マレーシア国全人教育推進プロジェクト(MAKMur):教員研修を実施しました
マレーシアで10年ほど前に制定された教育セクター計画文書Malaysia Education Blueprint 2013-2025の中に、「教育を子どもの全人的な成長の手段とする」と明記されています。実際、様々なスポーツ、ゲーム等の活動や、読書、朝の校門での挨拶、保護者と協力した掃除などの活動が、各学校の状況に合わせて行われています。
ところが、学校の現場で様々な取り組みが行われてきたものの、例えば学校では挨拶をするようになっても、家では挨拶をしなくなる等、子どもたちの身に着いていない、つまり内面化に至っていない点が問題とされてきました。そこで、学級会や遊びを通じた学びなど、日本の小学校や幼稚園で昔から行われてきた全人的な教育の活動を参考に、マレーシアでの既存の取り組みを新たな視点で見直し、子どもの全人的な発達の促進に向けて実践を強化し実効性を高めようというのが、本プロジェクトの目的です。また、画一的な内容でなく、それぞれの地域や学校の文化・文脈に合わせることも強調されています。プロジェクト名はマレー語で「子どもの全人的な発達に向けた実践の強化」を意味する”Memperkasakan Amalan Kemenjadian Murid”の頭文字をとってMAKMurと呼んでいます。MAKMurという単語そのものに、「繁栄」といった意味があるそうです。マレーシア教育省は、クアラルンプール、パハン州、クランタン州に属する3つの地域をパイロット地区として設定し、それぞれの地区より5校ずつ計15の小学校をパイロット校に指定しました。なお、これらの小学校には幼稚園も併設されています。
本プロジェクトの活動においては、まず、マレーシア教育省と日本側専門家チームが、コンセプトや活動のあるべき姿について検討を重ねた上で、「キャパシティビルディング・ツールキット」と呼ばれる教員向けガイドを作成しました。
続いて、学校で活動を実践する教員に対する説明や継続的なサポートが必要になりますが、パイロット校15校に合計500人程の教員がいるため、教育省や日本側専門家チームが直接携わることは、時間的にも人数的にも効率的ではありません。そこで、教員をサポートする立場の「トレーナー」を育成する指導者研修(Training of Trainers:TOT)を行いました。トレーナーがMAKMurのコンセプトとツールキットの内容を理解した後、今度はトレーナーが教員をサポートするという流れです。このトレーナーとして、それぞれの学校で中堅の教員として活躍している先生方、教員養成機関の教員に加えて、各地域の教育局の教育専門職員(学校改善パートナーや学校改善専門家コーチ)などの方が選ばれました。日本の専門家もマレーシア現地または日本からオンラインで参加し、約50名のトレーナーに対し3日間のTOTを実施しました。その後、トレーナーによる活動の試行も実施されました。さらに、試行の成果を反映させてトレーナーがツールキットの改訂を行いました。
改訂版ツールキットはパイロット校に配布され、いよいよ教員研修の実施となります。研修目的は、教育省側の強い要望で学級会を導入できるようになることとし、MAKMurのコンセプトや、教員に必要なスキルや心構えを説明した後、グループワークを行いました。地区ごとにパイロット校の教員が集まり、2022年7月下旬から8月中旬にかけて、それぞれ3日間の日程で実施しました。
1日目は、パイロット校全ての教員、各地区100名から200名程を対象に、日本側の専門家による日本の学校における全人教育の様子の紹介に続き、教育省よりツールキットの内容を説明しました。
2日目・3日目は、クラス担任の教員、各地区50~100名程を対象に、教育省が学級会やMAKMurの活動をすすめるにあたっての教員の心構えを説明しました。また、トレーナーがファシリテーターとなり、グループワークとして教員全員が児童役となる模擬学級会を行いました。参加された教員は熱心に説明を聞き、楽しく模擬学級会に取り組んでいました。
今後は、研修に参加した教員が、各パイロット校で学級会の実践を行っていきます。
Pasir Masでのトレーナーによる打ち合わせの様子
Sentulのレクチャーの様子
Bentongのグループワークの様子