外国人チャレンジ・テイカーとの協働で、コミュニティの課題解決策をプロトタイプする-FAB23への協力

第18回世界ファブラボ会議(FAB23)では、7月16日のキックオフ後、ブータン国内の5つのファブラボで外国からファブラボ関係者やものづくり愛好家を受け入れ、地域の課題解決のプロトタイピングに一緒に取り組む、「ファブ・ブータン・チャレンジ」がまず開催されました。

ファブラボCSTも、このチャレンジをホストし、17日から22日まで、ブータン人参加者3人を含む、12人の「チャレンジ・テイカー」を受け入れました。その国籍は、イタリア、コロンビア、スペイン、チェコ、UAE、シンガポール、インドと多岐にわたり、世界的に名が知られているファブラボ関係者も含まれていました。私たちが選んだ課題は「地域のアルミ缶廃棄物を活用して、障害児の自助具の部品として活用する」というものです。

主催者であるファブシティ財団とのオンライン準備会合は3月からはじまり、取り組む課題を1つに絞り込んだあと、4月19日にFAB23参加希望者向けオンライン説明会で、各ホストラボが各々の選定課題を説明しました。これを受けて、5月7日までチャレンジ参加者募集受付が続けられ、国内外から90人の応募があったそうです。その応募者リストをもとに、5月末までにチャレンジ・テイカー選定が進められ、最終的に22カ国から59人(うち19人はブータン人)がファブ・ブータン・チャレンジに参加することになったのです。

6月に入ると、各ホストラボは、チャレンジ・テイカーとのオンライン協議を開始しました。課題をどのように定義し、どのようなものを作ったらいいのかを話し合いました。チャレンジ・テイカー側では、チャレンジ開始前のウォームアップとして、各々がパーツを試作し、必要な物資の調達を行いました。ホスト側も、チャレンジ・テイカーと一緒に試作に取り組む「コミュニティ・パートナー」との連絡調整を進め、ラボの設置機材の点検や内装の整備、必要な資機材の調達などを進めました。

ファブラボCSTでは、科学技術単科大学(CST)の学生10人と、プンツォリン市内の障害児特別教育指定校「SENスクール」2校をコミュニティ・パートナーと見なし、準備を進めました。また、実際のチャレンジ期間中には、私たちの技術協力プロジェクトの専門家やブータン派遣中の協力隊員、さらにはJICA新規事業「FAB x国際協力」の一環で派遣されたファブラボ品川の自助具デザインの専門家にもコミュニティ・パートナーとして加わってもらい、期間中のプログラムのリード役も務めてもらいました。

プンツォリン到着後、チャレンジ・テイカーたちは、18日(火)に地元SENスクールにて生徒との面談に臨み、3時間にも及ぶインタビューと学校施設見学ののち、自助具製作の方針について議論を行いました。その上で、翌19日(水)にアイデアスケッチによるアイデアの棚卸しを行い、この中から選ばれたいくつかの自助具案の具体的な試作に着手しました。また、長期的にはSENスクールの先生と生徒が、クラスメートの必要とする自助具を学内で自らデザインできる環境ができあがるのが理想です。このため、自助具製作を学校でのSTEAM教育(科学、技術、工学、芸術・リベラルアーツ、数学の5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念)に取り込んでいく5カ年計画の策定も行いました。

これらの試作・提案書作成作業は連日夜間も続けられ、22日(土)の首都ティンプーへの移動日当日も、障害児への最後のフィッティングがギリギリまで行われました。

23日(日)は、首都市街地の中心にあるクロックタワー広場で開催された「ファブ・フェスティバル」において、他のチャレンジ参加チームの試作品展示とともに、出展されました。アルミ缶をそのままパーツとして利用した背骨矯正器具や、現地で調達可能なパーツを用いて製作された点字プリンターなど、私たちの展示はとりわけ多くの来場者の注目を集め、会場を訪れた教育大臣も、展示ブースに立ち寄ってチャレンジ・テイカーによる説明に耳を傾けて下さいました。

翌週はスーパー・ファブラボを会場に「FAB23カンファレンス」が5日間開催されましたが、この間も、ファブラボCSTとチャレンジ参加チームの関係者は、教育省SEN教育課に呼ばれ、点字プリンターの実演とSENとSTEAM教育の連携実施提案内容について、説明を行いました。

そしてカンファレンス最終日(28日)、一連の行事の最後に行われた選考結果発表で、私たちの試作は、「大衆が選んだ最優秀チーム賞(People’s Choice Award)」に見事選ばれました。ファブ・フェスティバル来場者のうち、679人が私たちのチャレンジに投票して下さったそうです。この受賞により、来年8月にメキシコで開催が決まっているFAB24で、私たちはコミュニティでの今後の取組み状況について報告義務が生じることになりました。

経済学者による費用便益分析によれば、チャレンジの結果得られたデザインへの投資は、投資額の12倍という高いリターンをもたらすとメディアでも報じられました(ブータン国営テレビ、7月27日)。今まで、ファブラボCSTは、JICAの技術協力プロジェクトを通じて、日本のファブラボ関係者とのつながりが突出して強かったのですが、ファブ・ブータン・チャレンジとFAB23カンファレンスを通じて、学生を含めたCSTの関係者ひとりひとりが築いた外国人ファバーとのつながりが、ファブラボCSTを次のステージに押し上げてゆくことが期待されます。

SENスクールの生徒の障害の状況を確認する(写真/FabLab CST)

SENスクールの生徒の障害の状況を確認する(写真/FabLab CST)

理学療法士の協力隊員も加わり、障害児の歩行の状況を確認した(写真/FabLab CST)

理学療法士の協力隊員も加わり、障害児の歩行の状況を確認した(写真/FabLab CST)

生徒へのインタビューのあと、自助具製作の方針について関係者で協議(写真/FabLab CST)

生徒へのインタビューのあと、自助具製作の方針について関係者で協議(写真/FabLab CST)

ファブラボに戻り、各自が考える自助具のアイデアをスケッチする(写真/山田浩司)

ファブラボに戻り、各自が考える自助具のアイデアをスケッチする(写真/山田浩司)

他の参加者のアイデアスケッチの内容も確認する(写真/山田浩司)

他の参加者のアイデアスケッチの内容も確認する(写真/山田浩司)

試作開始。点字プリンターの試作に取り組むチーム(写真/山田浩司)

試作開始。点字プリンターの試作に取り組むチーム(写真/山田浩司)

集めたアルミ缶を溶解し、歩行器のパーツの鋳造を行う(写真/山田浩司)

集めたアルミ缶を溶解し、歩行器のパーツの鋳造を行う(写真/山田浩司)

プロジェクトマネージャーも試作に挑戦(写真/山田浩司)

プロジェクトマネージャーも試作に挑戦(写真/山田浩司)

プンツォリンでの最後の夜は打上げ会(写真/FabLab CST)

プンツォリンでの最後の夜は打上げ会(写真/FabLab CST)

ファブ・フェスティバル会場の展示ブース(写真/山田浩司)

ファブ・フェスティバル会場の展示ブース(写真/山田浩司)

優勝が決まり、楯を持つCST学長を中心に、参加者全員で集合写真(写真/FabLab CST)

優勝が決まり、楯を持つCST学長を中心に、参加者全員で集合写真(写真/FabLab CST)