校で始められていることも確認できました。それらの学校では本プロジェクトの校長研修で指導した通り、年間活動計画に授業研究のための定期的なミーティングを組み込み、指導案の協議をしたり授業観察をしたりする場を設け、教員同士が協力して授業を改善していく取り組みを行っています。加えて、パイロットLG内の学校では本プロジェクトの後押しもあって保護者とのコミュニケーションも増えているところが多く、こうした保護者の巻き込みが子供たちの学校や家庭での学習にプラスの影響を今後徐々に与えていくことが期待されます。また、実施してきた活動の中で効果的と感じた活動として、児童に関しては「算数クイズ（大会）」、教員に関しては、授業研究を含め「教授学習について話し合う職員会議」を挙げる教師が多くいました。本プロジェクト終了後も校長や教員自身が主体的にこれらを年間計画に盛り込み、継続的に実施することを期待しています。

これらのモニタリング結果から、本プロジェクトが実施してきた活動が徐々に学校レベルでの変化に繋がってきている様子がうかがえます。また地道に推し進めてきた保護者の巻き込みは、今後子供たちの学校や家庭での学習にプラスの影響を与えていくことが期待されます。プロジェクト終了までの残り期間はあとわずかとなりましたが、本プロジェクト終了後も校長や教員自身が主体的にこれらを年間計画に盛り込み、継続的に実施することを期待しています。