プロジェクトニュース 第33号
ジェンダー研修の重要性 ~トマト農家への病害虫対策~
SHEP BizプロジェクトにJICA本部からOJTとして参加している城ノ口です。今回は、5月9日~11日にNyeriとMachakosの2カウンティを対象にしたジェンダー主流化TOT(Training of Trainers)の様子をOJT目線でお届けいたします。
そもそもですが、なぜ小規模農家の所得を向上させることを目的としているSHEPでジェンダー研修を実施するのでしょうか。ジェンダー研修の必要性を示す具体例として、一つエピソードをご紹介します。実際の研修でも使用されているエピソードです。
「あるケニアのNGO職員が病害虫被害に苦しむトマト農家たちに向けて技術研修を実施しました。研修の数か月後、再び現地を訪れたNGO職員は、なにも状況が改善していないことに気付きました。原因を調査したところ、トマト栽培は女性の手によって行われているのにも関わらず、研修に参加していたのは男性ばかりだったことがわかりました。そこでNGO職員は、あらためて女性向けに研修を実施しました。今度こそ成果が出ると思いましたが、数か月後に再度現地を訪れたNGO職員は、またしても何も状況は改善していないことに気がつきました。」
なぜ、状況は改善しなかったのでしょうか。実は、トマト栽培は女性の手によって行われていましたが、病害虫対策の導入に関わる家計の使い道を決めていたのは男性だったのです。
このエピソードのように、ケニアの小規模農家では夫婦間でお互いの仕事・経験・知識が共有できていないために、多くの非効率が生まれているのです。このような現状を踏まえ、SHEPでは夫婦がお互いに「営農パートナー」として協力し合って農作業・経営にあたることを推奨し、生産性を向上させることを目指しているのです。
以上が、なぜSHEPでジェンダー研修を実施するのかについての分かりやすい事例でした。次にジェンダー研修では具体的になにをするのか、またどのように実施するのか、WhatとHowの部分について簡単に紹介します。
SHEPのジェンダー研修では、夫婦間の役割分担や、家計の使い方、日々のスケジュールを可視化することでジェンダー間の認識の差異を分析します。中でも面白いと感じたのが、写真1, 2のFarm Family Budgetingと呼ばれるツールです。夫婦間でお互いの収入・支出をトップ10から順に書き出し、それぞれにどのくらいの金額を使っているのかを可視化します。教育費や医療費はもちろん、教会への寄付や美容費など、日本との違い、男女の違い、大変勉強になりました。皆さんは、どのように感じますでしょうか。
Howの部分については、特に印象に残った二点について紹介します。一点目は、各テーマで一度男女別々のグループに別れて議論した後、あらためてお互いに再度集まって意見の共有・議論をする点です(写真3)。意見を共有する際には、お互いの認識の差が一目瞭然でわかり、議論も大変白熱します。
二点目は、一人一人に役割をもたせることで、より能動的に研修に参加するようにしている点です。SHEPの研修では、各テーマについて議論の結果をプレゼンする時間が設けてあり、それぞれのテーマで普及員が少なくとも一回プレゼンターを務めるよう役割を割り振ります(写真4)。アウトプットの機会があるので、議論にも前のめりで参加するようになり、おもしろい仕組みだと感じました。
最後に、ケニアの研修では恒例の独特な拍手儀式(写真5)を添えて、今回のレポートを締めたいと思います。日本だと会の最後に一本締めなんかをするのが一般的かと思いますが、ケニアでは無限に種類があり、また会の最後だけではなく会の途中に1日10回くらいやります。時折ダンスが混じったりしますが、今回は基本形の一つ、Moja(1), Mbili(2), Tatu(3)に合わせてそれぞれで手締めパン!パンパン!パンパンパン!をお願いします。それではMoja! Mbili, Tatu!
写真1 Farm Family budgeting (女性)
写真2 Farm Family budgeting (男性)
写真3 男女別のグループ分け
写真4 各普及員のプレゼンの様子
写真5 ケニア恒例の手締め