80.Monthlyハイライト(2023年12月)

2018年5月21日から始まったMaWaSU2が12月20日に終了します。5年7か月のプロジェクト期間中に長期専門家6名、短期専門家23名、コンサルタント専門家6名、合計35名もの専門家がさいたま市水道局、川崎市上下水道局、横浜市水道局、埼玉県企業局及び民間企業などから派遣されMaWaSU2を成功に導いてくれました(人数は累積)。

各活動を担当した長期専門家から活動内容と成果を簡単に振り返ってもらいます。

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プロジェクトニュース「1.はじめまして:長期専門家3名着任」の時の写真(左)と
「80.ありがとうございました:長期専門家3名帰任」時の写真(右)

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a.Output1:水道行政能力強化制度改善(石川チーフアドバイザー)

【OIDS/PDCDS】ラオス水道セクターが直面する課題を7つに整理し、それぞれの対応策として7つの戦略にまとめたものがOIDS(Overall Institutional Development Strategy)になります。さらに優先して対応するものをまとめたものがPDCDS(Priority Domain Capacity Development Strategy)であり、内容は法整備と法整備体制の検討になります。近年DWSでは法令等の整備を現状の体制において、首相令2件、省令7件が策定され、法律の改訂を含め6件に取り組んでおり、遅れはあるものの概ね順調に進められています。最終的にOIDSとPDCDSは、今後、局長承認を得ることとしています。

【水道セクター開発基金】ラオスは緊縮財政を強いられており、水道セクターへの予算配置も厳しい状況です。また、昨今国内のあらゆるものの物価が上昇しており、電気代、薬品代等の値上げで水道事業経営を圧迫しています。水道公社の予算や国の支援での水道施設整備は思うように進められない厳しい状況です。そのためドナーによる大規模な支援を補完するような工事を対象として、水道セクター開発基金の検討を開始し支援しています。概算にはなりますがシミュレーションを実施し、一定の条件下で水道基金が財政的に運営できることを確認しました。また、他の既存基金にヒアリングも実施していますが、設立運営までは検討開始から10年近くかかっており、今回の基金の検討に対しDWSはイメージが難しかったのではと感じています。最終的には検討したこと等を基金計画のドラフトとして整理しました。

【水道戦略/都県水道戦略】水道戦略は今後の水道を内外に示す重要なビジョンです。2022年3月に政府版の水道戦略が策定されました。その後地方版にあたる都県水道戦略策定に向けた支援を行ってきたところですが、大きな課題として県公共事業運輸局(DPWT)に明確な水道組織が設置されていないことが挙げられます。ラオス国の方針として公務員削減、組織編成が掲げられており、新たな課の設置は現在のところ非常に困難な状況です。以前に組織された県水道課のある2県では、水道としての業務が明確で責任をもって業務に対応することができています。県DPWTの多くが、水道に接する機会が少なく、県職員の水道に関する知識経験が乏しく、それが業務の取り組み姿勢低下にもつながっていると思われます。ただ策定支援OJTを進めていく中では、ノーマークだった県が意外にも頼もしく進められていることが分かったり、またその逆も判明したりと、これまであまり光の当たってこなかった県DPWTの様子を垣間見ることができました。各県、都県戦略のドラフトも提出され、DWSによりチェックが行われており、来年3月の県知事の承認に向けて進められています。

【水道セクター年報】水道セクター年報は、各県水道公社の活動を公共事業運輸省・水道局(DWS)が取りまとめたものになります。承認、発行されるまでに時間がかかっているのが現状で、これにはデータ収集を依頼するDWSとそれに応える県水道公社の間で言葉の認識等のずれがあり、軌道修正に時間がかかっていることが原因の一つです。水道セクター年報はラオスの水道情報を国内外に情報発信できる便利なツールなので、今後はDWSがこれらの言葉の定義を適切に整理することと、近々策定される事業年報作成ガイドライントと共に関係者へしっかりと説明することです。DWSには水道セクター年報策定の課題整理と解決に向けた取り組みをまとめてもらいました。

水道衛生戦略

水道衛生戦略

ウドムサイ県における都県水道戦略策定支援OJT集合写真

ウドムサイ県における都県水道戦略策定支援OJT集合写真

b.Output2:施設整備実施能力強化(木下業務調整)

パイロットプロジェクト活動(総額6,000万円程度(3件×2サイクル、合計6件))及び新型コロナウイルス時の「本邦企業の技術・資機材のJICA事業での積極的活用」によって資金提供を受けた活動3件、合計9件の実施を通じて、施設整備事業の計画・審査・実施・モニタリング・評価の一連のプロセスを、カウンターパート(C/P)が実際に実施・経験することで、施設整備事業の提案・実施主体である水道公社の計画立案・実施能力を高めるとともに、監督主体である公共事業運輸省・水道局(DWS/MPWT)の事業のモニタリング・評価を行う能力を高めることを目的として実施しました。
主な成果品として、さいたま市草の根プロジェクトと連携した3つのガイドラインを含む、施工監理に関する6つのガイドラインが作成され、パイロットプロジェクト第2バッチで活用されました。また、これらのガイドラインはラオス水道協会を通じて全国の水道公社へ展開されました。
パイロットプロジェクト第1バッチの経験を踏まえ、1.5バッチ(本邦技術活用)および第2バッチでは、主たる活動(自動薬注装置設置:1.5バッチ、管路拡張工事:第2バッチ)に加えて、対象地域での水道教室の実施、水圧・水質管理体制の構築をパイロットプロジェクト活動に加えました。そのことにより、工事完成が目標達成ではなく、施設整備後の維持管理や施設整備事業を行うことにより水道利用者(住民)への衛生・生活向上という水道事業本来の目的を浸透させることを試みました。

パイロットプロジェクト管路布設工事の様子

パイロットプロジェクト管路布設工事の様子

パイロットプロジェクト水道教室ではMaWaSU2専門家も参加

パイロットプロジェクト水道教室ではMaWaSU2専門家も参加

c.Output3:技術基準(野澤サブチーフアドバイザー/水道技術)

様々なドナー支援により水道施設が建設されているラオスでは、施設の仕様や品質が異なります。Output3の活動は、水道法第15条(水道施設の設計建設基準)に記述されているMPWTが定めるべき技術基準を作成することです。MaWaSU2の支援で技術基準が承認された後は、技術基準に適合した水道施設を整備することで、水道施設の品質向上のほか、技術基準を遵守する意識を根付かせることで、水道技術者の育成にも役立つことが期待されます。
作成にはチームを設置し、9章(①総論、②貯水、③取水、④導水、⑤浄水、⑥送水、⑦配水、⑧電気・機械・計装設備、⑨給水装置)から構成される技術基準を作成しました。
MPWT大臣による承認までの過程は、作成チームの技術基準案に対して全国の県公共事業運輸局(DPWT)や水道公社を対象に説明会を開催し、水道セクター関係者からの意見を反映させました。その後、DWS内部の審査や担当者の理解促進のためのOJTを何度も繰り返しました。2023年7月3日に技術基準がMPWT大臣により承認され、10月に説明会を全国のDPWT及び水道公社に対して実施しました。

技術基準の全国説明会の集合写真

技術基準の全国説明会の集合写真

技術基準

技術基準

d.Output4:水道公社の計画実施能力強化(野澤サブチーフアドバイザー/水道技術)

水道公社のC/Pの能力向上を目指したOJTによる技術移転を中心に実施しました。活動は6分野(①データ管理、②お客様サービス、③計画、④財政、⑤水質、⑥水道協会)のSub-committee(SC)を対象に、各分野でテーマを設定し、それぞれの活動成果をMini-Workshop及び全国セミナー等で全国の水道公社に周知・説明する流れで全国展開をする活動です。また、SC6の活動支援によって、2021年1月にラオス水道発展のための調査・研修機関となるラオス水道協会(LWWA)が設立されました。各Outputの主な成果は以下の通りです。

【①データ管理】データを適正に管理し、事業分析・改善を目指した活動です。「水道事業ガイドライン」を改訂し、計算で定めた23PI(Performance Indicator)の指標を算出し水道業務を定量化しました。また、年間の活動や水道事業のデータをまとめ、水道事業年報を作成しました。いずれの活動も18県全ての水道公社で継続的に実施されており、業務として定着しています。

【②お客様サービス】適正な水道料金徴収、住民の水道理解を促進し、お客様視点のサービス向上を目指した活動です。徴収業務の適正化には業務手順書(SOP)を含めた検針・集金業務のマニュアルを作成しました。ITによる検針業務や携帯電話による支払いアプリも開発されています。また、水道への理解促進、啓発、水道使用者増加による普及率向上を目的として小中学校及び未普及地域で水道教室を実施しました。上記の全国展開活動も実施され、業務として定着しています。

【③計画】水需要予測に基づいた計画給水区域への水道整備を行い、長期的視点をもった水道事業を運営するための活動です。2030年までの水需要予測を実施し、公共事業運輸局(DPWT)と協議しながら計画給水区域を設定しています。また、料金改定を前提とした財政収支計画及び長期計画を作成しています。財政状況が厳しい一方で料金改定が社会情勢等で難しく計画が先送りになっている実態がありますが、一連の活動の重要性は理解されており、業務として定着しています。

【④財政】計画に基づいた予算執行と適正な決算、資産管理を目指す活動です。財政状況を示す財政5表や、予算決算報告書も毎年作成されています。また、会計システムをマニュアル化し、全国展開活動で周知しました。計画・財政部門は本邦研修を実施し、事業計画を作成するための体制や、手順、料金改定シミュレーションなどを学びました。計画部門と連携し、財源の見通しや将来の支出を考慮した財政収支計画作成の取り組みがされています。

【⑤水質】水質基準の遵守による安全な水の供給を目指す活動です。従来まで全国的に水質機器が不足しており、水質検査体制が脆弱であったことを改善するために水質検査機器を全国18都県に供与しました。水質検査が継続的に実施できるために検査マニュアルを作成し、全国展開活動も実施しました。また、本邦研修に参加し、取水から給水までの日本の水質管理方法を学び、ラオス水道協会(LWWA)の水質部会では全国の水質管理体制や水質年報の作成状況を確認しながら、水質管理に関わる課題解決に向けた活動が共有されています。

【⑥ラオス水道協会】ラオス水道を発展させるために、全国を対象とした調査・研修・国際交流、災害支援、検査・認証事業を実施する機関を設立し、事務局運営を支援する活動です。設立前には協会規約の作成支援、日本水道協会の協力のもと協会の役割や活動をテーマに本邦研修を実施しました。設立後、MaWaSU2活動を引き継ぐ機関とするためにプロジェクトと連携したLWWA主催のMini-Workshop・部会等による調査・研修の実施、3支部のコーディネーター、技術委員会、施工監理・水質部会の設立等の組織体制の構築支援を実施しました。今後は組織体制をさらに強化し、様々なテーマの活動を充実させる予定です。

本邦研修(計画&財政)終了時の集合写真

本邦研修(計画&財政)終了時の集合写真

LWWA技術委員会準備会の様子

LWWA技術委員会準備会の様子