活動状況報告(2023年9月~10月)

ネパール国「教育の質の向上支援プロジェクト」(通称IMENプロジェクト)は、小学1年生から3年生の児童の算数の基礎学力の向上を目指して、2019年から開始されました。以下に、2023年10月に実施した活動をご紹介します。

EDCU対象経験共有セミナーの実施 [全国レベル]

10月1~3日に教育人材開発センター(CEHRD)主催で全国の教育開発調整ユニット(EDCU)職員77名を招集して研修が実施され、その最終日にIMENプロジェクトからパイロット地方政府(LG)での経験を共有し、各郡で算数教育を啓発していくことを目的に下記1~3のセッションを行いました。
セッション1:プロジェクト概要・成果、4郡の経験共有、日本の教育・教員研修制度に関する講義
セッション2:授業研究に関する講義、学校改善計画(SIP)に関する報告
セッション3:州別グループ協議(4郡の事例からの学びの振り返り)

EDCUの参加者はどの講義も熱心に聴き、特にセッション1の経験共有に関する質疑応答では、プロジェクト成果への賛辞や全国普及への期待、各LGが実施するうえで得た課題・提言に関するコメントが聞かれました。また今後全国に普及していくための政府の計画についても質問が挙がり、CEHRD副局長が今後全国に向けて展開していく計画であること、そのうえでリソースの不足が課題であることが説明されました。

セッション2は教員職能開発(TPD)研修成果の共有としてCEHRDより希望があって設定されたもので、参加者の授業研究への関心は高く、授業研究を説明するビデオを熱心に視聴していました。その後の質疑応答では、授業研究の頻度や内容に関する質問および教員不足が課題であるネパールで実施するうえで人員配置など政策を変更する必要があるというコメントがあったことに対して、CEHRD局長が、リソース面の課題はあるが学校レベルで積極的に実施するよう回答がありました。

続けてJICA教育アドバイザーより9郡60校に対して実施した学校改善計画(SIP)に関する調査の報告がありました。SIP策定ガイドラインや関連資料はCEHRDウェブサイトに掲載されているものの1/3の学校(20校)しか印刷して活用していないこと、1割の学校が予算(ブロックグラント)が充てられていることを把握していなかったこと、また9割の校長がSIPは有用と回答し8割の校長がSIP策定における自分達の担当業務について把握したいと回答したことが概説され、これらの結果からLGによるモニタリングやSIPに関する研修が広く必要であるとの指摘がなされました。

セッション3では、各郡における優良事例を州別グループで協議しました。各郡におけるLG・学校レベルの活動について様々な紹介がありました。算数研修、LGによる教員の活動への予算付与、 算数の補習授業の実施、授業研究、STEMまたは教科別の研修または教材作成、児童の算数クイズの実施、教員会議、EDCUによるモニタリングなどの事例が挙げられました。21世紀型スキル、問題解決スキル、ロジカルシンキングなどの習得のために学校での算数教育を低予算で改善していくことの重要性を説くEDCU職員もいて、活発な議論がおこなわれました。

全国に普及していくための具体策はこれから検討する必要があり、こうした活動を普及していくためにEDCUの協力が不可欠です。IMENプロジェクトからこのメッセージを伝え、盛況のうちに閉会しました。

画像

パイロットLGによる好事例の共有

画像

授業研究に関する講義

画像

州別グループ協議

画像

州別に優良事例・教訓を発表

画像

セミナー閉会の様子

啓発活動の優良事例共有セミナーの実施 [郡レベル]

2023年10月4日にバクタプル郡、9日にマホタリ郡、13日にジュムラ郡、17日にタナフン郡で、各パイロット地方政府(LG)の優良事例を郡内で共有するセミナーを実施しました。講師・ファシリテーターは教育人材開発センター(CEHRD)・カリキュラム開発センター(CDC)・教育開発調整ユニット(EDCU)チーフ・パイロットLGの地方政府教育ユニット(LEU)職員らが務め、郡内全LGのLEU職員を対象としました。参加者数は、バクタプル郡が全4LG 38名、マホタリ郡は全15LGのうち9LG 32名、ジュムラ郡は全8LG 32名、タナフン郡は全10LG 24名、全体で126名にのぼりました。

プログラムは以下のとおりで、IMENプロジェクトがパイロットLGで実施してきた諸活動について紹介したのち、今後郡内の全LGがどのような活動をしていくのかについて協議しました。
セッション1:IMENプロジェクト概要・成果の説明
セッション2:LGレベルの啓発活動の事例紹介
セッション3:学校レベルの啓発活動の事例紹介
セッション4:グループ協議(今・次年度の算数強化活動計画の立案)

バクタプル郡ではチャングナラヤンLGが算数強化月間とテスト大会、授業研究の事例を共有し、ジュムラ郡ではタトパニLGがMath Kachahari (算数保護者会)、算数強化月間とクイズ大会、授業研究の事例を共有し、タナフン郡ではバンディプルLGが算数教材開発・展示会や授業研究の事例を共有しました。どの回も活発に活動を実施してきた校長がLGを代表して学校での実践例を語ったのに対して、参加者が真剣に耳を傾けていたのが印象的でした。

LEUはそれら事例を参考に、今年度および次年度の算数強化に関する活動計画を検討しました。パイロットLGだけでなく、非パイロット LGにIMENプロジェクトで推奨した活動の良さはしっかりと伝わったようで、授業研究、保護者会、教材開発、SLM活用や算数クイズなどを計画に含めたことを確認できました。パイロット LGが実現性の高い計画を策定できたのはプロジェクト成果だといえる一方で、非パイロットLGsに関しては支援のニーズがありそうです。

各郡のセミナー終了時には、当セミナー経験をひとつのアセットとして今後もEDCUチーフを筆頭に郡レベルで継続的に計画の最終化を行っていくよう強調し、各EDCUチーフも非常に協力的な姿勢だったのが頼もしい限りです。本案件完了後の全国展開期においても、引き続きこれらパイロット郡をフォローし、他の郡のモデルとして活用していくことが重要になります。

画像

CDC職員によるプロジェクト成果の説明(マホタリ郡)

画像

LEUによるLGレベルの優良事例の共有(タナフン郡)

画像

校長による学校レベルの優良事例の共有(ジュムラ郡)

画像

グループ協議(バクタプル郡)

画像

今年度予算を基に活動を計画するLEU

画像

活動計画を発表するLEU