プロジェクトニュース 第38号
アップスケーリングとは?
~持続可能なSHEPアプローチの普及方法~
SHEP BizプロジェクトにJICA本部からOJTとして参加している小林です。今回は、2024年10月14日(月)~15日(火)にNyeriカウンティのKieni Eastサブカウンティで農家グループに対して実施したアップスケーリングに関するモニタリングの様子をOJT目線でお届けいたします。
アップスケーリングとは?
SHEP Bizプロジェクトのトレーニングを受けた普及員が、カウンティの予算を用いて継続的にSHEPアプローチの4ステップを踏んで農家を指導していく活動です。
アップスケーリングで研修を受けた農家グループへのヒアリングでは、市場調査を通してGrow and Sell (作って売る) からGrow to Sell (売るために作る)への意識改革が行われたことを感じとれました。また、作物を植える正しい間隔や殺虫剤の使い方、記帳の仕方なども学べたことで収入向上に繋がったとのことでした。
ヒアリングの内容を踏まえて、私はアップスケーリングの利点は二つあると考えました。
①カウンティによってSHEPアプローチの普及が行われる持続可能なモデル
②ローカライズしたより効果的なアプローチを実現可能
1点目は、カウンティまたはサブカウンティの予算・人員を軸としてSHEPアプローチの普及が行われるので持続可能なモデルであると考えることができます。今回訪問したKieni Eastサブカウンティでは、農業普及員の業務評価項目にSHEPアプローチのトレーニングを実施したかどうかが含まれているそうです。つまり、SHEPアプローチの普及に貢献したかどうかが農業普及員としての評価につながるるということです。このようにSHEPアプローチの普及がカウンティ内で体系化されることは望ましいことだと思います。
2点目については、地域の特性を理解したサブカウンティの農業普及員がトレーニングを実施することで、気候や社会的・文化的要素を加味した市場調査を農家が行えます。
他方、課題もあります。まず、リソースの問題です。カウンティの予算・人員不足により、SHEPアプローチの普及を行う体制を整えることができないなどの課題が見られます。また、異動や新規採用に伴う農業普及員の追加SHEPトレーニングについては、カウンティの予算とSHEP Bizのコストシェアを前提としているので、新たな人材を育成できないケースもあります。他にも普及員に供与しているタブレット上でのモニタリングシステム(Kobo ToolBoxで制作)を上手く使いこなせず、報連相が上手くいっていない事例も確認できました。プロジェクトは一つずつ着実に課題を解決していく必要がありそうです。
カウンティ・サブカウンティの行政官からは「交通費を自ら支払っても、農家の方々の成長を実感できることがモチベーションで仕事にやりがいを持っている」との声がありました。
このようにSHEPアプローチでは、技術移転だけではなく、いかに受益者が自律して、内発的なモチベーションによって活動をできるかを考え、現地の文化やリソース、社会的特性を考慮したプロジェクトであるからこそ、大きな成果が生まれているのだと感じました。
この考え方はSHEPだけでなくJICAの他のスキームにも人材育成の観点から適応可能なアプローチだと思います。実際に農家の方から生の声を聴ける現場に同行させていただいたことは貴重な経験となりました!
参照
SHEPアプローチと広域化について | 事業・プロジェクト - JICA
Mwihoko Randi Women Groupでのヒアリング・講義風景
Mwihoko Randi Women Groupでの証明書贈呈の様子
行政官・農業普及員とのアップスケーリングに関する議論の様子