FAB23の学びをどう持ち帰るか――学生によるワークショップ再現

7月にブータンで開催された第18回世界ファブラボ会議(FAB23)から1カ月が経ちました。ファブラボCSTがある王立ブータン大学科学技術単科大学(CST)では、FAB23カンファレンス開催中に新学期がはじまり、今期新設された機械工学科、水資源工学科を含め、9学科で1年生が入学しました。

FAB23前半に行われた「ファブ・ブータン・チャレンジ」で、ファブラボCSTがホストした地域の課題解決の取組みが「大衆が選んだ最優秀チーム賞(People’s Choice Award)」を受賞したことは、学内でも大きく報じられ、学生のファブラボへの関心の高まりに一役買ったようです。新入生だけでなく、在校生の間でも。オリエンテーションから機械操作ハンズオン研修にいたるまで、今のうちに体験しておきたいとの要望が寄せられるようになってきました。

FAB23カンファレンスには、学内で希望者を募り、20人近いCST学生がティンプーに滞在しました。彼らは、ファブ・ブータン・チャレンジのチームメンバーやファブラボCSTの主催したサイドイベントのサポートに加え、空き時間を利用して、多くのサイドイベントに参加し、その学びを大学に持ち帰りました。

ファブラボCSTでは、8月12日(土)に「ユーザーズ・フォーラム」を開催し、FAB23に参加した学生同士の学びの共有と、参加できなかった学生への報告の機会を設けました。この中では、「障害者が片手だけで入力できるキーボード」や、「空気で膨らむアクチュエータ(コンピュータが出力した電気信号を、物理的運動に変換する装置)」、「ファブラボ単位でのゴミゼロ化の取組み」、「アート、音楽、マルチメディアを組み合わせて気候変動や海洋プラスチック対策への行動変容をうながす取組み」などが、特に印象に残ったワークショップとして紹介されました。

さらに、FAB23に参加した学生の中には、「カンファレンス会場で自分たちが体験してきたワークショップを、CSTで再現してみたい」との要望も寄せられたため、急遽8月26日(土)に、二度目のユーザーズ・フォーラムを開催することになりました。

「FAB23体験をローカルで再現する」と題した2時間のワークショップには、他の学内行事との重複もあったため、9人の参加にとどまりました。

ファブラボCSTでは、主催学生からの依頼により、ラボ内で出た段ボールやレーザー加工後の端材、縫製後の端切れなどの廃棄物を事前に用意しました。

ワークショップがはじまると、参加者は、これから会場を出て、20分間、外を歩き回って、虫や鳥の声、草木の色、風の音、イヌの足音など、大学構内にある「自然」を体感してくるよう求められました。この間、写真撮影やスケッチは行わず、ただありのままを感じてくるよう指示されました。

その後、ワークショップ会場に戻った参加者は、テーブルの上に広げられた廃棄物を前に、自然観察に使うことができそうな道具を試作することになりました。ガムテープ、ビニールテープ、のり、はさみ、カッターナイフ、マーカーペンなど、試作に使う道具は主催学生が用意しました。

約40分間の工作のあと、参加者は、各々が作った自然観察用具を他の参加者にも紹介し、自然のどこに興味を持ち、どのような機能を持った道具を、どのような素材を用いて作ったのかを話しました。「双眼鏡」、「視界をぼかして音に集中するための眼鏡」、「鳥の巣箱」、「収音マイク」、「生分解性苗ポッド」などのアイデアが試作品となってでき上がりました。

主催者による動機づけと、目の前にある素材の山は、参加者のアイデア出しを促す効果があるように感じられました。自然観察以外にも、意識づけの方向次第で、この手法はさまざまな分野課題でのアイデア出しに使えそうです。また、ファブラボで出される廃棄物も、アイデア出しの素材として使うことができるということを、私たちはワークショップから学ぶことができました。

1年前の8月25日、JICAの技術協力によりファブラボCSTは開所しました。開所から1年経過した最初のイベントが、この初めての利用者提案によるワークショップ開催となりました。

8月12日のユーザーズ・フォーラムの様子(写真/山田浩司)

8月12日のユーザーズ・フォーラムの様子(写真/山田浩司)

8月12日のユーザーズ・フォーラムでは、FAB23参加学生が各々の学びについて報告した(写真/山田浩司)

8月12日のユーザーズ・フォーラムでは、FAB23参加学生が各々の学びについて報告した(写真/山田浩司)

8月26日に開催されたワークショップ。テーブルの上に広げられた「廃棄物」を使って工作に取り組んだ(写真/Tenzin Dorji)

8月26日に開催されたワークショップ。テーブルの上に広げられた「廃棄物」を使って工作に取り組んだ(写真/Tenzin Dorji)

各参加者が自分が試作した自然観察用具について説明(写真/山田浩司)

各参加者が自分が試作した自然観察用具について説明(写真/山田浩司)

各参加者による試作品説明の様子(写真/山田浩司)

各参加者による試作品説明の様子(写真/山田浩司)

自然観察用具の試作品は、このようにしてファブラボCST内で展示される(写真/山田浩司)

自然観察用具の試作品は、このようにしてファブラボCST内で展示される(写真/山田浩司)

ワークショップ参加者(写真/山田浩司)

ワークショップ参加者(写真/山田浩司)