プロトタイプと社会実装のギャップを埋める試み~ハイウェイアウトレット・メイカソン

10月14日から20日まで、チュカ県庁との初めての連携企画として、私たちのプロジェクトでは、久しぶりの短期集中型プロトタイピングイベント「メイカソン」を開催しました。この企画は、ファブラボCSTも属するチュカ県の経済開発マーケティング担当官(EDMO)から持ち込まれ、同県を南北に貫く主要国道の沿線にある露店(アウトレット)の新設ないし改修を提案するものです。チュカ県ではその費用として50万ニュルタムを計上し、プロトタイプにおける新たな提案内容に基づき、今後専門業者による設計施工に反映され、実装につながることが期待されます。

国道の沿線の公設アウトレットは、チュカ県内だけで現在21ヵ所にあります。しかし、貯蔵スペースや日照、通気などに問題を抱え、販売業者から敬遠されているものもあります。また、ビーチパラソルを立てて非合法の営業を行っている露天商も多く見られ、景観上の課題が指摘されてきました。そのため、チュカEDMOからは、新たなアウトレットの設計に、建築学科も有する科学技術単科大学(CST)の学生を絡め、実際にアウトレットで果物や野菜を販売している小売業者も直接的受益者として入ってもらい、共同でデザインを考える機会を設けられないかとの要望をいただきました。

このため、CSTでは、学内インキュベーション施設である「テック・インキュベーションセンター」が主催者となり、これにファブラボCSTが会場と施設を提供することになりました。参加募集が直前となったにも関わらず、募集開始後半日で28人の枠がすべて埋まり、これに地元小売業者やチュカ県庁、企業家、経済省観光局エンジニアなど10人が加わり、合計38人でのメイカソンとなりました。

初日(10月14日)は、午前中はファブラボ側から成果品のイメージ説明とチュカ県EDMOによる問題意識の説明が行われた後、グループ分けが発表され、アイスブレーキングが行われました。いつもは電気通信工学科学生が多いメイカソンですが、今回は建築学科、土木工学科、電気工学科の学生が多数を占めました。昼食後、参加者はバスに乗り込み、国道添いのスンタラカ地区、ジュムジャ地区のアウトレットを実際に見学し、利用する小売業者からニーズの聴き取りを行いました。

その後、各チームはアイデア出しからプロトタイピングに進みました。決して私たちが推奨しているわけではありませんが、メイカソンを開催すると、期限に近づけば近づくほど、ファブラボの施設利用希望者が増え、滞在時間が長くなる傾向があります。18日(水)の利用チームは午後11時まで残り、19日(木)は全チームが午前2時過ぎまでミニチュアのモデル製作に取り組み、最後まで残っていた学生は、午前7時前にようやくファブラボをあとにしました。

そして、20日(金)は、大学の授業が終わった午後4時過ぎからピッチセッションが始まりました。審査員は、チュカ県プンツォリン郡長、王立会計検査院チュカ担当地域事務所長、CST土木工学科長、建築学科教員にお願いし、6チームは、①スライド、②インパクト動画、③ミニチュアのアウトレットの3点をもってプレゼンを行いました。便宜上順位は付けましたが、それぞれにきらりと光る提案が盛り込まれており、チュカ県EDMOとのその後の協議で、6チームには、後日専門の設計施工業者へのプレゼンを行う場を設け、実装に向けたデザインにもそれらを反映してもらうことを予定しています。

私たちのプロジェクトの成果3には、「ブータン国内の社会経済課題解決に資するため、CSTが他大学や他官民機関と連携し、ファブラボがそのプラットフォームとなる」とあります。チュカ県庁との初の連携企画は、この成果の達成に向けた取組みの1つと位置づけられます。

なお、上位2チームについては、チュカ県EDMOのご厚意により、10月21~22日の週末、同県がエコツーリズム振興にともなう宿泊施設として整備したジグミチュキャンプ場でのキャンプの機会が提供されました。

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チュカ県中部、国道沿いのアウトレットの様子(写真/山田浩司)

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チュカ県北部、アウトレットの様子(写真/山田浩司)

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メイカソン初日、チュカ県EDMOによる主旨説明(写真/山田浩司)

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フィールド調査では、アウトレットを訪ねて利用者に話を聴く(写真/Sangay Thinley)

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メイカソン初日、小売業者からアウトレットの問題点を聴取(写真/山田浩司)

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夜間も行われるグループワーク(写真/山田浩司)

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PCを見ながらデザインを話し合う(写真/山田浩司)

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夜間も繰り広げられたプロトタイプ製作作業(写真/山田浩司)

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審査員にプロトタイプを説明するチーム①(写真/山田浩司)

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審査員にプロトタイプを説明するチーム②(写真/山田浩司)

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審査員にプロトタイプを説明するチーム③(写真/山田浩司)

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メイカソン参加者による集合写真(写真/Sangay Thinley)

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出来上がったプロトタイプのアウトレット(写真/Sangay Thinley)

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上位2チームは、チュカ県庁の計らいで、週末キャンプに出かけた(写真/Damcho Choden)