脱炭素に向けたベトナム各省横断型の管理職レベル訪日ミッションの実施

2023年4月24日から26日にかけて、ベトナム天然資源環境省(MONRE)気候変動局のクアン局次長を団長とした、6省横断型(天然資源環境省、交通運輸省、首相府、商工省、建設省、財務省)の管理職を中心とした訪日ミッションが実施されました。

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本訪日ミッションでは、JICA気候変動技術協力が展開する国・セクター・民間事業者を対象とした協力に関して、日本の制度運用や経験から実地で学び取ることを通じて、これら協力の底上げと強化を目的としたものです。

本ミッションでは省庁(環境省、経済産業省)のほか主要民間団体(経団連)を訪問し、2050年カーボンニュートラル宣言を踏まえた国内政策の進展の把握、事業所GHG算定報告公表システムの運用、民間セクターでの取り組み状況や脱炭素投資を下支えするGXの方向性などについて活発に議論がなされました。併せて、Waste to Energy/CCU(Carbon Capture and Usage)の実証実験施設などを訪問して要素技術について理解を深めました。

JICA本部訪問

冒頭、地球環境部・松岡課長より挨拶があり、本SPI-NDCプロジェクトは主要政策の履行を通じたベトナムNDC実装を促進し、また民間セクターの脱炭素への参画を橋渡ししており、ベトナム商工会議所との関係強化を期待することがのべられました。また岸田首相が世界の成長に重要な役割を果たすアジアへのネットゼロの取り組み支援を約束する中、本プロジェクトの活動、パートナーシップの強化・活用によるNDC達成に期待するとコメントがありました。

これを受けてベトナム天然資源環境省のクアン局次長(越政府団長)より、プロジェクトを通じた支援への感謝がのべられ、特に日本人の専門家の貢献度は大きいと、このプロジェクトへの高い評価をされました。今後のNDC目標達成のためにもJICAからの支援が不可欠と考えており、特に各省庁の連携と民間の連携の重要性を強調するとともに、引き続きのJICAからの支援への期待が述べられました。

その後、福田チーフアドバイザーより、パリ協定実施フェーズ開始以降の日本における最近の気候変動政策の潮流と、民間セクターを取り巻く脱炭素の動きを含めた全体像が共有され、省庁訪問前に参加者への有益な情報が提供されました。

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JICA事務所での面談の様子

経済産業省との面談

日本は2050年カーボンニュートラル等の国際公約と産業競争力強化・経済成長を同時に実現していくため、10年間で150兆円を超える官民のGX投資を進めていくことを方向性に掲げており、そのための審議中の政策であるGX推進法の概要(1)GX推進戦略の策定・実行、(2)GX経済移行債の発行、(3)成長志向型カーボンプライシングの導入、(4)GX推進機構の設立、(5)進捗評価 などについて共有がされました。

協議の中で、日本は実装に向けて20兆円規模債権を発行することで脱炭素投資の原資とすること、その中で水素・アンモニアの推進、省エネ推進、エネルギー転換支援、新技術の開発を行っていくこと、それらと並行して資源循環、研究開発、社会実装もすすめていくことが説明されました。

他アジア諸国と連動するかたちで国内炭素市場の早期構築を目指すベトナム政府からは、2022年度に実施されたGXリーグ市場実証実験の参加者や取引量、クレジット認証と管理などについて数多く質問がなされました。

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経済産業省との面談の様子

環境省との面談

冒頭、環境省・西川インフラ推進官の挨拶より、世界的に多くの投資家が企業の気候変動情報の開示を求めていること、情報開示はサプライチェーン全体に波及し始めている全体潮流について言及がありました。そのうえでベトナムで構築が進む事業所レベルのGHG算定報告オンラインシステムは、アジアではベトナムが先駆けて導入をすすめている事例であり、投資を呼び込み国際競争力を高める試金石となると考えるとのべられ、その参考事例として、長年の民間企業との対話を通じてできあがった、日本の省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム(EEGS)の運用経験を共有する旨の説明がありました。

クアン局次長からは、ベトナムは他省庁連携の確立、民間企業との連携、炭素市場の立ち上げ、排出削減の意識の変革などでまだ課題が山積するなか、環境省の企業GHGモニタリングの実績は非常に重要な取り組みと考えているとのべられ、オンラインシステム構築、報告を通じて扱うデータの正確さ・公正性さの担保の重要性について言及されました。

EEGSシステムを実際に用いた運用説明に際しては、ベトナム側よりデータの受け手の承認の仕組み、省庁間の連携などについて質問がなされました。EEGS実演と併せて、グリーンボンド等の金融商品と環境省の役割について説明がなされ、こうしたツールの要件、債券規模、証券会社や企業の役割、補助金などについて活発な質疑応答がなされました。

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環境省との面談の様子

日本経済団体連合会との面談

経団連と面談では、主にグリーントランスフォメーション(GX)に向けた取り組みと経団連カーボンニュートラス行動計画について協議がなされました。冒頭、経団連はアジア経済フォーラムを有しており、十倉会長が掲げるサステナブルな資本主義の実現に向けて、グローバルサウスも一緒に問題に取り組んでいく必要があるとのべられました。

民間の脱炭素に際しては、経済界として電力、熱源マテリアルが化石燃料を多く使用している現状があり、電力部門は再生可能エネルギーと原子力の活用、熱源は水素・アンモニアの活用が重要になる点に言及がありました。更にネガティブエミッション政策も重要になってくるが一足飛びにはいかないため、LPGなども活用しながら段階的に取り組む必要がある点が併せて述べられました。

ベトナム側の関心が高い政府‐経済団体の関係性に関しては、経済団体による政策提言がハイライトされ、脱炭素実現に向けて経団連は年間15兆円必要と試算し、10年間で150兆円となるため、政府に年間2兆円10年間で20兆円、財源をGX債権発行等を提案し、提言内容が現在GX推進法案に取り込まれ国会審議されていると説明がありました。

経団連カーボンニュートラル行動計画は62の業界団体が参加、各団体にビジョン策定を依頼し2030年までの削減目標を立て、2013年度比17%の削減を目指していることや、技術開発はロードマップを描きながら開発が進められている点が説明されました。

GXにおける経団連の役割として、GXへの投資促進するための税制、蓄電池、水素ステーションの規制緩和、グリーン機器購入の際の税制補助などを政府に打ち込んでいると説明がなされました。

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日本経済団体連合会との面談の様子

JFEエンジニアリング視察

廃棄物発電プラントの計画から施工過程の説明後に、実際にプラントの見学が行われました。当該施設から発電された電力を販売し収益を還元することで持続的なごみ収集事業の運用が可能となっている点が説明されました。また、ベトナムバクニン省で建設が進む廃棄物発電事業についても紹介されたほか、清掃工場「クリーンプラザふじみ」におけるCO2回収実証試験事業についても説明がなされました。

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プラント見学前の説明の様子

JICA本部との総括セッションと協議

冒頭、天然資源環境省気候変動局のクアン局次長より、SPI NDCの事業効果を高めて、フェーズ2にどうつなげるかが面談目的であると期待が述べられた後、オンラインで参加した天然資源環境省のフイ緩和課長より、SPI-NDCプロジェクトの成果と第2フェーズに向けた活動案の発表がなされました。

JICA川西国際協力専門員より、JICA協力への期待に感謝が述べられた後、組織としてのコメントは要請書素案をもらった後にしたいとしたうえで、民間部門へのキャパシティ強化、金融機関との連携強化、民間を巻き込むための制度整備、オンライン報告システム構築のニーズを理解したと述べられました。

その後、交通運輸省、財務省、商工省、建設省、内閣府から参加した各局次長より、それぞれの立場から脱炭素に向けたニーズと教訓が述べられ、有意義な協議となりました。今次訪日で得た日本での潮流からの学びを本年度活動に反映していくことが求められます。

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JICAとの協議の様子