ベースライン調査② キャパシティアセスメント

NBCCでは、ネパール国の現状を把握するために、プロジェクト開始時に以下3つの調査を実施致しました。

1. ベースライン調査(建物調査)

プロジェクト開始時の、ネパール国建築基準(Nepal National Building Codes: NNBC)の遵守率を知るため、建設中の建物調査を実施しました。

2. ベースライン調査(キャパシティアセスメント)

プロジェクト開始時の、自治体職員、建築主、施工監理コンサルタント、建設業者、および自治体の組織としてのキャパシティ(課題対処能力)を知るため、調査を実施しました。

3. 意識調査

プロジェクト開始時の、建物の安全性に対する建築主の意識を知るために調査を実施しました。

これら調査はプロジェクト終了時にも同様の調査を行い、プロジェクトの効果を測る予定です。
この記事では2.ベースライン調査(キャパシティアセスメント)について、以下に紹介させて頂きます。

2. ベースライン調査(キャパシティアセスメント)

プロジェクト開始時の、自治体職員、建築主、施工監理コンサルタント、建設業者、および自治体の組織としてのキャパシティ(課題対処能力)を知るため、調査を実施しました。

2-1.各ステークホルダーのキャパシティアセスメント

1)BCWPの理解度

自治体エンジニア、建築主、施工監理コンサルタント、建設業者に対し、建築許可手順について「いくつかの段階を知っている」、「すべての段階を知っている」、「知らない」の3択で回答を求めたところ、各回答者とも「すべての段階を知っている」と答えた人が一番多くなりました。

2)ガイドライン、教科書、マニュアル、チェックリストの有無/利用

自治体エンジニア、建築主、施工監理コンサルタント、建設業者に対し、ガイドライン等の有無/利用について聞きました。

対象者 質問 回答
自治体エンジニア 設計図面チェック時に建築基準・条例遵守に関するマニュアル、チェックリストがありますか? 公式ガイドラインあり:20%
ない:24%
自治体エンジニア 建物検査に関するガイドライン、マニュアル、チェックリストがありますか? 公式ガイドラインあり:16%
ない:36%
建築主 建設許可申請のガイドライン、マニュアル、チェックリストがありますか? ない:100%
設計監理コンサルタント 設計図面チェック時に建築基準・条例遵守に関するマニュアル、チェックリストがありますか? 公式ガイドラインあり:28%
ない:32%
設計監理コンサルタント 施工監理に関するガイドライン、マニュアル、チェックリストがありますか? 公式ガイドラインあり:12%
ない:64%
建設業者 建設品質管理に関するガイドライン、マニュアル、チェックリストがありますか? 公式ガイドラインあり:8%
ない:84%

3)建物検査/監理の実施

自治体エンジニア、施工監理コンサルタント、建築主に対して、建物検査/監理の実施について聞きました。

対象者 質問 回答
自治体エンジニア 現行BCWPに従って2回の建物検査を実施していますか? 2回実施:84%
設計監理コンサルタント どの段階でサイトの監理を行いますか? 全ての段階(基礎、床スラブ、コンクリート打設、上部構造):48%
建築主 誰に施工監理を委託しますか? 自分で:36%
知人、親戚:24%
設計者:28%

4)コンクリート圧縮試験の必要性への理解

自治体エンジニア、建築主、施工監理コンサルタント、建設業者に対し、コンクリート圧縮試験の必要性について聞きました。その結果、各回答者とも「必要」と答えた人が一番多くなりました。

5)研修受講の経験

自治体エンジニア、建築主、施工監理コンサルタント、建設業者に対し、建築基準・条例に関する研修受講の経験を聞きました。その結果、各回答者とも「受講歴なし」と答えた人が一番多くなりました。

6)建築基準・条例遵守に対する理解

自治体エンジニア、建築主、施工監理コンサルタント、建設業者に対し、安全な建物を建設するために建築基準・条例を遵守するよう気をつけているか聞きました。その結果、自治体エンジニア、施工監理コンサルタント、建設業者は「建築基準と条例の両方とも気を付けている」が一番多い回答でしたが、建築主は「条例のみ:36%」、「両方:24%」、「両方とも気を付けていない:40%」という回答になりました。また、建設業者でも「両方とも気を付けていない:28%」という回答があったことは特筆すべきかと思われます。

7)Building Information Modeling(BIM)に対する理解

自治体エンジニア、施工監理コンサルタント、建設業者に対し、BIMへの理解度を質問したところ、自治体エンジニア、施工監理コンサルタントは「部分的に知っている」と「知らない」が約半数でしたが、建設業者では88%が「知らない」との回答でした。

8)建設材料の選び方

建築主に対し、どのように建設材料を選ぶか聞いたところ、「設計者の薦めに従う:36%」、「建設業者の薦めに従う24%」、「自分で選ぶ32%」との回答でした。

9)現行の建設許可システムに対する印象

建築主に対し、現行の建設許可システムに対する印象を聞いたところ、「とても複雑:56%」、「簡単:28%」という回答でした。

10)建設工事の記録

建設業者に対し、建設工事中に品質管理に関して記録を取るか聞いたところ、「写真を含めて記録をとる:64%」、「記録なし:32%」という回答でした。

11)建設業者の登録状況

建設業者に対し、登録の有無を聞いたところ、「自治体に登録されている:16%」、「Valley Independent Contractor Association (VICA)に登録されている:4%」、「登録なし:80%」という回答でした。

2-2.組織のキャパシティアセスメント

1) 各自治体の2020/21年度の建設許可申請数と技術者数

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2) 各自治体の2020/21年度の技術者1人あたりの建設許可申請数

上記1)の情報から、技術者1人あたりの建設許可申請数を算出したところ、以下のとおりとなりました。

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3) 建設許可業務への予算(2020/21年度)

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4) e-BPSの設置と利用

TokhaとTarakeshworは利用の初期段階、Lalitpurは利用の中期段階、その他4自治体は利用していないとの回答でした。

5) 文書のデジタル化

Lalitpurは約75%がデジタル化と回答、Dakshinkaliは約25%がデジタル化と回答、その他5自治体は全くデジタル化されていないとの回答でした。

6) 建設業者の登録システム

Tarakeshoworには登録システムがあるとの回答でしたが、その他6自治体はなしとの回答でした。

7) 建築基準・条例の遵守違反に対するペナルティシステム

Lalitpurにはなしとの回答でしたが、その他6自治体には、「公式なペナルティシステムがある」との回答でした。

8) 建築基準・条例の遵守促進のためのインセンティブ制度

7つの自治体すべてでインセンティブ制度がないと回答しました。

2-3.まとめ

  • コンクリート圧縮試験の必要性については、全てのステークホルダーが必要と考えていることがわかりました。しかし、ベースライン調査(建物調査)では圧縮試験用テストピースは2%しか採取されていませんでした。新BCWPでは圧縮試験を義務付けることが望まれます。
  • (自治体エンジニア)業務に必要なガイドライン、マニュアル、チェックリストが整備されていないため、新BCWPに沿ったガイドライン、マニュアル、チェックリスト等の整備が望まれる。
  • (建築主)研修受講の経験が低く、建築基準・条例遵守に対する理解も低いことから、新BCWPに従い、建築基準・条例遵守に関して建築主のためのオリエンテーションを実施することが望まれる。
  • (建築主)現行の建設許可システムが複雑だと回答した人が多く、建築基準・条例を遵守するよう気を付けている人も少ないことから、新BCWPに関して建築主用のガイドラインを作成することが望まれる。
  • (設計監理コンサルタント)業務に必要なガイドライン、マニュアル、チェックリストが整備されていないため、新BCWPに沿ったガイドライン、マニュアル、チェックリスト等の整備が望まれる。
  • (建設業者)建設工事中に品質管理記録を取っていない業者が多い。新BCWPに沿って品質管理記録を施工監理コンサルタントに提出することを義務付けることが望まれる。
  • (組織)ほとんどの自治体が建設業者の登録システムを持っていないことから、新BCWPに沿って登録システムを構築することが望ましい。
  • (組織)建築基準・条例遵守のインセンティブ制度を構築することが望まれる。