pi-top(パイトップ)をめぐる地元ユースセンターとの協働

pi-top(パイトップ)は、シングルボードコンピュータ「Raspberry-Pi(ラズベリーパイ)」を搭載した拡張キットです。pi-top [3]まではノートパソコンの形状をした筐体でしたが、pi-top [4]は小型のディスプレイと4つのプログラムボタンを用いた箱型の筐体にデザインが変更されました。これをラップトップやキーボード、ディスプレイにつないでプログラミングを行い、LEDライトやスイッチ、センサーなどのモジュールにつないで入出力します。また、小型の筐体となったことにより、ロボットやドローンに搭載することもできるようになりました。

ブータンでは、STEM教育の普及をめざしたユニセフの支援により、2019年にpi-top [4]のファンデーションキットとキーボード、マウス、ディスプレイが全国のユースセンターに供与されました。私たちのプロジェクトの事業地でもあるブータン南西部のプンツォリンでも、ユースセンターには6台のpi-top [4]が供与されました。これらは、2017年に設立されたファブラボブータンの初期の活動の成果で、pi-topの普及は日本では見られないブータンの大きな特徴の1つとなっています。

しかし、その後発生したパンデミックの影響でユースセンターは長らく閉鎖され、初期にpi-topの操作研修を受けていたスタッフやユースボランティアの多くが、センターを去ってしまいました。また、pi-top [4]を用いたプログラミングや電子工作の講習会へのインストラクター派遣を請け負っていたファブラボブータンは、2022年8月、王立ボランティア事業「デスーン」の技能開発部門(DSP)に経営譲渡されてしまいました。ファブラボブータンは、ユースセンター向け技術支援が困難になったばかりか、保有していた20数台のpi-top [3]を動かせる人材がDSPにはいないため、全国のpi-topが活用できない状態に陥ったのです。

地元のユースセンターをファブラボの重要なコミュニティパートナーと位置付けてきた私たちのプロジェクトでは、これまで、同様の経緯で2020年にユニセフから供与された3Dプリンターの活用促進ではすでに協力してきました。ユースセンター側からは、pi-top [4]の利用再活性化についても相談を受けていましたが、ファブラボにファンデーションキットが1台しかないことから、専門家としてはなかなか状況打開策が検討できずにいました。

しかし、7月のFAB23カンファレンスでは、STEAM教育(科学・技術・工学・アート・数学)促進に果たすファブラボの役割が強調されたのを受け、プロジェクトのカウンターパートが「pi-topの活用」を叫ぶようになるという、大きな進展がありました。

具体的には、まず、ユースセンターからpi-top [4]ファンデーションキット6台を借り、ファブラボCSTが所有する1台と合わせて、計7台を使って科学技術単科大学(CST)学生向けの研修を実施します。次に、これを受講した学生をインストラクターとしてユースセンターに派遣し、プンツォリンの子どもたち向けpi-top講習会を支援するというものです。

9月1日、2日に行われたCST学生向け「pi-topブートキャンプ」は、計37人が受講しました。ブートキャンプには、学生だけでなく、pi-topに興味を持ち、大学カリキュラムでの導入を検討していたというIT学科の教員も参加しました。このインストラクターは、CSTの卒業生で、かつ現在ブータンで唯一のpi-top社公認インストラクターであるナンダ・グルンさんに依頼しました。

続いて、10月8日(日)から29日(日)まで、毎週日曜朝、2時間30分のpi-top講習会をユースセンターで開催し、これにブートキャンプ修了生を各回3~4人派遣するよう手配しました。ユースセンターのpi-top講習会には、プンツォリンの子どもたち20人近くが参加しています。また、インストラクターを務める学生にはファブラボCSTの保有するpi-top [4]を貸与し、講習の予習に役立ててもらっています。「教えることで学ぶ」を身をもって体感してもらっています。

こうして、プンツォリンでは、ファブラボとユースセンターがpi-topの有効活用をめぐって協働する流れができつつあります。この協働モデルは、同様にファブラボとユースセンターが近隣にある国内他地域でも適用可能です。また、ティンプーの場合、ブートキャンプを修了したCSTの学生が帰省する冬休みであれば、DSPが使えないでいるpi-top [3]の利用再活性化にもつながる可能性があります。

関連リンク

持参のラップトップをpi-topにつなぎ、プログラミング(写真/山田浩司)

持参のラップトップをpi-topにつなぎ、プログラミング(写真/山田浩司)

ブートキャンプ第一組の様子(写真/山田浩司)

ブートキャンプ第一組の様子(写真/山田浩司)

3人1組でプログラミングに取り組むCST学生(写真/山田浩司)

3人1組でプログラミングに取り組むCST学生(写真/山田浩司)

グループワークのプログラム説明に助言を与えるインストラクター(写真/山田浩司)

グループワークのプログラム説明に助言を与えるインストラクター(写真/山田浩司)

インストラクターは、pi-top [3]の現物も携行して説明(写真/山田浩司)

インストラクターは、pi-top [3]の現物も携行して説明(写真/山田浩司)

pi-top [4]ファンデーションキット(写真/山田浩司)

pi-top [4]ファンデーションキット(写真/山田浩司)

10月、ユースセンターで行われているpi-top講習会の様子(写真/山田浩司)

10月、ユースセンターで行われているpi-top講習会の様子(写真/山田浩司)

ユースセンターで子どもたちを指導するブートキャンプ修了生(写真/山田浩司)

ユースセンターで子どもたちを指導するブートキャンプ修了生(写真/山田浩司)