ベースライン調査① 建物調査

NBCCでは、ネパール国の現状を把握するために、プロジェクト開始時に以下3つの調査を実施致しました。

1. ベースライン調査(建物調査)

プロジェクト開始時の、ネパール国建築基準(Nepal National Building Codes: NNBC)の遵守率を知るため、建設中の建物調査を実施しました。

2. ベースライン調査(キャパシティアセスメント)

プロジェクト開始時の、自治体職員、建築主、施工監理コンサルタント、建設業者、および自治体の組織としてのキャパシティ(課題対処能力)を知るため、調査を実施しました。

3. 意識調査

プロジェクト開始時の、建物の安全性に対する建築主の意識を知るために調査を実施しました。

これら調査はプロジェクト終了時にも同様の調査を行い、プロジェクトの効果を測る予定です。
この記事では1.ベースライン調査(建物調査)について、以下に紹介させて頂きます。

1. ベースライン調査(建物調査)

プロジェクト開始時の、ネパール国建築基準(Nepal National Building Codes: NNBC)の遵守率を知るため、建設中の建物調査を実施しました。

1-1. 調査方法

番号 調査項目
1 柱サイズ
2 柱主筋の数、直径、重なり部の長さ
3 柱帯筋(フープ)間の距離、直径、曲げフックの長さ、曲げフックの角度
4 梁サイズ
5 梁主筋の数、直径、重なり部の長さ
6 梁帯筋(スターラップ)間の距離、直径、曲げフックの長さ、曲げフックの角度
7 柱梁結合部の定着(アンカー)の長さ、帯筋(フープ、スターラップ)間の距離
8 コンクリートかぶりの厚さ(コンクリートカバー)
9 コンクリート配合率(セメント、砂、砂利)
10 コンクリート圧縮試験用テストピース採取の有無
11 基礎の深さ、サイズ、フーチングの厚さ
12 基礎鉄筋間の距離、直径、重なり部の長さ

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1-2. 調査結果

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12項目全体の遵守率は55%でした。特に遵守率が低かった3項目について、以下に説明します。

(1)柱梁結合部(No. 7)

調査時のインタビューでは、ほとんどの建設業者が柱梁結合部の帯筋(フープ、スターラップ)の設置が難しいと答えました。また、柱のコンクリート打設は、上階の梁の鉄筋(アンカー:下右図の赤い部分)を定着させるために柱の上端から少なくとも2フィート残してコンクリートを打設しなければならないにも関わらず、実際の建設現場では柱の上端までコンクリートを打設していました。
調査時に多く見られた施工不良は、帯筋(フープ、スターラップ)間の距離が開きすぎていること、定着(アンカー)の長さが不十分であることの2点でした。

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(2)コンクリート配合率(No. 9)

建設許可手続きにおいて承認された図面では、ほとんどの場合、配合率は「セメント:砂:砂利=1:1.5:3」でしたが、実際の建設現場では「セメント:砂:砂利=1:2:3」で行われており、砂が多めに使われていました。原因として考えられるのは、滅多に施工監理コンサルタントが監理をしていないこと、現行の建築許可実務手順書(Building Construction Working Procedure:BCWP)では、建設業者が建設記録の提出を求められていないこと、が挙げられます。

(3)コンクリート圧縮試験用テストピース採取の有無(No. 10)

現行のBCWPでは、コンクリート圧縮試験が義務付けられていなかったため、テストピースを採取している建設現場が2%のみという結果でした。
参考のために、38か所の建設現場でコンクリート圧縮試験用テストピースを採取し圧縮試験を実施したところ、26%のみが承認図面で求められている強度を満たしていました。

1-3. まとめ

  • 調査の結果、柱梁結合部、コンクリート配合率、コンクリート圧縮試験用テストピース採取の有無の3点の遵守率が特に低くなりました。
  • 柱梁結合部の遵守率の低さは、施工監理コンサルタントによる監理があまり行われていないことによると考えられます。一般的に、建設業者は基準遵守の意識が低く、施工監理コンサルタントがいない場合には仕様や承認図面に従わない傾向にあると考えられます。したがって、新しいBCWPでは施工監理コンサルタントによる監理が行われるよう定める必要があります。
  • コンクリート配合率と圧縮試験用テストピース採取については、現行のBCWPで圧縮試験が求められていないことが、低い遵守率の原因と考えられます。新しいBCWPでは圧縮試験結果の提出を義務付けることが求められます。