ベースライン調査③ 意識調査

NBCCでは、ネパール国の現状を把握するために、プロジェクト開始時に以下3つの調査を実施致しました。

1. ベースライン調査(建物調査)

プロジェクト開始時の、ネパール国建築基準(Nepal National Building Codes: NNBC)の遵守率を知るため、建設中の建物調査を実施しました。

2. ベースライン調査(キャパシティアセスメント)

プロジェクト開始時の、自治体職員、建築主、施工監理コンサルタント、建設業者、および自治体の組織としてのキャパシティ(課題対処能力)を知るため、調査を実施しました。

3. 意識調査

プロジェクト開始時の、建物の安全性に対する建築主の意識を知るために調査を実施しました。

これら調査はプロジェクト終了時にも同様の調査を行い、プロジェクトの効果を測る予定です。
今回の記事では3.意識調査について、以下に紹介させて頂きます。

3. 意識調査

プロジェクト開始時の、建物の安全性に対する建築主の意識を知るために調査を実施しました。

3-1. 調査方法

[1]質問には回答の選択肢を1つしか選択できないものと、複数回答が可能なものの2種類があります。複数回答が可能なものは各選択肢の母数を100(全回答者数)としてパーセントを算出しているので、各選択肢の回答者%の合計は100%よりも多くなります。

3-2. 調査結果

(1)建物の安全に対する知識

1)基準への理解
この質問は、人々が建築基準法や条例(By-Laws)の存在や内容を知っているかどうかを知るためのものです。
92%の回答者が、基準は地震に強い家を作るためにあることを理解しています。これは、2015年の地震が記憶に新しいことや、地震後のいろいろな団体によるキャンペーンの成果と思われます。

画像

2)建設材料の選び方
建設された建物で基準が守られていない一つの理由として、「人々が材料の質・量の大切さを知らないため」が想定されたため、この質問を作成しました。
材料の質の選び方(質問A2)については、「設計者の薦めに従う」が一番多く46%、2番目に多いのが「建設業者の薦めに従う」で36%でした。40%が「自分で選ぶ」を選んでいますが、この中には「自分で選ぶ」と他の選択肢を同時に選んだ人もいますが、22%の人が「自分で選ぶ」だけを選びました。材料の量の選び方については、「建設業者の算出に従う」が一番多く64%、2番目に多いのが「設計者の算出に従う」で42%でした。また、22%が「自分で算出する」を選んでおり、「自分で算出する」のみを選んだのは9%でした。
建築主の中には建設に関する知識が殆どない人たちもいるので、自分たちで質や量を選択するのは適切ではありません。
プロジェクトでは、材料の質や量が建物の安全性に直接かかわることを広報していく必要があると思われます。もちろん、質・量だけではなく、適切な保存方法、適切な配合、養生等も重要であることも伝えている必要があります。

画像

画像

3)建設許可手続きに対する印象
建設された建物で基準が守られていない一つの理由として、「人々が建設許可の手続きが面倒だから」が想定されたため、この質問を作成しました。
11%~50%の人が建設許可手続きについて、「時間がかかる」、「出費が大きい」、「複雑」、「たくさんの書類が必要」、とネガティブなイメージを抱いています。
プロジェクトでは、許可手続きの一部を改訂して、自治体、建築主、設計者、施工監理コンサルタント、建設業者に対するガイドラインやマニュアルの作成し、トレーニングや啓発活動を行うので、これらによってネガティブなイメージが減ることが期待されます。

画像

4)建設関連業務の委託
これらの質問は、人々がどのように設計者、建設業者、施工監理コンサルタントを選ぶかを知るためのものです。
設計者、建設業者を選ぶ際、友人、親戚、知人、隣人をあてにする人が多いことがわかりました。ほとんどの建築主は、設計者、建設業者がトレーニングを受けたか否かを気にしていません。
施工監理に関しては、自分で監理する人が36%もいることがわかりました。先にも述べたように、建築主の中には建設に関する知識が殆どない人たちもいるので、適切な施工監理が行われない可能性が高いです。
プロジェクトでは、建築許可実務手順書(Building Construction Working Procedure:BCWP)の改訂によって、施工監理業務は自治体に登録された施工監理コンサルタントを使うことを義務付けます。

画像

画像

画像

5)建設業務中の打ち合わせ頻度
建設された建物が、建設許可手続きにおいて承認された図面と違うことがよくあります。その原因を知るために、この質問は関係者間の打ち合わせ頻度を尋ねたものです。
設計者または施工監理コンサルタントとの打ち合わせに関しては、「必要に応じて」という回答が50%を超えています。「必要に応じて」ということは、必要を感じなければ打ち合わせをしないとも言えるので、コミュニケーション不足によって承認図面とは違う建物ができる可能性があります。一方で、建設業者とは週に1回以上打ち合わせをする人が58%います。建築主が頻繁に現場を訪れており、新しい家に興味を持っていることがわかります。

画像

画像

画像

6)自治体の役割に対する理解
この質問は、建物の建設中に自治体からエンジニアが検査のために訪問する理由を理解しているかどうかを知るための質問です。
94%の人が「基準に沿って建設が行われているかチェックするため」を選択し、自治体エンジニアの役割を理解していました。

画像

(2)基準遵守に対する倫理的意識

1)基準を守るメリットへの理解
基準を守らない理由として、節約したい、基準を守るとお金がかかると考えている、などが想定されました。基準を守ることにより、地震に強く長持ちする家ができることを人々が理解しているかどうかを知るために、この質問を作成しました。
70%以上の人が、基準を守ることによって安全で強く地震に強い建物ができることを理解していることがわかりました。「コストが増える」や、「時間がかかる」というネガティブイメージを持っている人は少ないこともわかりました。

画像

2)基準に対する考え
基準を守らない理由として、「基準は厳しすぎて守る必要がない」、「そもそも守るつもりがない」、などの倫理的感覚が低いことが考えられたので、この質問を作成しました。
その結果、60%が必要最低限と考えている一方で、31%の人が厳しすぎると考えていることがわかりました。

画像

3)基準を守らなかったらどうなるか
基準を守らなくても問題ないと考えている人はいませんでした。
回答者は全員、規則を守らなければ何らかの障害が生じることを理解していますが、ペナルティがかかると考えている人は10%以下のみでした。

画像

4)インセンティブ
プロジェクトでは、基準遵守のインセンティブメカニズムを提案する予定なので、この質問では、人々がどんなインセンティブ制度を望んでいるかを聞きました。
基準を守るのを後押しするのは何か尋ねた質問については、「税金への補助金」の回答が一番多く52%でした。「その他」を選んだ人の回答には「監理頻度を増やす」や「DUDBCが定期的に建設現場をモニターする」などがありました。
インタビューの際には、「家を建てる際には多くの支出が必要であるため、建てているときに補助金が欲しい、ディスカウントが欲しい」との意見が聞かれました。基準を遵守したことは建設が完了したときにしか証明されないので、インセンティブを与える時期も考慮してインセンティブ制度を策定する必要があると思われます。

画像

3-3. まとめ

  • 殆どの建築主が、基準は地震に強い家を作るためにあることを理解しています。これは、2015年の地震が記憶に新しいことや、地震後のいろいろな団体によるキャンペーンの成果と思われます。しかし、基準は守られなければ意味がありません。本プロジェクトにおいては、わかりやすいスローガンなどを定めて、基準遵守の重要性を広報していくことが重要と考えられます。
  • 建築主の中には建設に関する知識が殆どない人がいますが、建設材料を自ら選んだり、自ら施工監理をしたりする人がいます。建設材料の質や量において費用を節約したり、専門的知識を持つ技術者を雇わずに費用を節約したりすることにより、建設基準に合わない建物ができる可能性があり、長い目で見ればより費用が掛かることになるということを、人々に知らせる必要があります。プロジェクトでは、建築許可実務手順書(Building Construction Working Procedure:BCWP)の改訂によって、建築主は自治体に登録された設計者、建設業者、施工監理コンサルタントを使うことを義務付けます。また、設計者、建設業者、施工監理コンサルタントの自治体への登録料を無料にします。これにより、建設許可で承認された図面のとおりに実際の建設が行われることが期待されます。
  • 回答者の約半数が建設許可手続きにネガティブなイメージを抱いています。手続きには時間、費用、多くの書類が必要であることは否めません。しかし、なぜ時間がかかるのか、それぞれのプロセスにこめられた意味などが理解されれば、ネガティブなイメージも軽減できます。プロジェクトでは、手続きの一部を改訂し、自治体、建築主、施工監理コンサルタント、建設業者に対するガイドラインやマニュアルの作成、トレーニングや啓発活動を行います。また、建築主に対して基準遵守に関するオリエンテーションに参加することを義務付けます。これらによってネガティブイメージが減ることが期待されます。
  • 回答者の70%以上の人が、基準を守ることによって安全で強く地震に強い建物ができることを理解していることがわかりました。また、回答者全員が規則を守らなければ何らかの障害が生じることを理解していますが、ペナルティがかかると考えている人は10%以下でした。プロジェクトでは、建築許可実務手順書(Building Construction Working Procedure:BCWP)の改訂によって、基準を遵守しない場合のペナルティを厳格化するとともに、基準の遵守を促進するために、インセンティブの仕組みを検討していきます。